愉悦を貪り喰らう 其の一

 残るは一体、熊たちの統率個体だけ。対して僕たちは多少余裕のある三人!

 勝ったな、風呂買ってくる。


「ギュ、ルガオオオォ!!」


「このままっ——」


 三人と一体が相対しようとしたその時——




 グチュ




 ——空からの氷の大質量つららが熊を潰した。


「ククク、ケケケケケ!」


 氷柱の上に不敵な笑みを浮かべる男がいた。見た目は黒を主として水色の装飾がなされている狩人の服装、顔は帽子で隠れておりよく見えない。人の形をしているがと本能的に理解できた。


「なっ?!」「ふぁっ!?」


 邪悪。この一言で片付けていいのだろうか。人々の根元にある感情。


 怒り?悲しみ?いいや、この人ではない何かはそんなもので動いてはいない。


「七十二体のレイドモンスターの内の一体。公爵・『愉悦バルバトス』です!気をつけてください!!きますっ!」


 愉悦。愉悦だ。痛ぶり、嬲り、追い詰め、絶望させる。

 傲慢で冷徹な狩人は笑い、そして人々に敵意を向ける。


『愉悦』から放たれる矢は冷気を纏い氷となり僕らに襲いかかってくる。


「ちょっと待ってくれ!ホーミングなんだが?!」


「レイドモンスターですし、我慢してください!」


「『執筆』!『執筆』!」


 厄介なのは、矢の一本一本が別々の速さで迫ってくるのでタイミングが読み取りづらい!!一々いやらしいんだよ!!


 埒が開かないので僕とNokiyouは殴りに行く。正面からビブラスラップを持って。


 カァァッァン!!


「最高だな!ブラザー!!」


 あと数メートルのところで鳴らす。すると即座に僕と『愉悦』の位置が入れ替わり、挟み撃ちの状態となる。あとは振り向いて殴るだけ!!

 どっかの呪術を使うアニメで見たことある?知らんよ。


「ケケケケケケケ!!!」


 居ない。瞬間移動をしない限りは無理だろ普通!!何をしたんだ!いってみろ!!

 奥の木の上。口を押さえて笑いを堪えている『愉悦』はそこにいた。


「『執筆』!爆ぜて下さいレイドモンスターさん!!」


 ——爆発。が、爆発とは全く関係の無い場所から『愉悦』は現れる。


「巻き添えを食らったんだが?!」


「当たる人が悪いんですよグルイさん!」


 ええい。やる時はやると言わんかい!!巻き添えを喰らうでしょうが!!


「おい、Nokiyou!!どうする?逃げるのかっ?!」


「無理です!当たりません!帰りたいです!」


 僕とアルシリアは必死こいて叫ぶ。

 逃げると言え!!勝てっこねぇよ!!こんなもの!全部瞬間移動で躱されるもん。あとアルシリアは勝手についてきただけだよね?


「逆に聞きますけどこの威圧感の相手から逃げられると思いますか!!」


「「思わない」ません!」


「一旦何度か接敵経験のある私が時間稼ぎをするので、何か作戦を考えてください!!」


 満場一致だな。よし、どうやって攻略するかな。僕は手招きをしてアルシリアを呼び付ける。


「どうする?」


「いや僕に聞かれても何もできませんよ?」


「役立たずが。」


 お前も一緒に考えろっ「今、役立たずって言いました?!」てことだよ。なんでそんなこ「ひどい!」とも考えられないんだ。とにかく今時間稼ぎをしてくれるか「そんな人だとは思っていませんでした!!」ら、、、、


「よし、一つ思いついた。アル、お前が紙に『敵諸共自爆する』って書いて突っ込んできてくれないか?」


「やめてください!!僕死んじゃいますよ!?」


 むしろそれが狙いだよ?


「まず一旦整理しよう。相手はどんな攻撃も瞬間移動して避けてくる。あと、速度がそれぞれ違う十本の矢、これは一定時間で消滅するが定期的に補充してくるので避けまくらないといけない。」


「逆に言えばこの二つだけなんですけどね。グルイさんご自慢の作品たちは使わないんですか?存在消すとかちょちょいのちょいですよね?」


「バカ言え、そんなもの使ったら全員の存在が消えるわ。」


 強い効果があるものは相応のデメリットがある。大抵のものは自身に効果がやってくるとかだけれども。


「お前のとっておきは?」


「別に使えますけど、、、当たりませんよ?」


 使えるのならば、いいのだ。けれど問題は当てないといけないこと。


「てか、Nokiyouさんがそろそろやばそうですけど大丈夫ですかね?」


「大丈夫じゃない。大問題だ。」


 くそっ、もうタイムリミットが迫って来ている!!何か、何かないのかっ?あいつに一発当てる方法っ、、、、


「何かこう、ないんですか?!相手の動き止めるやつとか!!」


「止めるっ、止めるって言っても、、、、。」


「今は一人じゃないんですよ!?早く!!死んじゃいますって!!」


 一人じゃない、、、そうか一人じゃないのか。あれを使えるじゃないか!!


「アル、使えるやつが一つだけあった。けどセッティングまで時間がかかる、五分。五分で終わらせる。死ぬなよ?」


「わかりました!!それで絶対動きを止めれるんですね?!信じますよ!いってきます!!」


 死にかけのNokiyouに勢いよく加勢しにいってポーションを投げつけるアルシリアを横目にインベントリを開き組み立てを開始する。


 完成まであと——五分


 ————


公爵『愉悦バルバトス』:七十二体いる、デスポーン不可のレイドモンスターのうちの一柱。黒を基調とした狩人の服を纏っており、ところどころに水色の装飾がある。弓を使い、今は十本の矢を飛ばしてくる。全ての矢の速度は異なるので避けにくい。

 瞬間移動を用いて回避行動を行うが地力も強いので軽々避けられたりする。彼はまだ本気を出してはいない。






楽しみたい。この世の全てを。希望も勇気も勝負も勝利も憎悪も悪寒も寒気も憤怒も軽蔑も悪辣も内乱も戦争も喧嘩も狂気も呪詛も深淵も地獄も死も大罪も終焉も腐食も老いも悪行も軋轢も暗澹も遺恨も陰険も怨嗟も厭世も汚名も血も絶望も———

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