幼い記憶 -3-

そんななにも変わらない日常を過ごす内に女は何食わぬ顔で帰ってきた。

さも今日朝仕事行って夕方帰ってきましたよ、とでも言いたげな顔をして。


喧嘩の後、女が数日ほど家を空けるのはよくあることのようで男の方も気にした素振りはなかった。

その後も相変わらず男と女はなにかあるとすぐ怒鳴り合っていた。リビングに汚泥の空間が広がるいつもの日常が戻っただけだった。




そんな日を過ごして暫く経ったある日、私が3歳になるくらいの頃だろうか?私は急に女に連れられて外に出た。

外に出る機会などそれまでの私にはほとんど無く、精々私の定期検診か予防接種の時くらいだった。


明らかに同じ頃の子供より小さく細い私を診た医者からも特に何も言われなかったのか当時は普通に検診には行っていた気がする。

予防接種の時は集団予防接種だったのか毎回大きな複合施設へ行っていた。その一角が予防接種会場となっていて泣いている子供を抱えた母親たちが子供をあやしながら集まっていた。



私はその様子を女に手を引かれて無関心に眺めているだけだった。注射なんて腕を出していれば勝手におわる。ただそれだけの事象だった。


予防接種自体にはなにも関心がなかったがその後をいつも私は楽しみにしていた。

不思議な事にいつも私に無関心な女は予防接種で複合施設に行くときだけは注射が終わった後は必ずアイスクリーム屋でアイスを買ってくれるのだった。

ただ、私はなんのアイスを喜んで食べていたのか全く思い出せない。それでもその『アイスを買ってもらっていた』という嬉しさだけは覚えている。



そんな感じで今回も車に乗って出かけるのかと思っていたがそうではなくそのまま女は私の手を引いたまま駐車場を抜け、高いマンションの隙間を通り、私の背より高い木々を抜けて暫く歩道を歩いて私は大きな門扉の中に連れて行かれた。中は公園と建物が一緒になったような場所でその建物の中に通された。



女は誰かと少し話した後、別の部屋に消えていった。



私のところには若い女性が残り、一緒にお絵かきをして待っていた。なにか女性から色々と話しかけたような気がするがどんな会話をしたかまでは覚えていない。自由に絵を描けるという事に夢中になっていた。



2、3時間はずっと絵を書いていたのかもしれない。気付けば空がすみれに染まる頃、私は女から呼ばれ帰路に着く。特に会話はなく、夕闇に後ろ髪を引かれるように家に帰る。




その日、これから保育園という場所に通うことを伝えられる。

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