第5話 初トライと恒例行事と武器

 マタギの言い伝えには、四つ子は殺せ、というものがある。


 クマは通常、二匹の子供を産む。だから三頭のクマの群れがあったら、殺すな。

子供まで狩ったら、絶滅してしまう。長く山と共存してきた者たちの知恵だ。


 だが四頭で動く群れは、赤子だろうと殺す。

一頭の母親と三頭の子供。

見逃したら祟りがあるぞ。

絶対に殺せ。


 マタギは最初にこれを教えられる。

吹雪の中で焚き火を焚く方法でもない。

食べられる植物や携行食の作り方でも、儀式のやり方、心構え、山の歩き方、禁領域や危険箇所、狩りの仕方、自分の命の継ぎ方、助ける方法でもない。


「四つ子は殺せ」


 口酸っぱく。

耳にタコができて、潰れて皮膚が硬くなり、またタコができる。

そんなことを何回も何回も繰り返すほど、教えられる。


 意味は分かる。

きっと増え過ぎてしまうのだ。

人間を殺す可能性のある生き物が、溢れてしまう。

そうならないために、マタギたちは殺してきた。


 つぶらな瞳に涙を浮かべて。

父性本能を刺激する鳴き声を鳴く子クマを殺す。

生物問わず、赤ん坊を殺すストレスは凄まじい。


 頭は男女問わず丸刈りにされて、暖房も冷房もない部屋で過ごし、腐った野菜と肉と水が与えられ、バケツの水で5〜6人で体を洗い、定期的に死ぬ人体実験に選ばれる。

そんな環境と同じくらいのストレスだ。


 そのため刃物が持てなくなる者もいた。

山には入れなくなり、都に逃げる者もいた。

それでも残った者たちは、女を抱き、金を使い、酒をたらふく呑み、飯に舌鼓を打ち、殺していった。


 家族が殺されないために。

人間が山と共存するために。

最終捕食者としての義務をこなしていった。

淡々と。

粛々に。


 時代が進んだ。

産業革命が起き、鎖国が終わり、村田銃が開発された。

銃によって、死が遠ざかり、殺す感覚が遠くなった。


 銃規制が始まり、戦争に勝ち、戦争に負け、ダンジョンが発生した。

クマが売れなくなり、山間部が貧しくなり、地方は出稼ぎが当たり前になった。


 マタギが滅び、狩猟が金持ちの道楽になった時代。

その時代に、僕は、モモはダンジョンに入った。



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「まじウザい!」


 柿猿が投げた腐りかけの柿が、リンゴにあたる。

4度目の被弾だ。

リンゴは、スキルで発現した金林檎を投げる。


「キキッ」


 ヒョロヒョロの弾道は、柿猿の手前で落ちる。

リンゴは悲しそうに、その末路を見ていた。


「あ〜っははははへぶっ」


 クソ雑魚弾道を見て笑っていたら、柿猿に攻撃された。

顔面にへばりついた柿が気持ち悪い。

どんなジュースよりも、大量の角砂糖が使われてそうな甘さだ。


「あはははは」「き〜きっきっきっき」


 リンゴと柿猿が笑っている。

さっきまでの険悪なムードはどうした。

クソみたいな意気投合しやがって。


「【大きな桃がどんぶらこ活性】」


 剣ナタで柿猿を追いかけるも、全然追いつけない。

後一歩のところで、柿猿は木を登り、上から柿を投擲してくる。

地上では追いつけそうだが、樹上に行かれると、どうしようもない。

アウトレンジから一方的にボコされる。


「クソ猿がーッ。降りてこい!へぶッ」


「き~きっきっきっき」


全身が照柿色濃いオレンジになり、柿スライムになった。

僕たちは同時に判断した。


「「撤退!」」


 マタギの子、そしてダンジョン研究者の子にあるまじき醜態だった。



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「今年もこの季節がやってきたな」


「これがないと、秋って感じがしないよな」


 ダンジョン前にある水道で、汚れを落とした。最悪だった。

何故ばあさんが、着替えを持たせたのかよくわかった。

僕たちを見た冒険者の生暖かい目をしている。


 ギルドに預けていた荷物を受け取り、更衣室で着替えた。

汚れた衣類をコインランドリーで洗い、その間に温泉に入ることにした。

入浴チケットはばあさんから貰った。行動の全てが先読みされていた。


「ははは、坊主。ちゃんと洗えよ〜」


 僕は鼻がおかしくなっているが、すごい匂いがするのだろう。

会う人間全員に言われた。三回ほど頭を洗って、ようやく気持ち悪さが取れた。


「あぁ〜」


 疲れが溶け出す。思わず声が出てしまった。

隣に入っていた冒険者は、そんな僕の様子をニコニコしながら見ている。


「いいか。柿猿は訓練なんだ。どんだけ攻撃されても、汚れるだけだ。柿猿を倒す間に、自分の戦い方を見つけるんだ」


 温泉に浸かっていると、冒険者たちがアドバイスをくれた。

身体中に傷のある、筋肉質な男だ。歳は五十歳近くに見える。

異世界ではギルドに併設された酒場にいるような、お節介冒険者たちだ。

現実では温泉にいたらしい。


「坊主、武器は何だ?」


「じいさんがくれた剣ナタだよ」


「なら、じいさんに申し訳ないが、他のものも試した方が良い。なんらな武器じゃなくても良い。鉄パイプとか金属バット、あとはクワを使っている奴もいるな」


「うちのばあさんが、クワを使っているよ」


「お前、百田ももたさんの子か。大きくなったな。ならじいさんが渡した剣ナタは、山で使う用だろう。ギルドにいろんな道具が置いてある。試してみろ」


 お節介冒険者は、温泉から上がると飲み物を奢ってくれた。フルーツ牛乳だ。

腰に手を当て、飲み干す。この甘さは柿猿への復讐の誓いだ。今だけは、フルーツの甘みが胆のような苦汁に感じる。


「待ってろ柿猿。ドタマ、ブチ抜いてやる」


「くぅ〜。この青さがたまらん。これだからお節介はやめられん」


 僕の決意を見て、お節介冒険者が悶えていた。気持ちわるッ。


 待っていると、リンゴも女冒険者と一緒に出てきた。

そしてフルーツ牛乳を奢られて、飲み干し、一言。


「待ってろし柿猿。リンゴがぶっ殺ししてやるすけ」


「はぅう。やっぱ最高。今年は何人見れるかな!」


 他にもいるのかよ。



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「はぐぐっ。やっぱうちの強みは、スキルだと思うんだよね」


 リンゴはクマ鍋をを食いながら、話してくる。今晩は百田ももた家と空梨からなし家で一緒に食べている。


 今日の晩御飯は、クマ鍋と血のソーセージ、栗ご飯、山菜のおひたしだ。秋刀魚さんまは明日の朝ごはんらしい。大人たちは、ばあさんが作ったどぶろくを飲んでいる。


「むしゃしゃ。確かに。スキルでどれくらいの金林檎を作れる?」


 僕もクマ鍋を食べる。

味噌とクマの血で味付けされた鍋は、体の芯からあったまる。

行者ニンニクやネズミキノコなどが入っている。

同じ山で取れた食材の鍋は、全てが調和していた。


「う〜んとね」


 リンゴは数える。今日出した数と、どれくらいの疲労があったか。

スキルの使用限界値は、身体強化なら三分、魔法なら五発が平均だ。


 しかし童話スキルは、完全に個人による。

例えばドイツにいる童話スキル持ち、パン屑を出す老人は、無限に出せる。

戦争中はこのスキルによって、生き延びたと聞いたことがある。

パン屑を餌に、鳥やネズミを狩っていたらしい。


「う〜ん。多分だけど、効果載せなきゃ、五十はいけるかも」


 めちゃくちゃ出せるじゃん。


「林檎の木は摘果しないと、二千個近くの実ができます。リンゴも成長したら、それくらい出せるかもしれませんね」


 一緒に晩御飯を食べていた、空梨家のご主人が教えてくれる。


「なら決まりだな。スリングショットとかを探してみよう」


「いずれは矢の形にして、ギャル弓道美少女リンゴちゃんになる〜」


そいだばいいなそれはいいな

「ま〜、めんこいごとかわいいこと

「やはりリンゴしか勝たん」

「弓、弓。あっ、コンパウンドボウが6万か…いけるな…」


 リンゴがウインクした。

きらりん、とBGMが聞こえそうなファンサにジジババ共が喜ぶ。


「俺はどうしよ。剣ナタじゃ、相手にならなかったんだよね」


「んだば、まず家にある道具を触ってみればいいべ」


 僕が迷っていると、じいさんがアドバイスをくれた。


「うちに何あったっけ?」


「納屋に色々あるが、チェンソーと銃だけはダメだ。あとは鎌でも斧でもコナギ木製シャベルでも。なんでも持ってけ」


わたしの使うクワはだめ。あれは重くて使えねえびょん」


「クワは持っていかないよ。僕が振り回されるもん」


 ばあさんの使うクワは、二メートルもある。

惣五郎乃クワと名付けられたアイテムだ。

身長が143センチのばあさんが持つと、クワに隠れてしまう。

自走するクワプロペルド・ホー》として、冒険者界隈では有名人だ。


 僕は食後に納屋に行き、いろんな道具を触った。

積み上げられた薪に、斧や鎌を投げたりもしてみた。

結局一つには絞れなかった。シャベルとコナギ木製シャベル、手斧を持っていくことにした。


 剣ナタを置いていくことも考えた。しかし戦闘以外で役に立つと考えて、持っていくことにした。山歩きをする際には、ずっと持って行ってたのだ。


「なんか、ないと気持ち悪いもんな……」


 そして動画サイトで、長物武器の心得を検索してから寝た。

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