第十一話:視聴者との交流

「……第二の“芽”、ここだな」


ーー

【街ダンジョン化:17% → 20%】

【商店街エリア:ダンジョン影響・中】

・音の吸収

・視界の歪曲

・人間の“影”が残留する可能性あり

ーー


 シャッター街は静まり返り、

 照明はチカチカと瞬いて不規則に明滅している。


 音が消えた世界。

 なのに耳鳴りだけがやけに鮮明。


 日奈子は俺の袖をぎゅっと掴み、不安げに囁いた。


「こ、こんなところ……普通に歩くだけで心臓に悪いよ……」


「気をつけよう。何がいるかわからない」


 ウィンドウが、警告のノイズとともに展開される。


ーー

【異常芽(2/3):スウォーム型】

・複数の小型影体が同時孵化

・制圧しないと“巣”へ進化

ーー


 日奈子はスマホを握りしめ、深呼吸した。


 配信は切れていない。

 ここまで来てしまった以上、やるしかない。


「……じゃ、じゃあ……次……いきます……」


 桜井が意を決して、小声で宣言する。

 その瞬間、コメント欄が加速した。


視聴者数:257

《桜井ちゃんの声ちっさ……最高》

《“守ってあげたさ”が暴れてる》

《でも命の危機は普通に怖いんだが》

《宮本の立ち姿だけで強いの草》

《初見だけどこれ映画?》

《※ガチです》


「みんな……その……コメントありがとうございます……」


《たどたどしい》

《がんばれー》

《がんばれww》


 “応援”が力になる。

 胸の奥に、視聴者の温度が入ってくる。


ーー

【配信バフ:視聴者との一体感↑】

・回避力+30%

・集中力+15%

・パーティー連携:中

ーー


 覗き込んだ悠真がボソリと言う。


「……こういうコメント文化……悪くないな……」


「やっ、やめて急に言わないで!! 恥ずかしい!!」


《もっと言え宮本》

《女の子の照れでご飯食える》

《イチャつくな、しばくぞ》



──



 と、その時。


 バチッ……!!


 アスファルトに黒いヒビが走り、

 “人の形を模した影”がずるりと立ち上がる。


 顔のない影が、無音でこちらを向く。


 桜井が息を呑んだ。


「ひっ……!」


ーー

【影残留体:エコー】

ランク:E

正体:ダンジョン化で失われた“行動データの残骸”

攻撃:音の吸収/影張りつき

ーー


 桜井がスマホを構え、恐怖で噛みながら口を回す。


「やっ!? え、あ、あの!? こ、やばいです!!」


《落ち着けwww》

《やべぇってこれ!!!》

《シリアスなのにわろてまう》

《語彙力wwwwww》


「桜井さん、落ち着いて!そのまま撮ってて!」


「う、うん!!」


ーー

【配信バフ:大波】

・敏捷+3

・動体視力+2

ーー


 音もなく影の腕が伸びる。


 日奈子が叫ぶ。


「後ろ!!」


「っ!」


 転がるように回避する。

 視界が研ぎ澄まされ、影が“黒い霧のトレーサー”となって残る。


(避けられる……!)


 俺は全力で踏み込み、拳を叩き込む。


 ドォンッ!!


 影の体がバグったようにカクつき——

 霧散。


「すご……!」


《うわあああ!!》

《今の回避どうなってんだ!?》

《女の子見に来たらアクション映画だった》


「や、やった!」


「まだだ!」


 喜ぶ日奈子を制す。


 霧散したはずの影が螺旋状にノイズ化し、

 洪水のようにあふれ出す。


「……っ!」


《キモ過ぎる!!》

《本当に何が起こってんだ》


「わ、わたしもっ!」


 桜井の指先に光が灯る。

 視聴者の“恐怖と期待”が光へ変換されていく。


 ドクン。

 ドクン。


 肩口から光があふれ、

 髪がふわりと浮き上がる。


「来る、来る……っ!」


「桜井さん!後方頼む!」


「うん!!」


 影の群れが襲うより早く——


 バチィンッ!!


 桜井の手のひらから“光の散弾”が炸裂。

 影の一帯が霧散する。


「なにその力……!」


「わかんない!でも……見られてる感じすると……身体が勝手に動くの!!」


《今の光なに!?》

《これもしかして、今話題のチートのやつじゃね?》


 さらに脈動。


 光が濃く、熱が走る。


 日奈子は両腕を広げ——


 ズバァァッ!!


 天井から“舞台照明”のような光が落ち、

 一本の巨大な光矢となって影を貫いた。


「こんなの……初めて……!」


「桜井さん!そのまま撃ち続けて!!」


「うん!!」


 息が合う。

 ゲームのマルチプレイのように。


 さらに夥しくコメントが流れる。


《うわ、連携やばい》

《お前ら、ネットニュース見ろ。これガチや》

《確認した。信じられん》


 桜井は光を胸元で収束させ——


「“配信ノ光スペス”!!」


 ドォォォン!!!


 衝撃波が商店街を揺らし、

 影が悲鳴を上げて消し飛ぶ。


 残ったのは異常芽の核。


「……やったな」


「うん……皆が見てくれたから……!」


 ガッ!!


 俺は拳を叩き込み、核を粉砕した。


ーー

【異常芽(2/3)破壊成功】

街ダンジョン化:20% → 18%

黒川奪還クエ:進行度+10%

スキル解放:戦闘クエスト(80%)

ーー


「やったよ!!宮本くん!」


 気づけば視聴者数は 1000人を突破していた。


《商店街にヒーロー生まれてて草》

《おい、日本の未来はお前らに託したぞ》

《夢じゃないのか》

《夢ということにしよう》

《現実から逃げるな》


 ポン。

 2人の前にクエストが表示される。


ーー

【異常芽(3/3)】

位置:公園エリア

危険度:高

ーー


「あとは……ここか」


「うん。行こう」


 二人は歩き出す。

 闇の公園へ続く道へ。


 そしてその背後で——


 シャッターに“歪んだ笑い顔の影”が浮かぶ。

 まるで何かの“前兆”のように。

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