終曲「Before Moon」

 火をくべる男。その横に、

 寒そうな目に期待を浮かべる女の、

 白い光の揺らめく顔。


 肉が焼かれる。

 その肉を刺した棒を、握る

 男の手、

 柔らかくもなく、太くもなく。

 棒を操る。


 瞳に映る色。

 明らかに緋の色のようであり、

 元の姿に何があったのか。

 飢えて凍えた孤独の色

 それは一方で力強かったであろう。

 いまは、

 幸せの躍る、

 静かな上質の燈色。


 待ち焦がれる女の肩

 寒さに震える

 それとも愛しさゆえか。

 下向き加減の視線

 見ているものは

 思い浮かべる情景なのか。


 ふいに よこぎる風。


 女の

 雫の

 流れ行く方向。

 向けられた視線は、

 反対の

 空洞の

 風穴の方へ。

 怯えている。

 瞳が悲しい。


 相も変わらぬ男

 だが、火は追い詰められたように、

 揺らめき小さくなっている。


 食いちぎられる

 命の音。

 命を繋いでいく

 生産の証。


 沈黙する

 二人の間。

 風はない

 火は二人を染め上げる。


 風が過ぎていく。


「……」

 そちらに気取られるよりも前に、

 火は役目を終えて尽きてしまった。

 暗闇が、二人を支配し始めた。


「……?」

 そう思いかけて

 諦めかけて

 うつむいた瞬間それと悟った。

 光が……こぼれだしている。


 外に急ぐ!

 それを知らない

 それを知るより前に

 男が、女が、

 外に立っていた。


「……!」

 息を飲む

 数刻。

 そこに見たものは

 知らなかったものは

 二人を照らした光は

 空に浮かんでいたものは

 丸く美しい夜の太陽だった。


 彼らを照らす光。

 それは祝福の優しさ

 誕生の喜び

 始まりへの、賛歌だ。

 生命の溢れる世界が、

 その産声を上げたのだ。

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