ケモミミ庭師

親愛なる君へ


 やぁ、私は今自宅に居ます。


 ヘリオス=ターレットだ。――まぁ、深くは聞かないでくれ。


 ドワーフの娘からは上手く逃げ出せたよ。君のおかげだ、ありがとう。

 君が送ってくれた、あれのおかげで殺されずにもすんだ。それにしても君は一体どこからあんなものを……いやそれは聞くまい。


 けれど、旅の終わりが縁の切れ目、ケモミミ冒険者は大金を父にせしめて帰って行ったよ。

 父がものすごい形相で私を睨んでいたが、ちゃんと働いて返すと言ったら、


「いや、いい、それよりも早く独り立ちしてくれ」


 と、泣きながら言われてしまった。


 泣きながらあーだこーだと説教をたれていたのだが、「だからヘタレと言われるんだ……」と呟かれてしまった。


 まさかそこで略称が登場するとは思わなかった。

 意味はわからないが、とても残念そうな顔で私を見ていたよ。


 さて、自宅に帰ってきて驚いたことが二つある。


 一つはハーレムが解散となって、ケモミミ食堂「猫のスプーン」も閉店してしまっていた。

 まぁ、あのような魔窟はなくてもよいのだが……


 もう一つは家の庭師が変わっていた。ケモミミの妙齢の女性になっていた。

 ケモミミ庭師は私を見るとニッコリと微笑んで、おかえりなさいませ、と言ってくれたのだが、はて、私は自己紹介もまだであるし、初対面のはずだからこの家の人間とはわからぬはずなのだ。


 そこで私は父の言葉を思い出す。


「妻を見つけて独り立ちしろ、軍資金は十分に準備している」


 だったか。


 もしかしたら、父が私のためにこの女性を用意してくれたのかもしれない。私の顔をみて「おかえりなさいませ」と言った位なのだから。


 ふさふさの少し長めの毛に三角の耳、細い尻尾と北国を思わせるようなすばらしい毛並みに、美しい顔、ところどころ控えめではあるものの全体的に細身なスタイル、と、実に私好みであろう。

 父上はわかっていらっしゃる。


 私がじっと彼女を見つめていると、照れたように顔を隠して俯いてしまった。

 そんな仕草もまた可愛くてよい。


 そんな彼女を見て、私は決意した。


 私も庭師となって、彼女と共にガーデンで愛をはぐくもう、と。


 二人の愛の成る木はすくすくと育ち、私達の子孫をずっと見守ってくれるだろう。

 そして、私達が手を入れた庭には愛の花が咲き乱れるのだ。


 そうと決まれば庭師の修行をするための庭を用意しなければなるまい。あるいは彼女に弟子入りするという手もあるが……


 これから忙しくなるのでしばらく手紙を送ることはできないと思うが、君も私の――いや、私達の愛の木の成長を見守ってて欲しい。


 それでは、また。


ヘリオス=ターレットより

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