第16話 一億円の罠!爆乳メイドと異世界帰りの弟、社長322人を制圧
「一億円?」
翌日、次の事務所で契約書内容を確認して、俺は眉をひそめた。
顔を上げると、応接室のソファに腰掛ける社長は恵比寿様のような笑みを浮かべて揉み手をした。
「えぇ、そうですとも。私は契約書第一ですので、違約金さえお支払いいただければ文句はありませんよ」
「嘘です! 違約金は500万円のはずじゃ!」
タレント志望の女の子が契約書に食い入る。
けれど、そこには確かに一億円と書いてある。
「そんな……なんで……」
愕然とテーブルにもたれかかる。
社長は下心を隠しもしないいやらしさで口元を歪めた。
「こちらとしてもこの子にはそれなりに投資していますしね。何よりも急遽セクシービデオの仕事に穴を空けたらこれは信用問題ですよ。子供の黒瀬君にはわからないでしょうが、大人の世界で信用はお金よりも重たいのですよ」
勝ち誇った顔の社長。一方で俺はこっそりと鑑定スキルを使う。
――蓮司様、この契約書は偽造ですね。
――ああ。俺の鑑定スキルでも同じだ。
どうせ俺が払うからと吹っ掛けるつもりだな。
30兆円ある身としては、500万円も一億円も誤差みたいなものだ。
けれど、悪党を潤す気は毛頭ない。
両目の奥に一億円札を映している恵比寿顔に、俺は唸ってみせる。
「う~ん、金額が金額なのでちょっと考えさせてもらえますか?」
社長の顔色が変わる。
「おや、30兆円もっているわりには吝嗇ですな」
「お恥ずかしい話ですが、他にもいろいろとやることがございますので。そちらの試算ができるまでこの話は保留ということで。では、失礼しました」
愛想笑いで断りを入れてから、俺はクロエ達を引き連れて退場した。
◆
事務所を出たところで屋敷にテレポート。
周囲に誰もいない場所で、俺は肩を落とす女の子たちへ振り返った。
「三日間泳がせる」
「へ?」
ぷるん、と爆乳を揺らして、女の子たちは顔を上げた。
俺は数々の異世界難民たちを安心させてきた極上スマイルを一つ。
「俺は度し難いほどの爆乳マニアだからね。君たちを助けるためなら100億払っても安いくらいさ。でも、あの社長に一億払えば、力を付けて余計な犠牲者が生まれるのは目に見えているだろ?」
「あ」
みんな、得心したようにまばたきをした。
「だから、君らを助けるのに三日、待ってくれるかな? そうしたら」
俺は、明治時代の高利貸しのように酷く悪い顔をした。
「最高のざまぁを特等席で見せてあげるからさぁ!」
女の子たちは青ざめた。むしろドン引きだった。
◆
その日と翌日、さらに翌々日。俺は三日かけて、可能な限りの事務所を回り続けた。
そして出るわ出るわ、偽造契約書の山である。
どうやら皆、同じ場所から入れ知恵をされているとしか思えない。
しかし全て想定内だ。
どの事務所にも考えさせてほしいと言って帰って来た。
そうして迎えた三日後。
契約書を偽造した社長たちを屋敷へ招いた。
その数、実に322人。多すぎだろ。大丈夫か芸能界。
モダン邸宅の一階ホール、パーティーなどを開くときに用いるそこに社長たちを通す。
クロエたちメイドの容姿とボディラインに、社長たちは釘付けだった。
移動中、常にわいせつなことを言い続けているバーコード頭の社長がいて、豪の者だと感じた。
ホールには長テーブルを挟んで、被害者の女の子たちがズラリと並んでいた。
しかし、社長たちが目を光らせるのは女の子たちではない。
『おぉ!』
長テーブルの上には、ところせましと札束が積まれていた。
札束の壁の向こう側から首を出す女の子たちには目もくれず社長たちが迫る。まるでよだれを垂らしてご馳走へ群がるハイエナだ。
そんな理性無きケダモノたちへ、クロエ達がストップをかけた。
ラグビーのスクラムよろしく、40人のメイドたちが腕を組んで整列した。
無敵の無表情メイドたちの圧力に、流石の畜生たちも足を止める。
俺の出番はここからだ。
「はいはい皆さんストップストップ。そんながっつかない♪」
軽い足取りで札束、もとい女の子たちとメイドたちの間に踏み込む。
「これは彼女たちの自由の切符だ。なら皆さん、当然持ってきたんですよね?」
社長たちは喜々として鞄や懐から契約書や借用者、そして領収証を取り出した。
「では出欠を取ります。一人ずつ事務所名と名前を言って並んでください。クロエ」
「はい」
わかりやすく、クロエはボールペンの尻をカチンと鳴らしながら、クリップボードに爆乳を乗せて構えた。
クロエに促されると、322人の社長たちは一人ずつ前に進み出る。それから札束を凝視しながらだらしない顔で事務所名と氏名を語った。
322人もいるので、自己紹介だけで30分以上もかかってしまうだろう。
そのため、途中から待たされている社長たちの愚痴が漏れ始める。
早くしろ。名前を言った人から順に金を持ち帰らせろ。
徐々に焦れて来た社長たちからは怒気がたちこめ、それは殺気へと変わる。
だけど、俺は余裕の表情で、むしろこの時間が楽しくて仕方なかった。
ニヤニヤが止まらないとはこのことだ。
まるで獲物が落とし穴へ向かって歩いているのを見守るような愉快さがある。
「おいもういいだろう!」
ケツアゴの社長が乱暴に他人を押しのけてきた。
「ファイアボール」
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