第10話 仲直り

「あっあらっきさっ…ひっく…ホント…に…ホン…トにっ…ひっく…ごめっごめんなっさっ…」


荒木さんは何も言わずにただただ優しく頭を撫でていた。



あの後本当に大変…と言うか大騒ぎだった…



マドカさんが110番通報しそうになったり、店長がカラーボール握って荒木さんに向けて構えたり…


何とか私がしゃっくりしながら、大変お世話になった人だからって事情を説明した。


荒木さんの見た目が怖すぎるのも原因の一つ…

だけど、私が子供みたいに大泣きしてしまったのが一番悪い…



なんとか荒木さんを連れ出して、近くの公園のベンチに座った。



スーツでない荒木さんは少し新鮮だった。



私が漸く落ち着いて来たので話し始めた。


「荒木さんは…私のせいで警察を辞めたと…あれだけ助けてくれて…親身になってくれた荒木さんに…酷いことをしてしまって…いくら脅されていたからって…私は最低です…」


「あはは。そんな事誰が言ったの。」


「蓮さんが…私に荒木さんをハメるように指示して来て…言う通りにしないとバイト先に私の動画を…バイト先に居られなくなるって…やっと見つけた私の居場所を…そのせいで荒木さんは警察辞めたよって笑って…自分の事しか考えてない私は最低です…」


「そっかー。まあそんな所かなーって思ってたからさ、アレンちゃんのせいで辞めたわけじゃないからさ、自分を責めないで。」


「…」


「アレンちゃんには、自分の幸せになる事を一番に考えて欲しい。警察辞めたのも他に理由あるから。本当にアレンちゃんのせいじゃないからね。」


「…」


「アレンちゃん達を直接使ってた奴らは粗方片付けたけどさ…それは見えてた所だけでさ、やっぱりまだ根っこは残ってる。」


「…」


「それにね、まだ蓮が野放しな所も気掛かりでさ。高木組と繋がってるし、また落ち着いて来たらアレンちゃんみたいな事される子が出てくる可能性も高い。あいつがいる限りアレンちゃんも安心出来ないでしょ。」


「…」


「まあ、俺も高木組について深く探りすぎちゃってさ。知らなくて良い事まで知っちゃったのよ。」


「…」


「だから警察から排除された訳。アレンちゃんの供述を強要したのも、警察と高木組だから。アレンちゃんは利用されただけだからさ。自分を責めないで。」


「…」


「まあ、俺もあのまま警察居ても監視されて身動き出来ないから丁度良かったんだよ。あはは」


「…」


「まあ、俺は身軽になったから、まずは蓮を調べてた。とにかくあいつは何とかするからさ。」


「あんな奴!あんなパチンカス!荒木さんなら一撃です!もう殺っちゃって下さい!私荒木さんの為なら何だってやります!」



「パ…パチ…ン…」


「アイツ今はホストすらやれずに寄生虫でパチスロばっか!まだアイツよりただのチンカスの方が世の中の為になってる!」


「アレンちゃん…逞しくなったね…」


「どん底見て来たんで!」


「う…うん…でもね、俺も刑事の端くれだったからさ…」


「端くれじゃ有りません!私にとって荒木さんは輝く光です!」


「う、うん、有難う…だからね、蓮をまあ物理的に殺るのは俺にとっては簡単かもだけどね、ちゃんと法の元で裁いてもらうから…」


「何だか組長らしくない発言だけど…荒木さんの希望は尊重します…」


「今更だけど…俺は組とか作って無いからね…」


「私にも何か出来る事無いですか?何でもしたいです。アイツに女の私の色仕掛けは通じないと思うけど…」


「う、うん…気持ちだけ貰っとくね…アレンちゃんには蓮の事で分かってる事を教えて欲しい…今の所直接に接触してくるのがアレンちゃん位しか分からないから…」


「うーん…来るのは不定期なんですよ。正直いつ来るのか予想は難しいです…ただ

…」


「?」


「出会った当初より話し方がおかしくなってる気もします…なんて言うか…無駄にハイテンションってのか…」


「成る程ね…凄い良い情報有難う。少し目処が立ってきた。」


「多分また私の元に来るかと思うので、何か引き出してみます!」


「有難う。でも無理しないでね。アレンちゃんを危険な目にだけは合わせたく無いから。守るのが一番の目的なのは忘れないでね。」


「有難うございます。もう私、大抵の事には怯みません。いざとなったらアイツの玉潰します。」



「う…うん…程々にね…アレは一応急所だからね…男にとってはかなり辛いよ…多分俺でもやられたら転げ回る…」






「でも…アレンちゃんが元気になってくれて本当に良かった。櫻子さんも心配してたんだよ。俺が警察辞めた時もケロッとしてたのに…」


「あはは。櫻子さんは荒木さんの事信頼してるんだなあ…やっぱ凄いなあ。櫻子さんめちゃくちゃ美人だし、それでいてサバサバしてて可愛いし、憧れる。荒木さんが惚れるのも分かる。やっぱり結婚した時も俺について来いって感じでしたか?」


「うーん、なんて言うか…半分櫻子さんに脅迫された感じと言うか…」


「?」


「櫻子さんがね、美大出てんだけどさ、卒業制作で家の壁くらい馬鹿でかい絵を描いててね、美術館に展示してさ、俺と裸で抱き合ってる絵を描いてて飾ってたの。その絵の前で結婚しろって脅された…まだ付き合っても身体の関係も無かったのに…」


「…」


「俺もうその時刑事だったからさ。公衆の面前で断ったら何かの罪に問われそうじゃない?」


「でもまあ…やっぱり荒木さんは櫻子さんが好きだったんですね!羨ましい。ふふふ」


「もうこの話は終わり!」




「はーい!じゃあ何か分かったら連絡します!」

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