戸惑い
暦海
第1話 朝川瀬那
「――なあなあ
「ああ、あれはすごかったな。まさか、最後にサヨナラホームランなんてな」
「ほんと、鳥肌モンだったよ! テスト前だって言うのに全然集中できなかったわ」
「いや、だったら見ちゃダメでしょ野球」
「いや〜それは流石に無理だわ」
生温い風が頬を撫でる、ある平日の放課後のこと。
自宅から徒歩30分ほどの位置に在する公立校、
……さて、そろそろ帰ろうかな。そもそも、何となく耳を傾けちゃってただけで、
「――なあ
「……いや、僕はまだ承諾は……その、ごめんなさい」
「……いや、謝ることじゃねえけどさ」
それから、数分ほど経て。
昇降口にて、ふと届いたのはありありと不服を孕んだ声。……まあ、それほど予想外かといえばそうでもないけども。むしろ、今日も来るかなとは思っていて。
ともあれ、声の方へ振り向くと、そこには
「……ところで、良かったの? 随分と急いで来たみたいだけど、流石にあのタイミングでお開きになったわけじゃないよね?」
「ああ、そんなの気にすんなよ。そもそも、別に何時までいようとか約束してるわけじゃねえし。まだ話したいヤツは残って、帰りたいヤツは帰る。みんなそんな感じだしな」
「……それなら、いいんだけど」
それから、ほどなくして。
帰り道、少し躊躇いつつ尋ねてみる。あの盛り上がりから判ずるに、流石にあのタイミングでお開きになってはいないとは思ったけど、果たしてそのようで。……まあ、内輪の中で問題がないのなら僕が心配することでもないか。
「――それでさ、逢糸。お前も聞いてたかもしれないけど、見たか昨日の試合」
「……うん、テスト前だし少しだけだけど……でも、最後のホームランはほんとにすごかったね」
「だよな! はぁ、マジで早く野球してぇ」
その後、住宅街を歩きつつそんなやり取りを交わす僕ら。さっき教室で話していた、昨日のプロ野球の試合についてで。まあ、僕は少ししか見ていなかったんだけれど……それでも、最後のホームランはリアルタイムで見ることができて。……うん、ほんとにすごかった。野球に詳しくない僕でも、思わず鳥肌が立ったくらいで。それこそ、瀬那くんなら尚のこと……ただ、それはともあれ――
「……でもさ、瀬那くん。もう何度も聞かれてうんざりかもしれないけど……なんで、そんなに僕に構うの?」
ふと、そう尋ねてみる。……いや、この言い方は良くなかったかな? 嫌なわけでも、迷惑なわけでもないんだし。
ただ……率直に、そう思うだけ。と言うのも――瀬那くんは眉目秀麗かつコミュ力も高く、そして誰に対しても優しい。そんな素敵な素敵な彼であるからして、どうして僕のようなクラスの隅にひっそりといる言わば空気のような……いや、それは空気に失礼か。まあ、それはともかく、ほんとにどうして――
「……なあ、逢糸」
そんな疑問が巡る
「――お前が、どうしてそんな自虐的にならなきゃならないのか、俺には分からない。それでも……俺は、お前と仲良くなりたいって思った。ただ、そう思った。それじゃ駄目か?」
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