嘘っぱちのエデン
エブレン・欠片
新創世の記録
愚行の時代が幕を閉じてから、百五年が過ぎた。核の灼熱と銃火の灰の中で、人類は自らの歴史と——「自由意志」という最後の火種を——葬った。自由意志——それは、人に統治の責を負わせるという、破滅の種であった。人々は過ちを繰り返し、国を築いては壊してきた。
第三次世界大戦は、未曾有の死と破壊をもたらした。だが、世界の悪夢はまだ終わらなかった。次に訪れたのは、大地を引き裂き、文明を沈めるほどの破滅級の地震。人類は、その災厄でわずか十分の一にまで減った。
その余波で、世界の中心に穿たれた巨大な裂け目、「深淵(カズム)」が裂け広がり、黒き瘴気を噴き出して大地を蝕みはじめた。ほどなくして、異界の花のごとく、地を破って「星爆樹(スターバースト・ツリー)」が咲き乱れた。 スターバースト・ツリーは黒き瘴気を養分として貪り喰らっていた。
混乱に呼応するように、「フィアスコ」と呼ばれる人喰いの化け物たちが屍の山から現れた。そうした怪物たちは戦場をさまよい、人間の集落にも侵入しては犠牲者の肉をむさぼった。
同じころ、ごく限られた人々に異常な能力が現れはじめた。「エニグマ」と呼ばれるその力によって、世の中の主導権はこうした特別な存在たちへと移っていった。この力を得た者たちは支配権を争い、世界に新たな混沌をもたらした。中には、自らを神と名乗り、人々を奴隷にし、貢ぎ物を要求し、気ままに殺戮を繰り返す者さえいた。
そうした存在は、フィアスコと同じくらい——いや、それ以上に人々から恐れられた。なぜなら、彼らは人の姿をしていたのだから。
そんな混乱の時代に、秩序を取り戻すべくひとりの王が現れた。伝説によれば、王は神の啓示によって「アニムス」という純粋かつ柔軟な物質を手に入れた。アニムスの出現は、旧時代のエネルギーをすべて過去のものに変えた。
アニムスを手にした初代の王は、荒廃した大地をわずか数十年で甦らせた。過去の技術をはるかに超える文明がそこから築かれていった。王は「エデン」と呼ばれる、高壁に囲まれた連邦国家を築いた。そこでは人々がフィアスコの恐怖から解放され、安らかに暮らすことができた。
そこでは、エニグマの恐怖による支配も、人間の愚行がはびこることも、決して許されなかった。楽園に足を踏み入れられるのは、「神意の印」に選ばれた者だけだった。
「エデンの子」——それが、この世界で選ばれた者たちの名である。
クレド書第一章 エデンの創世記
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