第38話 出会い(松岡圭太)
松岡圭太は、公営コートのベンチにぼっーと座っていた。すると1人の女性が声をかけてきた。
「ハーイ。あなた今、時間ありそうね?」
「君は、誰?」
「私は、アンナ・ジョーダン。アンナと呼んで。アニーでもいいわ。」
輝くブロンドの長身、
「僕は、圭太。それで何か用?」
「あなたテニスのコーチでしょ。午後はレッスンはないみたいね。」
「そうだ。午後のレッスンの予定がキャンセルになったんだ。」
「ちょうどよかったわ。私のレッスンを手伝ってくれない?いつもはもう1人コーチ
が来るんだけど、こっちもキャンセルになって人手が足りなくなったの。」
圭太は時間を持て余していたので、
「ああ。いいさ。手伝うよ。」
この突然の依頼を受けた。
「で?何番コートでやるんだ?」
するとアンナは、
「ここじゃないわ。向こうのコートよ。一緒に来て。」
アンナ・ジョーダンに連れられていったことは、大勢の人でにぎわっていた。パコーン、パコーンと乾いた打球音と歓声と笑い声。
「これは?」
「初めて見る?ピックルボールよ。私は、ピックルボールのプレーヤーなの。コーチも兼ねているんだけど。」
「俺、やったことないよ。」
圭太も話やネットでは見たことがあった。今、急激に流行して全米でブームになっているテニスより狭いコートで打ち合うニュースポーツだ。
「オーケー、大丈夫。あなたのテニスこの前見たわ。すぐに慣れると思う。今日は、私と組んで、生徒の相手をしてくれればいいの。」
小さくて短いラケットと軽いボール、そして狭いコート。パワーは全く不要。敏捷性とラケットワークが決め手だ。テニスでいう、圭太の得意なショットのボレー。ノーバウンドで打つことがほとんどなので、1時間ぐらいのプレイですぐ慣れた。
レッスンはアンナのリードで無事に終えた。
「ケイタ、ありがとう助かったわ。お礼はできないんだけど、食事をおごるわ。」
「サンキュー。ごちそうになるよ。」
どこかのレストランかと思えば、アンナのキャンピングカーだった。アンナが夕食を作ってくれて、2人でビールを飲んで、いろいろ話をした。
「ケイタ、あなたやっぱりプロだったんだ。遠目で見てすぐプレーヤーだって分かった。だから声をかけたの。私は、カレッジを出てプロを目指したけれど無理で、今はピックルボールに転向したの。コーチをしながら試合を回ってる。なんでプロをあきらめたの。」
「テニスに限界を感じてたのもあるけど、フィアンセに浮気されて・・・・。」
するとアンナは、吹き出した。
「なに~ケイタ。チェリーボーイ?ハハハハ。それでテニスも辞めてしっぽ巻いて逃げてきた?彼女を放っておいたら当り前じゃない。彼女に毎日電話したり、愛しているって言ってた?」
「い、いや。」
「笑えるわ。それじゃあ、当然だわ。私だって、そんな男ご免だわ。他の優しい男がいたらセックスするにきまってるじゃない。あなた本当にナイーブね。つまり子どもっぽいガキってこと。」
圭太は、アンナに笑い飛ばされて、自分が夢ばかり追いかけて、南のことを放っておいてたこと、そこから逃げだし自分の小ささを思い知った。
心底がっかりしている圭太を気にも留めない様子のアンナは、
「ケイタ。私がここに滞在する間、私のレッスン手伝ってくれない?私の相棒どうも手伝ってくれないみたい。」
「ああ、時間が合ったら、いいよ。」
「オーケー。じゃあ、決まりね。いつまでも暗い顔していると、ハッピーになれないよ。」
圭太の止まっていた時間が、動き出した。
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