袖の香はひそやかに薫る 平安身代わり恋ものがたり
深山くのえ/角川文庫 キャラクター文芸
第1話
また、誰かが用事を言いつけにきたのか。
早く宮中に帰りたい。いくらこの家の大事な姫君の婚礼の夜とはいえ──いや、大事な婚礼の日にまで、わざわざ呼び寄せて嫌がらせをするなど、度が過ぎている。どうせ高貴な
だいたい当の姫君とて、あれほど
とにかく、夜が明けたらすぐに帰ろう。自分はもう、ここの姫君の女房ではないのだから──
「…………」
麗子はふと、目を開ける。
衣擦れの音が止まった。自分の
小さな話し声。
みしり、と床を踏む足音がする。
女のそれではない。
しまった。謀られた──
麗子はとっさに文机の上にあった
身代わりになどなるものか。まだわたしを小生意気なだけの女だと思っているなら、大間違いだと知らしめてやる。
麗子が身構え、振り返ったのと同時に、勢いよく
……えっ?
おそらく悪意の誘導によってここへ来たはずの男の、その顔。
違う。
来るであろう男の顔なら、知っているのだ。でも違う。まったく違う。記憶にある顔より、もっと美しい。
入ってきた男のほうも、麗子を見て虚を
これはいったい、どういうことだ。
麗子は
「……あなた、誰?」
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