第13話「デート、そして新しい"一歩"」

翌日、日曜日。

俺は駅前で、心春を待っていた。

時刻は午前11時。

約束の時間ちょうど。

「ゆーま、お待たせ!」

心春が走ってきた。

――いつもと違う姿だった。

制服じゃなく、白いワンピース。

髪は少し巻いていて、薄化粧もしている。

「……」

俺は思わず、見とれてしまった。

「……どうしたの? 変?」

「いや……めっちゃ、可愛い」

「……っ」

心春は顔を真っ赤にして、視線を逸らした。

「……ありがとう」

「……こっちこそ。待たせてごめん」

「待ってないよ。私も今来たところ」

心春は笑って、俺の隣に並んだ。

「じゃあ、行こうか」

「おう」


【映画館】

最初に向かったのは、駅前の映画館。

「何見る?」

「えーと……これは?」

心春が指差したのは、ファンタジー映画。

『異世界の騎士と魔法の姫』

「……まんま、俺たちの作品じゃん」

「だから見たいの。参考になるかもしれないし」

「……作家の性だな」

俺は笑って、チケットを買った。


映画は、予想以上に面白かった。

王道の展開、迫力のある戦闘シーン、感動的なエンディング。

「……やっぱり、映像で見ると迫力あるな」

「うん……でも、小説には小説の良さがあるよ」

心春は俺を見て、笑った。

「想像する余地があるから」

「……確かに」

俺は頷いた。


【カフェ】

映画の後、俺たちは駅前のカフェに入った。

「私、パンケーキ食べたい」

「いいんじゃない」

俺たちは注文をして、席に座った。

「ねえ、ゆーま」

「ん?」

「昨日の配信、すごい反響だったね」

「ああ……視聴者1万人超えてたな」

「うん……正直、信じられない」

心春は少し遠い目をした。

「三週間前まで、完結なんて夢だったのに」

「……俺もだよ」

俺は心春を見た。

「でも、お前のおかげで完結できた」

「……ゆーまのおかげでもあるよ」

心春は笑って、俺の手を握った。

「二人で、頑張ったから」

「……ああ」


その時、店員がパンケーキを運んできた。

「お待たせしました」

「ありがとうございます」

心春は嬉しそうに、パンケーキにフォークを刺した。

「いただきます!」

「……お前、本当に甘いもの好きだな」

「だって、美味しいもん」

心春は笑って、パンケーキを口に運んだ。

「……ゆーまも食べる?」

「いや、俺のコーヒーあるし――」

「はい、あーん」

心春がフォークを俺の口元に持ってきた。

「……お前」

「早く」

「……分かったよ」

俺は観念して、パンケーキを食べた。

「……美味い」

「でしょ?」

心春は満足そうに笑った。


その時、俺のスマホに通知が入った。

カクヨムからのお知らせ。

「……ん?」

「どうしたの?」

「カクヨム運営から、メッセージが来た」

「また?」

俺は画面を開いた。


【カクヨム運営からのお知らせ】

山城ユウマ様、春告鳥様

いつもカクヨムをご利用いただき、ありがとうございます。

この度、貴作品『異世界で拾われた俺が、最強の守護者になるまで』が、「カクヨム新人賞2025」の最終選考に選出されました。

最終選考では、編集部による審査が行われます。

つきましては、後日改めて詳細をご連絡させていただきます。


「……最終選考!?」

俺は思わず声を上げた。

「マジで!?」

心春も画面を覗き込んで、目を丸くした。

「……最終選考って、書籍化が決まるかもしれないってこと?」

「……みたいだな」

「……」

心春は少し黙ってから――涙を浮かべた。

「……嬉しい」

「心春……」

「だって、私たちの作品が……書籍化されるかもしれないなんて……」

心春は涙を拭いた。

「……夢みたい」

「……ああ」

俺も胸が熱くなった。

「でも、まだ最終選考だ。決まったわけじゃない」

「うん……でも、ここまで来れたことが嬉しい」

心春は俺を見て、笑った。

「ゆーまと一緒に、ここまで来れて」

「……俺も」

俺は心春の手を握った。

「お前と一緒で、よかった」


【夕方・公園】

カフェを出た後、俺たちは近くの公園に来ていた。

ベンチに座って、夕日を眺める。

「……綺麗だね」

「ああ」

俺は心春を見た。

夕日に照らされた心春の横顔が、眩しかった。

「……なあ、心春」

「ん?」

「もし、書籍化されたら――お前、どうする?」

「どうするって?」

「だって、お前は『春告鳥』として、もう有名作家だろ。これ以上、忙しくなるんじゃないか?」

「……」

心春は少し考えてから、答えた。

「忙しくなっても、いいよ」

「……いいのか?」

「うん。だって、私が書きたいのは『物語』だから」

心春は俺を見て、続けた。

「読者に届けたい物語がある限り、私は書き続ける」

「……」

「それに――」

心春は少し頬を染めて、俯いた。

「ゆーまと一緒なら、どんなに忙しくても頑張れる」

「……心春」

「だから、これからも一緒に書いてくれる?」

心春は俺を見つめた。

「……ああ」

俺は頷いた。

「一緒に、書こう」

「……ありがとう」

心春は笑って、俺の肩に頭を預けた。

「……ゆーま」

「ん?」

「私ね、ずっと思ってたの」

「何を?」

「ゆーまと一緒に、物語を紡ぎたいって」

心春は小さく呟いた。

「幼なじみとして、じゃなくて。作家として、パートナーとして」

「……」

「でも、それ以上に――」

心春は顔を上げて、俺を見た。

「一人の女の子として、ゆーまの隣にいたい」

「……心春」

「だから――」

心春は少し恥ずかしそうに笑った。

「改めて、付き合ってください」

「……」

俺は心春を見つめた。

そして――笑った。

「……今さらだろ」

「え?」

「だって、俺たちもう、好きって言い合ってるじゃん」

「……それはそうだけど」

「でも――」

俺は心春の手を握った。

「改めて言う。俺と、付き合ってください」

「……っ」

心春は顔を真っ赤にして、頷いた。

「……はい」


その瞬間、心春が俺に抱きついてきた。

「……ありがとう、ゆーま」

「……こっちこそ」

俺は心春を抱きしめた。

「これから、よろしくな」

「うん……よろしく」


【夜・駅前】

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「うん」

俺たちは駅に向かって歩き始めた。

手を繋いで、ゆっくりと。

「……ねえ、ゆーま」

「ん?」

「次の作品、どうする?」

「次の作品?」

「うん。『異世界で拾われた俺が〜』は完結したけど、私たち、まだ書きたいでしょ?」

「……ああ」

俺は頷いた。

「次は、どんなジャンルにする?」

「うーん……」

心春は少し考えてから、言った。

「恋愛、書いてみたい」

「恋愛?」

「うん。今、すごくリアルな恋愛してるから」

心春は俺を見て、笑った。

「私たちの経験を活かして、リアルな恋愛小説を書きたい」

「……なるほど」

俺は少し考えた。

「じゃあ、『幼なじみがバズっているカクヨム作家だった件』とか?」

「……それ、私たちのことじゃん」

「だから、いいんじゃない? リアルな体験談として」

「……」

心春は少し考えてから――笑った。

「……いいかも」

「だろ?」

「じゃあ、次はそれで書こう」

「おう」

俺は心春の手を握りしめた。


【その夜】

俺は自室のベッドに横になりながら、天井を見上げていた。

(……付き合った)

心春と、恋人になった。

そして――次の作品も、決まった。

「……楽しみだな」

その時、LINEの通知が鳴った。

送り主は――心春。

『ゆーま、今日はありがとう』

『こっちこそ。楽しかった』

『私も! すごく楽しかった!』

『次の作品、頑張ろうな』

『うん! 絶対に、もっといい作品にしよう!』

『ああ』

『ゆーま』

『ん?』

『……大好き』

「……」

俺は笑顔で返信した。

『俺も。大好きだよ、心春』


それから数日後。

カクヨム運営から、正式な連絡が来た。


【カクヨム運営からのお知らせ】

山城ユウマ様、春告鳥様

この度、貴作品『異世界で拾われた俺が、最強の守護者になるまで』が、「カクヨム新人賞2025」の大賞を受賞されました。

おめでとうございます。

つきましては、書籍化に向けて、編集部との打ち合わせを行いたく存じます。


「……大賞!?」

俺は思わず叫んだ。

すぐに、心春に電話をかけた。

「もしもし!」

『ゆーま!? 見た!?』

「見た! 大賞だって!」

『信じられない……私たち、本当に書籍化されるの!?』

「されるんだよ! 俺たちの作品が、本になる!」

『……嬉しい』

心春の声が、涙声になっていた。

『ゆーま、ありがとう。一緒に、ここまで来てくれて』

「……こっちこそ」

俺は胸が熱くなった。

「ありがとう、心春」


俺と心春の物語は――

ここから、新しい一歩を踏み出す。

書籍化。

そして、新作の執筆。

すべてが、これから始まる。

「……よし」

俺は拳を握った。

(……もっと、上を目指そう)

俺と心春の、次の物語へ。

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