6.   心は空に。運命は悪戯に。

家に帰ると誰もいなかった。当然と言えば当然だ。平日のこの時間帯に誰かいるわけがない。いたところで鬱陶しいだけだが。


「結局俺は、何が変わったんだろうな。」


あの日公園のベンチでもう誰も信用しないとか言ったくせに弱さを見せた。

どこか心の底で美穂を疑わなかったから足元を掬われた。

甘かったんだ。俺はいつまで経っても変われないままだ。

ベッドに横たわって天井を眺める。涙はあの日から枯れたまま。


「馬鹿らしいなぁ、」


もういい。これで再認識した。結局俺が悪かった。いつもいつも1mmでも信じてしまったから。その1mmを否定することもできなかったお人よしだったんだから。あの母も然り美穂も然り

だから、もういいよな?

あの日復讐なんてする気もないとか言ってたくせに今の俺はどこか楽しかった。

あぁどうせだったら気持ちよくなりたい。


「全部壊しちゃおう。」


何かが心に張り付いた。外界から弱い自分の心を守るための自己防衛の殻。おそらくもう外されることはないだろう。自分でもそう感じるほどに見方が変わった。

そう実感した俺は周にメッセージを送る。


(晴十)明日から情報を集める。俺が帰った後のことも聞きたいからこのあと俺の家に来てくれ。

2時くらいでいい。鍵はかけないからそのまま入ってくれ。


まだ既読はつかない。そりゃそうだ。授業中だもんな。

腹減ったなぁ。今日は外食しよう。髪も切らないといけないしな。

そのまま着替えずに家を出る。7月になったばかりだというのに、どこか風は冷たかった。



どこか行きたいところを決めていたわけでもなかったので。駅近くに出かける。

ここら辺は都会だからその分この時間帯でも人は多い。

本来なら学校にいるはずの生徒が堂々と制服を着てこの時間に外に出ていることがよっぽど違和感があるのだろう。周りから少し視線を感じる。

髪を切れればどこでも良かったので、適当な雰囲気のある店に入った。


「いらっしゃいませー」

「予約はされてますかー?」

「してません。」

「こちらへおかけください。15分ほどお待ちください。」

「わかりました。」


誘導された席へとむかい座る。

あまりこういうのには......慣れないな。

でも大丈夫だろう。しっかり金は払っているからそこら辺の人よりよっぽど信用できる。

どっかの誰かが信用は金で買えるみたいなニュアンスのことを言っていた気がする。違ったっけ。今それを少しだけ実感した気がする。


店内を見回すと、綺麗でふわふわした感じの室調だった。棚などにはぬいぐるみや小物があったり。

俺はあまり部屋に小物を置かないけど。この雰囲気は好きだった。


「お客様〜準備はよろしいですか?」


店員が声をかけてきた。もう15分も経ったのか。そんなことを考えていると、お構いなしに話し続ける。


「本日はどのような感じになさいますか?」


「.............」

盲点だった。来たのはいいもののなーんにも決めていなかった。店員はキョトンとした表情だ。

この人めちゃくちゃ美人だな。艶のある黒髪に淡いウェーブがかかっている。

いや、それはどーでもいい。

女というだけで話すのが億劫である。

拘ってるわけでもないしなんでもいいか。


「店員さんのお好きなようにしてください。」


やはり敬語は楽でいい。しっかりと境界線を引ける。敵から自分を守れるからな。

そう言うと女の店員さんは微笑んだ。


「わかりました!私の見立てによるとお兄さん元はめっちゃいいのですっごくかっこよくなりますよ!」


一般男性はこう言う子に騙されて好きになっていくんだろうな。

あいにく俺には響かない。そんなことを思っていると店員が気さくに話しかけてくる。


「私、この店の店長の八代 佳奈って言います!」


店長なんだ。返答に困りつつ、笑顔を

「よろしくお願いします。八代さん。」


返事をすると。

子供のように無邪気な笑顔を返してくれた。


「お兄さんの名前はなんて言うの?」

「鈴屋晴十です。」

「じゃぁじゃぁ晴十くんって呼ぶね!!」


初対面からフランクすぎやしないだろうか。

こう言う気さくな感じを演出して客を寄せるのか?

なかなか手が込んでるな。感心感心。

店員さんもとい八代さんが髪を切りながら聞いてくる。


「晴十くんってさ。もしかして双葉高校に通ってる?」


なんでわかったんだ?あ、そうか今制服だった。


「ええ、双葉高校です。」

「お!やっぱり?何年生??」

「今は2年生ですね。」

「私の妹と同い年だね!妹も双葉なんだ!」


学年に八代って人いたっけ。わからないな。1学年300人いるんだから覚えている方がおかしいだろう。

そもそも俺は友達が多い方でなかったし。


「でさでさ、今日って2年生が学校終わるの12時30分だよね?」


小悪魔的なスマイルをして聞いてくる。めんどくさいな。どう返すべきだろうか。肯定しておくか。


「はい、実はあまり体調がすぐれなくて、」

「にしては元気そうだなぁ?」

「そう見えますか?気のせいだと思いますよ。」

「そう言うことにしておいてあげようじゃないか!」

「どうもありがとうございます。」


その時いじっていたスマホがなった。

目を通すと周からのメッセージだった。

(周)わかった。今日帰った後の様子も含めてまた話す。

(晴十)ん

それだけ返しておいた。時刻を見ると現在は1時。髪が長かったのか意外と時間がかかったな。

八代さん曰くもう少しかかるらしい。

そんなこんなで雑談を文字通り雑に流していると店の呼び鈴が鳴った。


「お姉ちゃん、ただいま〜!」


声に釣られて玄関を見る。

そこにはいつか見た女の子がいた。




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絶賛テスト週間です。そろそろ勉強しないといけませんが4連休なので1日2か3はあげたいと思います。

そろそろ美穂回出した方がいいすか?

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