第21話
「——作戦を変えるわ」
電柱の陰から振り返り、三人を一望する。
「ドロップとくさり。次の投石をできるだけ撃ち落として」
ドロップが、驚いたように目を瞬かせる。
「撃ち落とす……?」
「そう。全部は無理でも、ブレイドとわたしの進路上だけでいい。
その瞬間だけ防いでくれれば、私たち二人が間合いに入れる」
「……できる、範囲で、やってみます……!」
ドロップが、ぎゅっと弓を握り直した。
くさりも、小さく頷いてドレスの裾から鎖を数本、ずるりと引き出す。
「…頼んだわよ、二人とも」
セレスは前を向き、槍を低く構えた。
「…次の投石が来たら——正面から突っ込むわよ。準備はいい? ブレイド」
「任せて!」
ちょうどそのとき、猿型が再び腕を背中に回した。
今度は塊をまとめて、五つ、六つ。
掴んだ瓦礫が、魔災獣の常識外の握力で軋む。
「来ます……!」
「——今!」
セレスは電柱の陰から飛び出した。
ブレイドも、そのすぐ横を走る。
「二人とも、前だけ見て走ってください……!」
ドロップの声が飛ぶ。
猿型の腕がしなる。
複数の瓦礫が、一直線に、接近を試みるセレスとブレイドめがけて投げつけられた。
「《スプリット・アロー》……!」
ドロップが弓を引き絞り、いつもの水属性由来の矢ではなく、白く淡い光の矢を放つ。
光の矢は空中でぱんっと弾け、複数の小刃が扇状に広がった。
飛来する瓦礫の先頭が、小刃に叩かれて砕ける。
軌道を外れた破片が、セレスたちの頭上をかすめていった。
だが、小刃だけでは砕けないサイズの塊が、なお二人の進路をふさぐ。
「…くさり!」
呼びかけに応じて、黒鉄の鎖が二本、地面から跳ね上がるように伸びる。
ドロップの小刃をすり抜けた塊の側面を、横殴りに叩きつけた。
金属の打撃音が響く。
コンクリート片が砕け散り、進路上の障害が消えた。
「くさりちゃん、ナイス!」
サンブレイドが叫ぶ。
視界の先、魔災獣との距離が一気に縮まる。
猿型は、投石が防がれたことに一瞬だけ戸惑ったような動きを見せ——それでも構わず、腕を振り上げて直接迎え撃とうとする。
「させないわ——!」
セレスは足を止めずに、槍に即席で雷を集め始めた。
「《サンダー・ランス》!」
穂先から放たれた雷光の槍が、猿型の振り上げた肩口に突き刺さる。
バチィッ、と激しい雷鳴。
魔災獣が衝撃と共に身を震わせ、背中の瓦礫が何枚も外側からひび割れた。
「——ブレイドッ!」
「行くよっ!」
サンブレイドが、雷撃の余韻を突っ切って跳び込む。
双剣が交差し、背中の瓦礫ごと斬りつけられる。
コンクリートとアスファルトの層に、大きな亀裂が走った。
砕けた破片が、がらがらと地面へ崩れ落ちる。
「もう一撃——!」
セレスは横合いから回り込み、瓦礫の割れ目と本体の境目を狙って槍を突き立てる。
硬い感触のあと、ぐに、と肉を貫く感触が手に伝わった。
光の粒子が、一瞬だけ派手に噴き出す。
「……っ、まだ……!」
一瞬体勢を崩した魔災獣だったが、距離を取るように大きく後ろへ跳び退く。
それと同時に、背中の瓦礫がぼろぼろと剥がれ落ちていく。
さっきまで分厚い甲羅みたいだった瓦礫は、みるみる薄くなっていった。
「よし……防御はだいぶ削れた……!」
「ほんとだ、なんだかスッキリしたね……って、なんか様子が変じゃない?」
サンブレイドが、嫌な予感を込めて呟く。
猿型は、荒い呼吸を繰り返しながら、残った瓦礫を自分で振り払うように身を震わせた。
最後の数枚が地面に落ちると——そのシルエットが、ひと回り細くなる。
露出した四肢には、無駄のない筋肉が浮かび上がっていた。
長い腕が、さっきまでよりもずっと軽そうにしなり、露出した鋭い爪が道路のコンクリート面に食い込む。
「……さっきより、ずっと身軽になりましたね……」
ドロップの声に、セレスも小さく息を呑む。
「防御を捨てて、機動力に全振りってところかしら」
次の瞬間、猿型が地面を強く蹴った。
ずるずると這うように動いていたさっきまでとは、まるで別物のスピード。
跳躍で一気に距離を詰めるのかと思いきや、電柱に片手で飛びつき、その反動を利用して隣の家の壁へ、さらに屋根の縁へと跳び移る。
「わっ……は、速っ!?」
サンブレイドが目で追いきれずに首を振る。
魔災獣は、そのまま屋根から屋根へ、電柱から壁へと、四方八方に跳び回り始めた。
猿の影が描く軌跡が、住宅街の上空にぐるぐると円を描く。
「……ここからが、コイツの本来の戦い方、ってところね」
セレスは、頭上を走る気配から目を離さずに言う。
くさりの鎖が、警戒するようにわずかに広がる。
ブレイドは双剣を構え直し、ドロップも弓を握り直して、空をにらんだ。
屋根の上で瞬く影が、再びこちらへ向かってきた——。
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