ロシナンテ(RTX1200)に休暇を
B52
第1話:レガシー村の日常
ドン・MZ・キホーテはレガシーの村で平穏に鍛冶屋(社内システム担当)をしておりました。やれ鍬(パソコンの調子)が悪いだの、水車の水が止まった(Zoomの映像がプチプチ切れる)だの。包丁で指を切った(エクセル関数がエラーになる)だの、椅子の座り心地が悪い(これは本当に椅子の座り心地が悪い)だの。飼っていた猫が死んだ(電子レンジが壊れた)だの。言ってくる村人を相手に、時々苛立ちを感じながらも日々、平穏に暮らしていました。かつて王都で鍛冶職人をしていた彼からすれば(システム会社のフィールドSEから普通の業務会社の社内SEに転職した)、それらのことは苦痛でも何でもありませんでした。
レガシーの村は外部との交流も少なく、訪ねてくるものも少なかったのです。そんな外れの村(NTT西日本の閉域網フレッツVPN)の中で日々平穏に、穏やかな時間が流れていました。
ときに、村のはずれの森のその先に、物見櫓を建てることになりました(関東に新事業所を建てることが決まった)。物見櫓は村からは少し距離があり、人の足や狼煙だけでは不安が残る場所でした。人の足や狼煙では心もとないものがあります(東日本に閉域網対応すると意外とコストが高い)。ドン・MZ・キホーテはふと思い出しました。王都にいたときは時折伝書鳩が飛んでいる(インターネットVPNで外部接続したりしていた)のを見たなと。
彼は、村人にこう提案しました。森から鳩を連れてきてそれぞれに住まわすのだと(無料のインターネットサービスでインターネットVPNをはるのだと)。彼の目論見は見事に成功し、物見櫓と村の間では毎日一羽、パケティクスとSoftEterと名付けられた鳩が飛ぶことになったのです。
物見櫓は村人にたいそう喜ばれました。遠くに走る鹿の群れや、街道を歩く商人の馬車などを見つけては伝書鳩を飛ばし、村人たちに伝えていました(新規案件の可能性が広がりました)。
ある日、ドン・MZ・キホーテが屋根裏部屋を覗くと、そこではパケティクスが随分くたびれた様子で、餌箱の中から小さな粟の粒ばかりを選んで食べておりました。餌箱には丸々太った大麦や、ヒマワリの種なども入っているのに、粟の粒ばかりを食べるのです。ドンは村人たちが「最近鳩の戻りが遅い」と話しているのをふと思い出しました。
すると、ガタガタっと音がして、SoftEtherが入ってきました。彼は、体をねじらせて小窓をくぐり、それはもう、たいそう疲れたといわんばかりに床にしゃがんでしまいます。「おお、SoftEtherお疲れ様」ドンは彼を持ち上げると、足環の中に入っている手紙をつまみだそうとしました。ドンはおかしなことに気が付きます。SoftRtherの両足に足環が付いているのです。そればかりではありません。彼の足には紐が付いていて、紐には、木の実やどこかの庭先の飾りのようなものまで、あれやこれやと引っかかってぶら下がっていました。(インターネットVPNでつなぐパソコンの数がどんどん増殖しておりました)
「これは…いかん」ドンはつぶやきました。村の人たちは、鳩の便利さに気が付くとめいめい勝手にモノを運ばせていたのです。(やれ家で仕事をするとか、出張先で使うとか理由をつけて、あちらこちらでインターネットVPNを使っていました)
「このままでは鳩たちが死んでしまう(IPアドレスが足りなくなる)」ドンは声を荒げて村人たちに迫ります。「そもそも鳩というのは小さな手紙を運ぶためのもんじゃ、何でもかんでも運ばせていたら、飛べなくなってしまう(好き勝手にどこでも社内につないでいたら、セキュリティも何もあったものではない)」しかし村人たちは聞く耳を持ちません。「そうはいっても便利だし」「今更もとになんて戻れない」
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