第10話 これは偶然じゃない 【澄恋視点】
澄恋視点——……★
母を亡くしてから、私の人生は一変した。
ううん、本当はもっと前から予兆はあった。
父に母以外の女性がいるのは前から知ってはいたけれど、まさか後妻として迎えるとは思っていなかったし、私に姉がいることも知らなかった。
「アンタが私の妹? ふん、地味な女」
明るくて思ったことをすぐに口にする姉、真由は、すぐに家の中心となった。誰もが彼女と彼女の母の機嫌を取る。死んだ母の娘である私の立場は、すぐになくなってしまった。
「家を追い出されないだけマシだと思いなさい。でも、成人したらすぐに出ていってもらうから、覚悟しなさいよ!」
屋敷の隅で、ひっそりと存在を隠しながら生きる日々。そんな私の唯一の味方は、母の昔からの親友、音無雅代さんだった。
「可哀想に……。澄恋ちゃん、あなたさえ良ければ、私の養子にならない?」
「雅代さんの……養子?」
「えぇ、あなたが赤ん坊の頃からずっと見てきたんだもの。娘も同然よ! きっと天国にいるあなたのお母さん、
私の居場所がない冷たい家から出られるなら、それでもいいと思っていた。雅代さんがお母さんなら、私も安心して暮らせると。
だけど、その案は父によって却下されてしまった。世間体が悪いと……。
自分の娘のことを蔑ろにしておきながら、何が世間体だと自分の生い立ちを恨んだけれど、雅代さんは諦めずに次の策を考えてくれていた。
「それなら嫁になればいいじゃない! ねぇ、澄恋ちゃん。うちの蓮の婚約者になりなさい!」
私よりも四歳年上の雅代さんの一人息子、音無蓮さん。
だけど私は、別の形でその名前を耳にしたことがあった。
姉、真由からだった。
「ねぇ、パパァ。うちのクラスに音無くんっているけど、たしかパパの取引先の息子だよね?」
「あぁ、そうだな。たしか三条グループの音無常務の息子じゃなかったかな?」
「ふぅーん。ってことは、ウチの会社よりも格下ってことだよね? それじゃ、私にも逆らえないってことだぁ」
真由の話を聞く限り、音無先輩も彼女に絡まれている可哀想な人だと思っていた。
だけど、一方的に虐げられている私と違って、彼は強くて凛としていて——憧れていた。ずっと、ずっと……彼のように強くなりたいと願っていた。
(音無先輩みたいに強くなれたら……きっと私の世界も、少しは変えられるのかな)
そして雅代さんから婚約の話を打ち明けると言われた日に、私は先輩に気持ちを伝えたくてバレンタインチョコを用意して渡したのだった。
あんな素敵な人が私なんかに興味を持ってくれるのかも不安だったけど、もし、叶うなら……。
結果的に、一度は断られたお見合い話だったけれど、もしもう一度会えたなら、その時こそ想いを伝えられるくらい強い自分でいたい……そう思いながら年月を重ね、そして再会を果たした。
でも、私はこれは運命でも偶然でもないことを知っている。
「澄恋ちゃん、あなたなら大丈夫よ。うちの莫迦息子は変なところはあるけど、根はいい子だから安心して」
ずっと私のことを気にかけてくれた雅代さん。父や継母からも見放されていた私の為に学費まで援助してくれたことは、一生忘れない。
そして十年以上……想い続けていた片想いを実らせる為にも——この恋だけは諦めたくないと決めていた。
「好きです、先輩。きっと先輩が思っているよりも、ずっと」
もう一方的に告げる言葉じゃない。
今は私の言葉を受け止めてくれる人がいる。
「俺も好きだよ、澄恋さんのことを世界でいちばん大事にしたい」
この先、どんな障害があっても乗り越えたい——……ううん、先輩とならきっと、どんな未来も怖くない。
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