第27話 ゴドフレドの誤算
子供3人と大人3人が乗り込んでもゆったりと座れる馬車は、ゴドフレド様が壁を叩くと動き出した。
上位者の当たり前の仕草に、僕は圧倒される。
僕が辺境伯領ですると、苦笑されそうだ。
「ゴドフレド様」
「なんだ、ベックス?」
「これから向かう店でどのような魔術具を購入されたのですか?」
「これだ」
渡されたのは装飾の凝った指輪だった。
じっくり見ていくと、内側に刻印があって、外側は色とりどりの石が嵌められている。
台座や彫刻も随分と精巧だ。
しかし、魔力を流してみると、通りが悪い。
「どうだ、ベックス?」
ゴドフレド様はうれしそうに感想を求めているから、魔術具としての性能の悪さには気付いていないようだ。
ギジェルモに渡して、反応を見ると最初は目を輝かせていたけど、だんだん顔が曇っていく。
僕もこのくらい分かりやすいのかな。
「ベックス? どうした?」
「ゴドフレド様。この魔術具、見た目はいいんですけど、魔力の通りが悪いです」
「なに? それは本当か?」
「はい、僕はそう思います。ギジェルモは?」
「は、はい。見た目が素晴らしいだけに性能の悪さが惜しいと思います」
「でも、私はこれ以外の魔術具を知らないぞ」
「では、これに魔力を流してください。発動はしないようにしてください」
腕輪を渡して、すぐに体が仰け反らせながら驚いた。
大げさな、と言いたいところだけど、自慢の物が微妙な性能だと分かるとな。
ある、ある。自信満々に見せつけた時、もっといいのあるよと見せられる気持ち。
過去の僕は分かってあげられるようだ。
「これは、店主を問い詰めないとならないみたいだ」
伏せた顔に隠し切れない怒りが見えるゴドフレド様。
向かった先で貴族が怒り狂って、平民を跪かせるのは僕の見たいものじゃない。
近くで喧嘩されるのは、そもそも気持ちの良いものじゃないからな。
「ゴドフレド様、これは公爵様に報告した方が良いと思います」
「父上は忙しいから、手をわずらわせるわけにはいかない」
「いえいえ、報告をして調査していただきましょう」
「必要か? 私が言って捕らえさせれば良いだろう?」
7歳にして貴族と平民の違いを知っているようだ。
貴族の子かくあるべし、というのがゴドフレド様にはあるのだな。
「必要です。捕らえて罪に問う以上のことをできるのは公爵様です。見せてもらった指輪も刻印以外は出来がとても良いです」
「? ああ、そういうことか。魔術具を作る者として以外の腕を有効に使うということだな」
「はい。ですから、気前よく商品を買って帰りましょう」
「フンッ、そうするとしよう」
どうにか、その場で怒るというのはなくなったようだ。
安心してギジェルモを見ると、目がキョロキョロと動いてどこか焦っているように見える。
「ギジェルモ」
「は、はい?」
「どうかした?」
「いえ」
結局、理由を教えてもらうことなく移動を終えて馬車が停止する。
降りて気付いたが、どうみても一等地ではない場所の店だった。
ここで買う物の性能が高いと見積もるのは、違う気はするがゴドフレド様にとっては良いものだったのだろう。
ゴドフレド様に続いて入っていくと、店の棚には商品が並べられており、固定もされていない不用心なものだった。
「おーい、来たぞ!」
「ゴドフレド様、お久しぶりでございます。ご友人を連れてきたのですか?」
「そうだ。いくつか買ってやることにしたからな」
「そうですか。ごゆっくりお選びください」
「ああ」
横柄な貴族の子供というより金持ちの子供みたいな行動だな。
店主に背を向け、こちらを見たゴドフレド様の顔はイライラが抑えられないのか眉間と口端がぴくぴくと動いていた。
「買っていただけるとは、ありがとうございます。ゴドフレド様」
「ありがとうございます」
「ああ、好きに見ると良い」
指示通り、好きに商品を見ていく。
指輪、腕輪、小さな杖、杖、木剣、盾もある。
種類は豊富だが魔力を流してみると、どれも分かりやすく魔術具としての出来が悪い。
見た目は良いのにな。
商品を見ながら近くに来ていたギジェルモが袖を軽く引っ張った。
「どうしたの?」
「さっきゴドフレド様に意見を言っていたけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。聞き入れてもらえなくても良かったし」
「いえいえ、そうじゃなくてですね」
「うん?」
焦った顔のギジェルモが周囲を確認しながら、小声でコソコソと話し始める。
「ゴドフレド様は他人に意見されるのが嫌いって話です」
「そうなんだ」
「いやいや、まずくないでしょうか?」
「意見したらどうなるの?」
「怒るらしいです」
少し緊張して聞いていたが、そもそも他所の世界で貴族とは言え、子供だ。
しかも6歳。
過去の僕が6歳の頃に何をしていたかは分からない。
でも、教師か親か、分からないが怒られていたのは間違いない。
子供の言葉をあまり大きく捉えすぎるのはやめよう。
「大丈夫でしょ。初めて出会った人の前で恥ずかしげもなく怒らないよ」
「そうですか?」
「怒られて何が困るの?」
「関係が悪くなると、領が困るのでは?」
「領は困るかもしれないけど、下の者の意見を聞けない人は貴族に少ないだろうから、意見を言うだけで怒られることはないよ」
貴族からすると、下の者ばかりの世界だから、意見を聞けない人はいないはずだ。
実際、少し話してみた感じでゴドフレド様は人を気遣えるタイプだと思っている。
交流会の話し合いは自分から話をして、全員が参加できるように話を振っていたからな。
「そうですか」
釈然としないながらも、ギジェルモは頷いた。
彼にとっては重要なことなんだろう。
「考えすぎだねギジェルモは。それでどれにするか決めた?」
「はい。この腕輪にします」
「僕はこの指輪にするよ」
ギジェルモが選んだ腕輪はシンプルで青い石がひとつ嵌められた彫刻の少ないものだった。
僕の選んだ指輪は少し大きく、緑の石がひとつ嵌められた彫刻もないものだ。
ギジェルモと僕はシンプルなアクセサリーしか付けなさそうだな。
再度分かれて、店をひと回りした。
盾と木剣の刻印を見て、僕は付けないだろう刻印だと分かったり、杖の刻印を見ても第2階梯までしか刻印されていなかったりする。
ここの商品を買った時、ゴドフレド様は魔術の勉強がまだだったのかもしれない。
第3階梯まで勉強していれば買わなかったはずだ。
そもそも魔術具がどういうものか知らなかったのかも。
詠唱だけでも、どうにか魔術は使えるからな。
しかし、どの製品も見た目だけは間違いなく一級だから、アクセサリーとしてだけは需要があるだろう。
マントの留め具とか作ってもらえないかな。
「ベックス、ギジェルモ、選べたか?」
「はい、ゴドフレド様」
「はい、私も選びました」
僕は指輪を、ギジェルモは腕輪を見せた。
頷いたゴドフレド様の手には杖がある。
ねじくれた杖はゴドフレド様と同じくらいの大きさだ。
「大きな杖ですね」
「ああ、一番大きいのを買おうと思ってな」
「な、なるほど」
ギジェルモはイライラをどうにか抑え付けているゴドフレド様を見て、笑顔がひきつっている。
店主が気付いていないのは幸いだな。
「他にはないか。私が買うから遠慮するな」
「いえ、ひとつで十分です」
「私もです。ありがとうございます」
「店主、支払いは?」
「少々お待ちください」
3つの商品を見せて、店主は普通に会計をしていた。
僕は知らないが、見る限りこの店主は悪いことをしているという感じがない。
後ろ暗いことをしていると、もう少し目つきが鋭くなったり、警戒心を持ったりするはずなのだが、微塵もない。
慣れ切った大悪党なのか、何も知らないだけなのか。
会計の計算をしている場所から少し離れ、ダニエラに小声で話しかけた。
「ダニエラ」
「ベックス様、どうしました?」
「魔術具の店って誰でも勝手に開いていいの?」
「いえ、領主様に話を通さなければ開けません」
ということは、この店は話を通しているわけだ。
通していなければ、公爵様は我が子を送り出すわけないからな。
話を通して開店していて、ゴドフレド様が店で購入するのは当たり前のことになっている。
これだけでは罪に問えないだろう。
でもゴドフレド様が捕らえて罪に問うと言うくらいだから、売り文句が問題だったか。
令和最新版とか、○○○○年改良型、売り上げ1位(当社比)とか、過激な売り文句を信じてしまったのかもしれない。
詐欺に引っかかりやすいのか、次期公爵様は。
「ベックス。支払いを済ませた。これがお前のだ」
「ありがとうございます。ゴドフレド様、素晴らしい商品です」
「私にも、こちらの腕輪をありがとうございます」
「気にするな。店主、また来る!」
「はい、お待ちしております」
店の外に停まっている馬車に乗り込むと、ゴドフレド様は大きく溜め息を吐く。
まだ怒っているようだ。
仕方ない。
ご機嫌伺いは下の者の務めだ。
「ゴドフレド様、どうしました?」
「ベックスは気付かなかったかもしれないけど、ギジェルモは魔術刻印の種類が少ないことに気付いただろう?」
「はい。火、水、土だけで第2階梯まででした」
「そうだったんですか⁉」
できるだけ大げさに驚いて見せると、ゴドフレド様はそれに流されるようにイライラを少しずつ吐き出し始める。
たぶん過去の僕は人から話を聞く機会が多かったんだな。
まんまとゴドフレド様が話し始めたその技術、これからの僕にも必要そうだ。
「色々な魔術具を見て分かった。見た目はとても美しい、だけど刻印へ流す金属に問題がある」
「そうなんですか?」
「ああ。これを見てくれ」
購入した杖の刻印が露出している部分を見せてきた。
小さな杖なら刻印そのものが露出しているが、大きな杖になると物にあたって刻印が傷付くことを防止するために露出しているのは手元に近い場所だけだ。
見せてきた場所は、どうみても気泡でへこんでいる刻印の一部があった。
きれいに磨いているからこそ、よく目立つ。
「刻印の一部が欠けているから、魔力の通りが悪かったんですね!」
「あ、ああ」
誰よりも早く反応したギジェルモの熱量に、イライラが減っていたゴドフレド様は気圧されている。
当のギジェルモはまるで気にせず、杖をかじりつくように見ていた。
「そういうことだったんですね」
「そうみたいだ」
「うん? よく見ると、この金属はそもそも刻印用の金属ではなさそうです」
「そうなのか?」
「はい。魔術具に使う金属は指定の作り方があります。見たところ、まるで違う金属を流している可能性があります」
「ギジェルモは魔術具に詳しいのだな」
「すごいね、ギジェルモ!」
変人の素養を持つギジェルモは、魔術具のオタクだったらしい。
このまま大人になると、魔術具オタクの変人になるだろう。
そのうち、職人と手を組んで開発をしているかもしれない。
「好きで調べていると、詳しくなりました」
「面白い話をありがとう、ギジェルモ。ところで2人に提案がある」
「はい」
「なんでしょうか?」
「良い魔術具を見せられなかった代わりに、良い武器を見に行かないか?」
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