冥土館の殺人
推草風時
序章 私は殺された
お帰りなさいませ、ご主人様。
今日は随分と夜分まで伯爵といらっしゃいましたのですね?
いえ、こちらは特に問題はないです。それよりご夕食の準備が出来ましたので、この通り玄関先までお迎えに上がりました所存でございます。
私達使用人は亡命なされたご主人様の住む屋敷を守り、日々の仕事でお疲れになった体を癒していただくために毎朝毎晩日常のお世話をすることが義務なので。
それに最近国内ではオークションの主催者を謳った誘拐事件が多発している様子。どうかご主人様も夜遅くまで仕事するのは大変いいことではございますが、くれぐれも怪しい容姿をした人物には出くわさないように置きお付け願いたいと存じます。
それではまず、先ほどあなた様が羽織っていたコートをこちらでお預かりします。
それから伯爵様から頂いたお品物も保管庫に持っていきたいので、こちらのコートと同様、こちらの使用人アリスに持たせていただきたく存じ上げます。
また、ご主人様も理解の承知が行き届いているかはわかりかねますが、アリスは少々ドジなところが御座いますがこれでも彼女は私達同様、ご主人様の所有物なのでございますから、どうかハウスキーパーである私の指導が行渡っていないときはご主人様自らがアリスにご指導されますよう、心から強く願っております。
また彼女はあの有名な童話作家から姓名を戴いた孤児なのですから、どうか彼女にご不満があったとしても、できるだけ暴力や暴言などはなさらないようお願いします。
それでは食堂へ行く準備が整いましたので、どうぞこちらへおいでください・・・
19世紀英国にある孤島。ここではある使用人を殺害した容疑により処刑された亡命貴族が山の中の濃い霧が辺りに分散してくかのように資産家や公爵家令嬢の心の闇に入り込んでは、自身の屋敷に連れ込み、趣味であった拷問や処刑によって生み出された新鮮な肉を食堂の料理人たちに調理させ、その人生をあざ笑うかのように愉しんでいたとされている。
元侯爵の身分であるガルーダ=グリモファイスもまたその中の一人であった。
一見彼は礼儀も良く、落ち着いた紳士のような佇まいを漂わせる人物であったが、
それとは裏腹に家族の住む屋敷に火を点け殺害したという残忍な顔を持ち合わせていた。また彼はロンドン街の陰で暮らす貧民の娘を攫っては自身の屋敷にて雇うという話を持ち掛け、使用済みになった暁にはその肉を食する暮らしをしていた。名付けるならば”残酷の侯爵様”である。
そんな彼に似ているのか、FBI捜査官であるこの俺、雀宮熹郎もまた過ちを犯していた。
2018年11月28日 アメリカ合衆国・ロサンゼルス 日本時間午前2時35分
「追いつめたぞ!!テロ組織の首謀者モハンマド!!」
「くうっ!!ちくしょう!!」
連保捜査局。通称FBI。司法省に属するアメリカ国内の警察署で、日々窃盗や殺人、国際テロ組織の犯行を阻止するなど多忙な日々を送っている、いわば東京にある警視庁のようなところだ。俺はFBIの捜査官兼日本人初の警部としてテロ組織S.K.A.Rの足取りを探っていた。だが奴らは一向に尻尾を出さず、捜査は困難を極めていた。
「くそっ!!こうなったら!!!」
だが偶然と奇遇は常に隣り合わせなのか、奴らが行う爆破テロに関わる重要な証拠に繋がる資料を同僚であり親友であるマークスが派遣先であるドイツの捜査局本部から条件付きで譲り受けたと報告が上がった。
「おい!こいつがどうなってもいいのか!!」
すぐさま俺らは現場に急行し、爆弾を仕掛けてられているテキサス州のとあるビルに向かった。関係者にはビルに入る許可取りをしてもらい、256階にいるであろう奴らのアジトへ転がり込んだ。その瞬間、有無を言わさず銃撃戦が始まり、警部である俺と捜査一課が応戦に挑んだ。だがその最中、マークスが首謀者であるムアル・モハンマドに捕まり、仲間と交換の代わりに持ち物を渡せと交渉してきたのだ。当然、俺はその交渉を断ろうとしたが、モハンマドはマークスの喉にナイフを突きつけながら、次のように言い述べた。
「どうしても俺たちに逆らうならこのビルごと爆破してもいいぜ?」
そんな見え透いた脅しに乗る俺ではない。姿勢を崩さず、黒く光る拳銃を構え、ターバンに隠れた額めがけて一気に引き金を引いた。
「ぐはっ・・・」
モハンマドは倒れ、両手からマークスを離したかのように見えた。
「よかったマークス。お前がいてくれて・・・」
だがそんな甘い考えは爆弾の制限時間が残り1分を切ったことによって覆された。
「すみませんスズメミヤさん」
「マークス?」
どうやらモハンマドの近くにあった執務机の裏にはもう一つの爆弾が仕掛けられていた。しかも制限時間は残り30秒しかなく、俺ら捜査一課は爆弾処理班とマークスを残してビルを去らなくてはいけなかった。
「来いマークス!!お前を残してFBI本部に戻る訳にははない!!」
俺は必死にマークスに呼びかけたが、彼は首を横に振り、扉が閉まり切る頃にはマークスは執務机に仕掛けられた爆弾の解除に向き合っていた。
「さようならスズメミヤさん。私の愛したただ一人の親友・・・」
その言葉を最後に親友のいるビルは粉々に吹き飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます