第2話 新たな世界に生まれ落ちて

(ざーーーー)




雨音が聞こえる場所にその教会はあった。




「あらあら、まぁ!なんてことでしょう!」




修道服を身にまとった初老の女性が驚いた顔で教会のドア横に大きな布に大切に巻かれ、小さな籠に入れられた状態の男の赤ん坊を見つけ大慌てで近寄り、抱きかかえる。




「ああ、良かった。多少濡れてはいますが怪我などは無さそうですね。」




教会のシスターと思われる初老の女性は慣れた手つきで抱えた赤ん坊の容態を確認し、籠ごと教会の中へと移動する。




「こんな雨の日に、寒かったでしょう。」




シスターは赤ん坊の身体を拭きながら、優しい声で語りかける。




「もう安心してくださいね。ここはどんな事情があろうとも、あなたを受け入れる新しい家ですから。それにしてもこの子、雨に当たっていたというのに一つも泣きもしないで・・・。」




若干悔しそうにも、悲しそうにも聞こえる。




「それにしても本当に綺麗な黒髪。目もパッチリしていて金色の瞳に思わず引き込まれてしまいそう。」


「あら?そういえばこの布・・・、普通の布よりも大分良い布のような・・・?」




確かに一般家庭が使うにはもったいないような布にその赤ん坊は大切そうに包まれていた。




カサッ




布を確認していると一通の手紙と不思議な懐中時計が赤ん坊の下から出てきた。




『大変勝手ながら、この子を光の神の下に御返しいたします。それと、この時計は私からのせめてもの贖罪です。どうかお許しを・・・。』




手紙とともにこれもまた、非常にシンプルながらも立派な金無垢の懐中時計が入っていた。




「まあ、本当に立派な懐中時計。あら?でもこの時計、壊れてしまっているわね・・・。」




懐中時計は何故か0時ぴったりに針を刺したままピタリとその動きを止めていた。




この世界の懐中時計は精密な歯車と共に、『魔石』と呼ばれる物が動力源として使われていた。




この世界において『魔法』を行使するためには、まずこの世界のあらゆる生物や大気中に存在している『マナ』を正しく消費することで初めて発現する物であり、この世界の生命体にはマナを貯蔵する臓器が存在する。


その臓器でマナが結晶化したものを『魔石』と呼ばれ、この世界では有益なエネルギー源として幅広く活用されている。




「それにしても、『光の神』様ですか・・・。」




シスターは少し困惑した笑みを浮かべなる。




この世界は特定の神は存在せず、この世界を形作るすべての存在には『神』と呼ばれるモノが宿ると言われている。




「そうだわ、ニクス!あなたの名前はニクスにしましょう。」




そうしてその赤ん坊は光を意味する<ニクス>として呼ばれることとなった。

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