第11話 とっても嫌な夢

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 お披露目が5歳に決まった夜、夢を見た。

 また夢だ。


 ――車いすが軋みを上げながら、街を進む。

 領民からの視線が刺さると感じるが、誰も嫌っているようには見えない。

 このベックスの被害妄想が激しいだけか?


『ベックス様、久しぶり。今日は元気か?』

『おはようございます!』

『おはようございます』


 笑顔で近づいてきたのは、僕の知る3人よりも大人な友人たちだ。

 ルイサは髪が長くなっているし、フェデリコは細身で筋肉質、ガビノは最も体が大きい。


『おはよう、みんな。まあ、元気な方かな』


 笑顔で言っているはずの僕だが、体は痛みに耐えていた。

 刺すような痛みを全身に感じて、動くのも辛い。

 嫌なくらい生々しい夢だ。


『いつもはこの時期、貴族院だっけ?』

『出発を遅らせただけだ。明後日には出る』


 ゲーム世界の方でも3人とは仲良くしていたんだな。


『今日はどうしたんだよ?』

『悪い報告をしなきゃならない』


 震える手。

 ごくりと唾を飲むと、どうにか次の言葉を吐き出す。


『領民を1人徴収する』


 夢で体験している僕は分からないが、友人の3人は驚きながらも頷いた。

 徴収というのは人相手に使う言葉ではないと思うのだが。


『わたしが行くよ』


 ルイサが覚悟の決まった顔で進み出た。

 僕は顔を伏せて、何度も頷いた。

 どんな顔をしているのか分からないが、妙に心臓が苦しい。


『分かった。周りの人に徴収されたことを言ってから屋敷に来てくれ』

『親父とおふくろが死んでから、片付け済ましてっからフェデリコ、ガビノ、家は周りの奴らに頼んでくれ』

『ああ。じゃあな』

『任せてくれ。また、いつか』

『おうよ。別れも済ました。行くぞ、ベックス様』


 特に暗くもなく、足取り軽く屋敷に向かうルイサ。

 見ている僕は分からないが、一体何が行われるのか?

 車いすをダニエラが押して、屋敷の地下に進んでいく。


 僕の知らない屋敷の地下は、とても広く土の敷き詰められた訓練場だった。

 その訓練場の奥にある扉、その部屋が目的地だと分かった。


 胸がざわついて落ち着かないからだ。

 押され続ける車いすは、どれだけ僕が嫌でも進み続けた。

 一体、これから何が行われる?


 ダニエラが扉を開き、ルイサを先頭に入っていく。

 入ると同時にダニエラが魔術で明かりを灯すと、部屋がはっきりと照らし出された。


 石畳、大きな机、壁際の戸棚、暖炉、これだけの部屋だ。

 ただ、机や戸棚は血で汚れていた。


『ルイサ、何するかは分かってるな?』

『ああ。ベックス様の命になるんだろ』

『死ぬって、分かってるのか?』

『分かってんよ』


 不敵な笑みを見せるルイサ。

 無感情に見ていたはずの僕は、ゲーム世界のベックスに引きずられて胸が締め付けられる。

 嗚咽が漏れそうになり、歯を食いしばった。

 抑えきれない涙が溢れそうになり、目を閉じた。


 どうやら、ゲーム世界のベックスはルイサに友人以上の感情を持っているようだ。

 でも、どうしてベックスはルイサに死ぬって……。

 ああ、あったな。

 ダニエラに魔術を使って、体が元気になっていたはずだ。


『いや……やめよう、ルイサ』

『どうしてだよ。怖気づいたのか?』

『そうだ』

『わたしは、ベックス様の命に、一部になるぞ‼』

『何で? どうして……死ぬことを、笑って受け入れられるんだッ⁉』


 笑みを崩さないルイサ、苦しくて堪らないベックス。

 自分への怒り、ルイサが逃げてくれない悲しみが夢として見ている僕にまで襲ってくる。


『こうでもしないと、わたしたちは一緒にいられないだろ?』

『ああ、だろうな』

『聖教会の連中が来てるのも知ってる、戦争でもするんだろ』

『ああ』


 驚きながら、白状するように返事した。

 領民が思い当たるのは、あんまり良いことではないだろうに。

 そもそもゲームが始まる前なのは分かるが、戦争だとか、どういう状況なんだろう。


『ダニエラ、最後くらいは許してくれ』

『ええ、ルイサ』


 ルイサは車いすに近づくと、跪いてベックスを抱きしめた。

 痛む体で抱きしめると、充足感と同時にそれを塗りつぶすほどの悲しみが襲ってくる。

 堪えきれなくなった涙が溢れ、落ち着くまでは抱きしめ続けた。


 死を受け入れる友人。

 いや、このベックスの思い人。

 友人の2人もそうだったが、どうして受け入れるのだろう?


『ベックス、このままでやってくれ』

『分かった、ルイサ。魔術を受け入れてくれ』


 右手をルイサの頭に回し、ベックスは魔術を発動した。

 全身の痛みは消え、体に力が戻ってくる。

 しかし、抱きしめていたルイサの体は力が入っていない。


 肩に乗っている頭から呼吸音は聞こえない。

 力の入る腕でルイサを支えながら顔を見ると、微笑みながら死んでいた。


『ベックス様』

『ああ……嫌になるくらい、元気だ。ダニエラ、ルイサを頼む』

『はい』――。

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