第3話 女子よりの貢ぎ物
「まぁもっとも……学校に行って知見を得なければ意味がないな」
結局、真一はこのアンゲルス連邦共和国を全く知らないので、やはり中学で様々な知識をつける必要があるだろう。ただ、先ほど会話ができてメッセージも読み取れたから、言語面では問題がなさそうではある。
真一はクローゼットを開け、そこに掛かっていた制服に袖を通す。ブレザータイプの瀟洒なデザインだが、それ以上に驚いたのは、ハンガーに吊るされた服の数々だ。どれも高級そうな生地が使われており、一目でブランド品だと分かる。中学生が着るには分不相応なものばかりだった。
(……おれって金持ちの子どもなのか? それにしたって、こんなブランド品ばかりってこともないだろう)
壁に立てかけられた姿見に、自分の姿を映す。そこにいたのは、自分でも見惚れてしまうほどの美少年だった。金色の髪は天使の輪を描くように輝き、碧い瞳は宝石のように澄み渡っている。前世の自分とは、遺伝子レベルで構造が違う。
「……ハッ。こりゃ人生イージーモードだわ。10000年に一度の美少年だからなぁ」
死ぬ前の自分を思い出し、卑屈に笑うしかなかった。しかしその笑みすら、憂いを帯びた魅力的なものに変わってしまうのだから、もはや自分が恐ろしく感じる。
「さて、行くか」
メイド・イン・ヘブン学園の制服をしっかりただし、真一はリビングへと降りていく。
リビングでは、ふわふわのスクランブルエッグ、厚切りのベーコン、焼きたてのクロワッサン。そんな食事が広がっていた。洋食の極みだが、ここは異世界でありおそらくヨーロッパの国なので仕方ない。
「ほら、リンちゃんはもう外出てるわよ。アンタも早く食べなさい」
おそらく母親だと思われる中年女性が、真一に発破をかける。真一は「はいはい」と返事し、スクランブルエッグをナイフとフォークで食べ崩していく。
(40代くらいの母親だけど、そんな美人にも見えないな。典型的な欧州人の40代って感じだ)
なおさら疑念を抱いてしまう。やはり、あの女神だか天使だかが言うように、真一の魔力は魅力度に全振りされているのか。まず魔力がなんなのか分からない始末だが、これから学んでいくしかない。
飯を食べ終え、歯磨きした後に外へ出る、これが、実質的に初めての異世界での外出だ。ワクワクしつつ、不安を抱きつつ、真一は家から出た。
「リン、待たせたね」
「大丈夫だよ~。だって、シンといっしょに登校できるんだもん」
(そんなこと言われて返す言葉なんて、おれぁ知らねぇぞ?)
「どうしたん? 悩ましい顔して」
「あぁ、いや。おれもリンと登校できて嬉しいよ」
前世で言った場合、下手すれば刑務所行きだが、果たしてどうなるか。
「えーっ! めちゃ嬉しいんだけど!!」
(まぁ、この見た目の男子にそう言われたら嬉しいか)
結局、人間は顔でほとんどを評価されてしまう。ブサイクの内面なんて、知ろうとも思わないのが普通の人間だ。しかし、今の真一はイケメンを通り越したイケメン。多少内面が終わっていても、女はまず尽きないはずだ。
そして、家を出て学校へ向かう道中も、異常事態は続く。すれ違う女子高生は頬を染めて振り返り、散歩中の主婦はうっとりとため息をつき、メス犬すらもシンに尻尾を振って擦り寄ってくる始末だ。男子生徒たちからは、殺意にも似た嫉妬の視線を向けられる。
(……けッ。見た目が違うだけでこんなに変わるのかよ)
真一の心は冷めていた。冷めきっていた。確かに今の真一の顔立ちは非常に整っているが、同時に前世の真一に見向きもしなかった、いやそれどころか嫌悪すらしていたであろう存在たちが、発情期のようにこちらを見てくる。正直、腹が立つ節すらあった。
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