第15話 情報交換

「荒木さん…」


「しっ…ここでは浅木って呼べ、広瀬」




あの後、俺はまたこの会社に聴き取りに来た。

前に来た時に刑事と名乗って従業員などに聞き込みをしたので、今は恐らく会社に立ち入った時点の最初から警戒されている。


前に荒木さんと会った時は丁度荒木さんが休憩に入るタイミングで会社の表だったが、今はフロア内だ。

口もほぼ開けずに一応声は抑えている。


「あー、すみません、そこの警備員さん、ちょっとトイレ行きたいんですが俺方向音痴なんで、案内して貰えませんか?」


やや大きめの声で言った。

監視カメラなんかで拾える位だと思う。



「此方です。」



「どうも有難う御座います。」




そう案内されたれてトイレに入る時に死角になる様な角度で、さりげなく荒木さんのポケットにメモを入れた。






その日の夜に荒木さんを居酒屋で待っていた。

一応予約して個室にした。



「すまん、ちょっと遅くなった。」


そう言って荒木さんが個室に入って俺の向かいに座った。


「とりあえず何か飲みます?」


「そうだなあ、じゃあ俺、カルピスサワー。アルコール少なめにして。」


「…分かりました。俺はビールにします…」


そう言って設置されているタブレットに簡単なツマミも加えて注文を入力した。




「相変わらず荒木さん、甘党でアルコールダメですね…組長なのに…」


「お前まだそのネタ引きずってんのか…案外しつこいな。」


「しつこく無いと刑事なんてやってられませんよ。」


「最近だと前に助けた女の子にまで組長とか言われてるし…やれやれだな。」



注文した物が揃ったので、乾杯した。





「荒木さん、やっぱりあの会社で働いてるのって…高木組探ってですよね?偽名まで使って…」


「…お前は今、高木組追ってんのか?」


「厳密には違いますね。別案件の事件でたまたま関係あったあの会社調べたら高木組のダミー会社って分かった感じです。」


「成る程な…その事件以外で高木組にはあまり首を突っ込むな。俺みたいになるぞ。お前まだ結婚もしてないだろ。」


「俺は今の事件解決が目的で、ヤクザと関わる気は無いんでその点はご心配なく。あと結婚は運命の人と出会ったらしますんで、そこも心配ご無用です。」


「成る程な。分かった。」


「まあ…でも、今回の事件はあの会社の扱う架空の不動産も1つは関わってますし…多少は会社の事も調べないとですが…多分あそこから証拠出すのは難しいでしょうね。色々手を尽くされてますし。今は別方面からの捜査に切り替える話になってます。」


「ははは、まあ色んな意味で圧力はありそうだな。」


「でしょうね。荒木さんは何であの会社に潜り込んでるんですか?」


「まあ昔の情報の記憶から、とりあえずかな。あそこからだけで何か分かるとかは難しいから手当たり次第やれそうな事からしてるって感じだな。近い内にお前の忠告通りあそこからは手を引く予定だ。」


「荒木さんは高木組を潰したいんですか?」


「うーん、ちょっと違うかな。まあ俺1人がそんな大それた事や警察の改革みたいなんは無理だよ。俺は目の前で助けを求めてる人を助けたい…結局はその為だろうなあ。」


「…分かった様な分からない様な…ですが分かりました。」


「まあ今日は久々にお前とじっくり話せて良かった。今後は俺と関わるのはやめておけ。目をつけられて出世できなくなるぞ。」


「まあ出世したいとは思ってませんが。目立つ場所では荒木さんにも迷惑かかるかもなんで会わない様にします。とりあえず俺の連絡先だけは渡しときます。荒木さんも教えて下さい。」



「相変わらず昔から強引でワガママな奴だなあ。」





そう言って連絡先を交換した。

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