第14話 週末の帰宅

訓練開始2日目の朝、全身を走る痛みで目が覚める。


「いたたた・・・」


「おう、今日も早いんだな。死んだように寝てるからもう少ししたら叩き起こそうかと思ってたところだ。」


相変わらずの容赦の無さに嫌な顔が思わず出てしまう。


「そんな顔するな。実はな、お前が寝ている内に良いもの貰ってきてやったんだ。」


先生からのそんな言葉に一気にテンションが上り痛みなど忘れてしまう。


「まさか、本ですか!?」


「馬鹿を言うな。なんでそんな高価なもん、お前にくれてやらなければいかんのだ。それに本は今はいらいないんだろう?」


先生に呆れられた顔をされたので「言ってみただけです。」と真面目に答える。


「はぁ、これだよ。」


そう言って差し出されたのは1丁の包丁であった。


「うわぁ!早速用立ててくれたんですか!?」


これには素直に驚いた。まさか昨日の今日で用意してくれるとは思っても見なかった。


「おう、昨日お前がへばってる間に鍛冶屋に行ってな。丁度仕上げ最中のがあるからって言うので今日の朝一番で貰ってきたんだわ。」


仕上げてもらったばかりと言うだけあって、正真正銘の新品の包丁であった。


「うわぁ・・・。凄く綺麗ですねえ・・・。」


手に取り、その綺麗な包丁に思わず見とれてしまう。


「そうだろう?ここの鍛冶屋は腕がいいからな。気をつけないと指くらい簡単に落とすぞ。」


確かに指どころか腕位簡単に切り落とせそうなぐらいに思える仕上がりに思えた。


「そういえば、鍛冶屋には行ったこと無いのか?」


先生が疑問に思ったのかそう聞いてくる。


「基本的に使うものは年代物の中古品ですし、壊れてしまったら素材屋に引き取ってもらいます。包丁の刃を研ぐぐらいなら自分でも出来ますしね。」


「なるほど、そんなもんか。」


そう言いながら先生は無精髭を撫でている。


「まあ、大切にしろ。」


その言葉に素直に「はい!」と答え感謝を伝える。


「じゃあ、飯の支度だ。」


そう言われ、新品の包丁が手に入ったことが本当に嬉しく、身体の痛みもそこそこに今日の一日の料理を作る。

そして、食事が終われば昨日の地獄の行進の再開である。


数日経ち、身体を鍛え、いじめながらもなんとかシスター達と約束をした最初の週末の前日の夜となり一時帰宅するための支度をする。


「ようやく週末だ・・・。本当に長かった・・・。」


そうボヤいていると先生が後ろから現れる。


「何だ、もうホームシックか?ここでの生活が嫌ならそのまま帰ってこなくてもいいんだぞ?」


「残念ですが帰りたくてもここが今の家なのでここに帰ってくることにします。」


皮肉たっぷりに先生に答えると、「そうか。」と若干笑みを浮かべていた。


「それよりも先生は僕を送り届けてくれた後どうするんです?」


「お前を送り届けた後は、狩りで得た物を素材屋などに引き取ってもらった後、必要なものを得てから一度こちらに帰宅する。週明けの朝にまた迎えに来る。」


当たり前のように言われて驚いたが、確かに僕が休憩中などにちょこちょこ姿が見えなくなる時があった。

そして日が明けると前日まで見たことがなかったような素材や食料などが置いてあることがあったことを思い出す。


「そうか、先生あの時仕事してたのか。」


頭の中で言ったつもりが口に出てた様子で「お前は俺をなんだと思ってるんだ?」と冷たい視線を送られた。


「い、いえ・・・。普段があまりにもきつかったので頭に情報が入ってきていませんでした。」


「まだまだ、状況の把握が遅いな。これからも励むように。」


そう言われ頭をグリグリとされる。なぜ?


翌朝になり、何時ものように食事を作ろうとしていると、可能ならば先生の分だけでもお休みの帰省中の2日分、「仕込みだけでもしておいて貰えると助かる。」と珍しくお願いされる。


これは僕の料理の味から離れられなくなったな、勝利!と自分の中で勝利宣言をしておいた。

勿論日頃から世話になっているので快く了承する。

代わりと言っては何だがと、教会にお土産を持って行くとのこと。


やったよ!みんな!大勝利だったよ!!


相変わらず先生は歩く姿が自然で本当に義足なのかと疑いたくなる姿だった。

それも今日は、素材屋などに卸すための素材等を荷車で引いている。


これが体幹や重心を鍛え抜いた完成形なのかと素直に感心してしまう。


そうこう言っている間にも少し前までは当然のように暮らしていた教会が目に入り、若干小走りになってしまう。


「やはり、こういう所は年相応の子どもだな。」と先生の声で聞こえたような気がしたが、今は気にしない。


いよいよ目前まで迫った所でリリーが、突撃してくる。


「ニクスーーー!おかえりーーー!!」


あまりの速度に思わずリリーの頭が僕のお腹にめり込み双方うずくまってしまう。


「あらあら、二人とも。何をやっているんですか。」


そう言いながらシスターも姿を表し、その声を聞いた瞬間思わず込み上げるものがあった。


「おかえりなさい、ニクス。」


「ただいま帰りました、シスター、リリー。」


きちんと背筋を伸ばし教会へ帰宅する。

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