第22話 嫉妬(赤山 修)

 赤山 修と鞠の夫婦生活は、鞠の門山短歌賞の受賞によって一変した。

 その奔放で斬新な表現が歌壇の話題を集めたが、それ以上に、稲田大出身のインテ リジェンスと誰もが振り返る美貌の高校教師は、耳目を集めた。

 テレビと雑誌の取材が、ひっきりなしに入る。

「こんにちは。今日は、門山短歌賞を受賞された、赤山 鞠先生のお宅にお邪魔しています。おめでとうございます。」

「たまたまです。運がよかったんです。」

 と謙虚な姿勢は、視聴者に好感を与えた。

「先生は、高校の先生でもあるんですよね。」

「はい。国語科で文芸部の顧問をしています。生徒たちも、喜んでくれました。」

「そして、旦那様は、小説家の赤山 修先生です。今回の奥様の快挙いかがですか?」

「はい。彼女の長年の努力が実って嬉しいです。」

「お2人は、稲田大学の文芸サークルから一緒に創作されてきたんですね。」

 修もテレビや雑誌で一緒に取り上げられた。悪い気はしなかったが、鞠の添え物の感じは拭えなかった。

「ごめんね。修にまで取材とかされてしまって。断れなくて。」

「いいよ。気にしてないから。」

 門山出版からは、過去に創作した鞠の作品を集めた、歌集が出版され、ベストセラーとなった。勤務先の高校は、私立高校だったこともあって、学校のPRに絶好の機会ととらえ、学校への取材も断ることなく引き受けたので、歌人「赤山 鞠」のブームはしばらく続いた。

 その様子を微笑ましく最初は、捉えていた修だが、自分の創作が行き詰まっている状態が長く続くと、次第に自分への焦りから、嫉妬心が芽生えていることを自覚できていなかった。

 「こんにちは。門山出版の野村です。赤山 鞠先生の担当になりました。よろしくお願いします。」

 にこやかに名刺を差し出す編集者。それから、しばしば野村は、打ち合わせ等で赤山家を訪れるようになった。

「歌人の編集者に、あんな若い男の編集者なんだ。」

 修は、鞠に尋ねた。

「ああ、野村さんは、東都大の文Ⅱ出身で、日本文学で特に短歌や和歌が専門なんだって。知識はすごいし、評価も的確で、すごい人なのよ。」

「ふ~ん。そうなのか。」

 平静を装ったが、修の心は穏やかでなかった。


 一方の修は、未だに芸文賞の受賞策に続く、作品が生み出せずに苦しんでいた。芸文社の新しく担当になったのは、修より5つ年上の新井麻希だった。

「修君、次作の構想は進んでるの?」

「それが、何もアイデアが湧いてこなくて。」

 すると新井は厳しい目つきになった。

「修君。君、人気作家にでもなったつもり?新人賞を取るってことはね、こいつおもしろそうだから、もう少し書かせてみようってぐらいの意味しかないんだ。アイデアが湧いてこない?アマもアマ。ど素人丸出し。プロは何がなくても、そこから作品を生み出さなきゃいけないの。なぜだかわかる、それは自分の作品を待っている大勢のファンがいるから。それがプロだしプロの厳しさ。君は、プロの足元にも及ばない。それが現実。腹くくってやりなさい。」


 新井の言葉は、赤山 修の甘い考えを確実に、射貫いていた。

 

 


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