恋とゲームの1クレ目~元アイドルの美少女編入生を助けたらゲーム友達になった件~
海月くらげ@書籍色々発売中!
第1話 放課後のゲーセンで元アイドル編入生を助けたら
「え~、本日から通う編入生を紹介する。入れ」
HR前までスマホゲームで時間を潰していた俺――
窓の外から響く、さあさあという雨音。
六月、梅雨の時期に編入生とは珍しい。
クラス内も突然の編入生にざわめいている。
まあ、俺には関係のないことか。
そんな風に思っていると教室の扉が開けられた。
瞬間、主に男子が「えっ」と息を呑む。
そういう反応も無理はないなと、黒板の前へ歩いていく編入生の女子生徒を見ながら俺も思う。
ランウェイを歩くモデルのような立ち姿。
歩を進める度に膝上数十センチのラインでプリーツスカートが揺れる。
誂えたかのようなサイズ感のブレザーを見事に着こなす彼女の体型は、しなやかでありながら丸みを帯びた女性的なシルエット。
さらりと揺れる鮮やかな金髪は長く、瞳は澄んだ空の色。
横顔から窺うだけでも小さな顔。
長い睫毛、ぱっちりとした二重で、やや釣り目気味の目元からは気の強そうな印象を受ける。
彼女が黒板まで辿り着き、白いチョークを走らせる。
最終的に記された名前は『蓮水アリナ』。
名前を書き切り、正面へ振り向いた。
「――編入生の
名前だけの簡潔な自己紹介をした声音は清涼感がありながら冷淡な雰囲気。
教室がしんと水を打ったように静まり返って、数秒。
「アイドル編入生きたああああああああああっ!?!??!???」
一人の男子が叫んだのを皮切りに、怒号のような歓喜の声が教室を満たすのだった。
編入生、蓮水アリナはどうやら元アイドルらしい。
HRの後で蓮水の元へと殺到したクラスメイトの質問へ淡々と答える声が、興味を持たずとも耳に入ってきた。
本来なら手が届くはずのない、雲の上の人間。
それが目の前にいるのだから。
元アイドルの編入生だなんて珍しいこともあるものだ。
試しに調べてみれば、ひと月ほど前に蓮水が所属していたアイドルグループ『Iris Rain』を卒業したという記事が出てきた。
卒業理由は『学業に専念するため』だとか。
確かにここ
しかし、偏差値だけなら他にいくつもうちより高い高校はある。
学校の偏差値だけが全てではないと分かっているけど、卒業理由とはミスマッチ感が否めない。
……まあ、卒業理由の審議なんて俺には関係ないな。
俺は今日、初めて蓮水の存在をを知った。
若者の間では流行りのグループらしいが、ゲームの情報ばかりを追っている俺の頭には残っていなかったのだ。
「どうしてうちの高校に編入してきたの?」
「アイドル卒業を機に普通の高校生活がしたかっただけよ」
「それより蓮水さんの歓迎会やろうぜ!」
「あんたたちは蓮水さんと話したいだけでしょ。でも……確かにしたいかも。蓮水さん、どうかな」
「誘ってもらえるのはありがたいけれど、ごめんなさい。ちょっと忙しくて」
「あー、そっか。こっちこそ無理に誘ってごめんね?」
「誘い自体は本当にありがたいの。これからも仲良くしてくれると嬉しいわ」
それからも続く蓮水への質問攻めを遠い自分の席からちらりと見て、視線をスマホへ戻す。
蓮水が元アイドルだろうと俺には関係ないな。
住む世界が違うし、俺の興味はゲームにしか向かない。
クラスメイトとして関わる機会があるかもしれないけど、それだけだ。
■
放課後。
先生から頼まれたおつかいを済ませて帰路に着く途中、いつものように近所のゲーセンへ寄り道していた。
ゲーセンに入るなり耳へ飛び込んでくる多種多様なゲームの音。
入り口前にずらりと並ぶクレーンゲームコーナーを抜け、メダルゲームコーナーを横目に店内の奥まった場所に位置する目的地――音ゲーコーナーへ行こうとした途中。
「格ゲーは女がやるゲームじゃねえんだよ!!」
すぐ横の格ゲーコーナーから届いた罵声に反応し、視線が向く。
すると、ガラの悪そうな男が金髪の女の子へ絡んでいるのが窺えて。
「……あれ、蓮水じゃないか?」
捉えた横顔が件の編入生、蓮水と重なった。
どうして蓮水がゲーセンにいるのだろう。
状況から格ゲーをやっていたのはわかるけど、場違い感が否めない。
「何を言ってるの? ゲームに男も女もないでしょう? というか、意気揚々と対戦吹っ掛けてきた癖に負けて逆ギレってどうなの?」
キレている男にも物怖じせず、むしろノリノリで言い返す蓮水。
あれはどう見ても格ゲーマーのメンタルだな。
てか男が蓮水に対戦吹っ掛けて負けたのかよ。
ただの腹いせで絡んでいるだけらしい。
「……っ! 言わせておけばこのアマ…………ッ!!」
怒りのあまり顔を引きつらせ、蓮水へ近づく男。
まさか手を出すつもりか?
しばらくすれば騒ぎを聞きつけた店員が駆けつけることだろう。
でも、その前に蓮水へ危害が及びそうだ。
……一応、どちらも知った顔だし、仲裁くらいはするべきか。
「ストップ。誰がどんなゲームをやっても自由だし、正々堂々戦った結果なら受け入れろ。負けて逆ギレはかっこ悪いぞ、流石に」
二人の間へ割って入り、順に視線を向ける。
男は「お前、リューマ……っ!」と呟いて足を止めた。
昔、この男に絡まれた際、手酷く格ゲーでボコったのを覚えていたのだろう。
そんなに怖がらなくてもいいのにと思うけど。
一方、蓮水は怪訝そうに眉をひそめて俺を見上げていた。
クラスメイトだなんて覚えていない様子だ。
それもそのはず。
俺は質問攻めにも参加していないし、名乗った覚えもない。
「まだ言いたいことがあるなら俺が相手になる。ゲームの争いはゲームで決着をつけるべきだ。格ゲーでも、音ゲーでも、勝敗がつくなら何でも好きなゲームを選んでいい。どうする?」
二人へ問うと、先に蓮水が「私はいいわ。絡まれただけだから」と肩を竦め、男は不満そうに舌打ち一つ返して立ち去っていく。
後ろ姿が見えなくなって一安心。
ひとまず乗り切った、と思ってよさそうだ。
さて、俺は音ゲーコーナーに戻るとしますかね。
「待って」
「……何か用か?」
流石にここで蓮水が呼び止めたのは俺ではないととぼけるのは無理があった。
「一応、お礼入っておくわ。ありがとう。助けてくれたんでしょう?」
「殴り合いになるよりはいいと思ってな」
「軽く煽り返しただけなのに、あそこまでキレるとは思わなかったわ。あなた、クラスメイトよね」
「……話してないのによく覚えてるんだな」
「顔と名前を覚えるのは得意なの。……それよりも、あなたにお願いがあるわ」
「ゲーセンにいたのを言いふらす気はないぞ」
蓮水はクラスの歓迎会を用事があるからと断っていた。
なのにゲーセンに来ていたと知られれば、余計な反感を買うだろう。
それもこれも俺が言いふらせばの話だが。
別に蓮水がどんな理由でゲーセンにいようと、正直どうでもいい。
そう話すと、蓮水は余計に怪しむような目で俺を見た。
「……嘘をついているようには見えないけど、何が目的?」
「目的なんてない。助けに入ったのも目に余ったからだ。ここの居心地が悪くなったら困る」
俺はただ、楽しくゲームをしたいだけ。
争っている声を聴きながらだと集中できないし。
「…………そう。それなら私のことは秘密にして」
「ああ。じゃあ、俺はこれで」
「それと、もう一つ。あなた、格ゲー強いの?」
「さっきの男よりは強いな」
「だったら1クレ付き合って。あの男、口だけで弱かったから消化不良なの」
可哀想な評価だな。
仮に本当だとしても面と面を向かって言えばリアルファイト待ったなしだ。
……だから言い争いに発展していたわけだが。
それはともかく、格ゲーか。
俺もそれなり以上にやり込んでいるし、自信もある。
けれど、それはオンラインに限るわけで、ゲーセンで対面するのは苦手だ。
昔のあれこれで人とゲームをするのはあまり好きじゃない。
そんな俺の心境をよそに、蓮水は既に百円玉を投入していて準備万端。
逃げないわよね? とでも言いたげな眼差しがこれでもかと注がれていて。
「……1クレだけだからな」
「そうこなくちゃ」
薄く笑った蓮水。
こんな顔も出来るんだなと思いながら、対面の筐体に座った。
―――
新年あけましておめでとうございます。
というわけでカクヨムコンにひと月遅れの新作です。
十万文字書けるように尻を叩いていただけると非常に助かります(?)
フォローや星などいただけるとモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!
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