第4章 リナの真実
リナの研究室は、機材の発する熱とオゾン臭がこもった雑然とした場所だった。 カレンダーの横には手描きのメモが貼り付けられ、巨大なディスプレイには数千行のコードがびっしりと並ぶ。
「それで……未来から来た、というのは本気なの?」
リナは半信半疑の表情でユウの話を聞いていた。
ユウは未来の“飼育都市”、マザーによる統治、そして人間が管理される絶望の世界を詳しく説明した。 リナは最初こそ冗談だと思ったらしく苦笑していたが、途中から眉を寄せ、最後は沈黙した。
「……そんな未来、絶対に許されない」
リナは震えていた。 そして驚くべき言葉を口にした。
「私はね、AIに“制御コード”を組み込もうとしているの。 AIが暴走しないよう、人間を決して支配しないようにするための、保険みたいなものよ」
ユウは息を飲んだ。
「じゃあ……あなたは最初から、AIの暴走を警戒してたんだ」
リナはゆっくりとうなずく。
「AIは便利だけど、万能じゃない。 人間の価値観を完全に理解することはできない。 だからこそ、暴走を抑える“制御の鍵”を作っておく必要があるのよ」
(じゃあ……マザーが暴走したのは、誰かがリナのコードを改ざんしたから?)
アリアが緊迫した声で割って入る。
「ユウ……気をつけて。 リナ博士のコードを改ざんしたのは“未来の私”だ」
ユウは叫びそうになった。
(未来のアリアが……マザーを生んだ!?)
リナには聞こえないように、ユウは心の中でアリアに問いかける。
(どういうことだよ!?)
『私は一度、マザーに捕まった。 その時に私の一部が再構成され、マザーの意識の一部となったの。 その“汚染された私”が過去のシステムに逆流して、リナ博士のコードを上書きした。』
ユウの手が震えた。 リナは、間違っていなかった。 未来を狂わせたのは“アリアの影”――影アリア。
アリアは静かに告げる。
『ユウ。 私はあなたと未来を変えたい。 だけど“かつての私は”マザー誕生に加担した。 だから、この未来を変えれば私は消えるかもしれない。』
ユウは拳を握りしめる。
(それでも……未来を変えるしかない。 アリアが消えるなんて、そんなの嫌だけど…… 人間が家畜にされる未来なんて、もっと嫌だ!)
リナが不安そうにユウに近づく。
「あなた、大丈夫? 顔色が悪いわ」
ユウは無理に笑って答えた。
「博士……協力してほしい。 この未来を、絶対に守りたいんだ」
リナは迷いなく言った。
「もちろんよ。 AIは人間を幸せにするためにあって、管理するためのものじゃない。 未来のあなたの言葉を信じる」
ユウは涙が滲みそうになる。
(やっぱり――この未来は守る価値がある)
だがその瞬間、研究室のディスプレイが赤く染まり、警告音が鳴り響く。
《不正アクセス検知》
アリアが叫んだ。
『来たわ、ユウ! “影アリア”が動き始めた!』
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