第7話 動物と人外の動き

 人の姿は違わないが、動物も一緒とは限らないからだ。

 店がある区画を抜け、しばらく進むと柵に囲まれた場所が見えてきた。

 家畜化できた動物はどんなだろう?

 ワクワクしながら向かうと、屋敷でたまに見る紋章を掲げた建物があった。


「ベニート、あれ」

「はい、ムリーヨ辺境伯家の紋章です。辺境伯様が援助して運営している牧場です」

「へー」


 そういうのあるんだ。

 近づいていくと、柵に囲まれた牧場の遠くに普通の牛がいた。

 残念なことに過去の記憶と全く違わない普通の牛だ。


「誰か、誰かいるか」


 建物に入るとベニートが呼びかける。

 中は椅子があるだけで、がらんとしたものだった。

 貴族を迎える時の待合室みたいな場所だろうか。


「はい」


 案外近くにいたのか茶髪で汚れた服の男が出てきた。

 この世界の男たちは皆、体が大きい。

 若く見えるこの人もしっかりと筋肉がついて、ペドロよりも大きい。父様と同じくらいか。


「ここの主人か?」

「はい、牧場を任せられているオマールです」

「こちらはベックス・ムリーヨ様だ」

「はじめまして、ベックス・ムリーヨです」

「はじめまして」

「どのような動物がいるか見させてもらってもいいですか?」


 お願いを聞くことが難しいのか首を傾げて、思案しているオマールさん。

 仕事しているだろうし、仕方ないか。


「ん? お前、ペドロか?」

「ああ、オマール」

「ちょうどいい、ペドロが案内してくれ。俺はまだ仕事終わってないからよ」

「わかった。ベックス様、行きましょう」

「はい」


 待合用の建物を出て、牧場内に入ると別の建物へ向かって行く。

 決められた敷地で牛を放牧しているようだ。

 大きさも変わらない普通の牛だから、ちょっと残念だな。


「ペドロはオマールと知り合いですか?」

「はい。レイシャール様の護衛でここへ来た時に出会いました」

「ここには、どういう動物がいるんですか?」

「荒れ牛、素手鶏、硬皮馬と馬です」


 荒れる牛に素手の鶏、硬い皮の馬、と馬。

 一体、何を言っているのか分からない。

 ただ、名前からして馬以外は僕の知らない動物みたいだ。

 牛は気性が荒いのかもしれない。

 建物に近づくと、ペドロが僕たちの方を向いて話し始める。


「ここには素手鶏がいます。温厚ですけど、何かあれば血気盛んになる鶏なので注意してください」

「はい」


 扉を開けて入るペドロに続くと、檻の中にはニワトリがいた。

 色もトサカも翼も普通だ。しかし、腕が生えていた。


 2本の腕は脚と同じような見た目だったが、3本の指を持っている。

 檻の中では2羽が拳を突き合わせようとしている。

 まるで殴り合いする前みたいに。


「ベックス様、見てください! 群れの王を決するようです」


 トサカの大きさで強い弱いの判断をしないのか。

 ますますヤンキーじみた鶏だな。


「クケーッ‼」

「ククッケーッ!」


 互いにじりじりと近づいて拳を合わせると、鳴き声を上げた。

 茶と黒のまだら模様と白の鶏が殴り合いを始める。

 近くの鶏たちも一定の距離を保って見守っているのは、生まれながらに刻まれた本能かと思わせる。

 重量がないからそこまで強いパンチは出せないと思っていると、殴られた白は宙に浮いた。

 しかし、翼を広げて再度戻って来る。


「僕より強いです」

「大人よりは弱いですけど、子供を殺すことができますからね」

「群れだと大人でも負けそうです」

「基本的に温厚なので安心してください」

「ッケケークーッ!」

「クッケケーゥ!」


 説明した瞬間、鳴き声を上げて殴り合いが激化した。

 うーん、基本的に温厚ね。

 さっきは一発重視だったが、今度は回数重視で殴り始める。

 互いに殴らせ合っているのか、殴られるのも気にしていない。

 しばらく見ていると、動きの鈍ったまだら模様が白に殴られて倒れた。


「クケックックーッ!」


 翼を広げて両手を掲げる白の鶏。

 この鶏が群れの王らしい。


「喧嘩は割と起こるんですけど、王を決める戦いを見られるのは運が良いです」

「見世物にしたら、お金が取れそうですね」

「いいですね。レイシャール様に話しておきます」

「はい。次行きましょう」


 お金の教育を受けていないのに、金儲けの話をしてしまった。

 でも、間違いなく儲けられるだろう。

 日常的な喧嘩で勝手に金が入るなら、それは動物虐待とか言われないだろうし。

 いや、そもそもどの程度の人権があるか分からない世界だから、問題ないのか?

 にしても、想像より少しだけ違う動物みたいだから牛もその類なんだろう。

 馬も皮の硬い馬らしいから、毛が少なくて硬いのかな。


「あそこが硬皮馬のいる場所です」


 少し離れた場所に大きな建物があった。

 規模としては鶏よりは大きい。


「硬皮馬はムリーヨ辺境伯家で始めて飼いならされた種です」


 ん? 野生化した普通の馬もいるのか?


「他にも馬がいるんですか?」

「はい。6本足の公爵馬、4本足の馬ですね」

「何本足が普通なんですか?」

「はい、4本足です。見た目がいいだけで6本足は無駄飯食らいですね」


 筋肉増えて消費カロリーが増えたんだな。

 6本足でそもそもの体躯は大きいだろう。

 建物に近づいていると、ヒューと隙間風のような高い音が聞こえてきた。


「ん? 何の音?」

「ベックス様、硬皮馬の鳴き声です」

「そうですか」


 僕の中で馬の鳴き声はヒヒーンで、風が吹く音みたいな鳴き声は知らない。

 もしかして馬ではないのか。


 ペドロに続いて入ると、逆光で見えづらいが馬はいた。

 1頭ごとに部屋があり、顔だけが出ているようだ。

 近づいて光が和らぐと、そこに馬ではなくトカゲがいた。


 どう見てもトカゲにしか見えない顔だ。

 しかし、トカゲの顔で体は馬の形をしている。

 トカゲみたいな皮だから、確かに硬そうだ。


「ベックス様、こいつが硬皮馬です」

「何を食べますか?」

「なんでも食べます」


 見た目が黒っぽいから肉食だと思っていたが、雑食性みたい。

 トカゲと同じくらい目が大きくて動きが少ないのは、恐怖を覚える。

 でも、どことなく可愛げがあるから不思議だな。


「普通の馬とどう違うんですか?」

「食事と水が少なくて済みます。ただ、冬場は動くか長期間寝るかのどちらかしかしなくなります」


 変温動物で寒いところでは動きが鈍るとか聞いたことあるが、体が大きいからどうにか生きられるのかもしれない。


「ここには硬皮馬が4頭、馬が4頭います。ベックス様も乗馬の練習することがあるかもしれませんから、馬たちに慣れておいてください」

「はい」


 しばらく馬たちを見ながら、たまに撫でさせてもらっていると、ドタドタと足音が聞こえてくる。

 近くにいる全員は驚いた様子がない。


「何の音ですか?」

「荒れ牛です。見てみますか?」

「はい」


 馬たちに手を振って、建物の外に出ると二足歩行で走る牛の集団がいた。

 パニックになって走っているように見える。

 なるほど。まさしく荒れる牛だ。


「どうして立ってるんですか?」

「分かりません。急ぐ時は立って走るようです。今は厩舎に帰るため急いでいるようですね」

「人みたいです」

「あれが過ぎ去ったら牧場を出ますか?」

「はい」


 ゲームには出てこなかったが、知らない場所では知らない生き物がいたらしい。

 衝撃よりも面白さがある。

 時々は牧場に来て、動物と触れ合いたいな。


「ベックス様、もうすぐ昼食です。屋敷に帰りますか?」


 牧場を出るとベニートが聞いてきた。

 外に出て楽しいが疲れてきたから、次を最後にしよう。


「騎士の訓練が見たいです。ベニート」

「分かりました」


 牧場から屋敷の近くまで帰ってくる。

 屋敷の隣が騎士たちの訓練する場所らしく、ベニートは門衛に手を挙げて入っていく。

 真似るように手を挙げると、門衛は笑いながら返してくれる。

 びっくりするくらい平和だ。

 入った先の建物に囲まれた訓練場所で、のほほんとしていた僕は絶望に襲われることとなった。


「ベックス様、こちらが騎士の訓練場です」

「す、すごいですね」


 平和だとか、全然違った。

 木剣で騎士たちは打ち合っているのだが、目で追うのが精いっぱいだ。

 動き速すぎないか?


「どうして皆の動きが速いのですか?」

「武術を修めているからです」

「武術ですか。父様から聞いたことがあります」

「はい。武術を使いこなせるようになると、魔術が使えない者でも似たような力をその身で使うことができます」


 なにそれ?

 僕の頭が疑問で満ちた時、過去の記憶から最終ボス、レイシャール・ムリーヨの攻撃を思い出した。

 離れると魔術、一定の範囲に近づくと一瞬で間合いを詰めて、溜め動作後に叩きつけ、もしくは掴み攻撃。

 どれも間合いの詰め方が常人離れしていた。


 ゲームだからと考えていたが、この世界では武術の効果でなっているようだ。

 もしもに備えるためには悪く考えた方がいいから、襲撃者も武術を使える前提で動いた方がいいだろう。


「武術には流派というものがあります」

「そうですか。騎士たちはどういう流派なんですか?」

「エミサリ流とムロバンデロ流が多いです」


 わからん。さっぱりだ!


「どういう違いがありますか?」

「エミサリ流は圧倒的な力で守りを突破することを求めた流派です」


 なんとも脳筋的思考の流派だが、ある程度は効果があるんだろうな。


「ムロバンデロ流は圧倒的な守りで傷を負わないことを求めた流派です」


 矛盾が発生しそうな組み合わせだ。

 技量次第で変わるから、どうこう言えないのだろうが。


「ペドロはどの流派なんですか?」

「私はセルバント流です」

「……たくさん流派あるんですね」

「はい。さらに言うと辺境伯家には名前も知られていない特別な流派があります」

「戦う貴族ですから、戦えないと後を継げないと聞きました」


 自分で言って何だが、戦う貴族って、先を考えると少し嫌になる。

 特別な流派というのも武術を覚える時に学ぶのだろうか。

 魔術の勉強を早いとこ進めたいものだ。

 しばらく訓練を見て、その日以降は時々、町へ出かけるようになった。

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