第八幕「その矛先は……?」

 そこに、私が今さっきまでに思い描いていたとおり、またこの明るい夜に合わせていつものように、彼は闇を蹴散らして涼しげな滝の中で水や陽を浴びていた。実際に、浴びているのかそれはわからないが、滝の水は彼の到来を驚喜して、はやる気持ちを抑えられずに彼の体に降り注いでいるように見える。彼の方でも満更でなく、水を受け入れているように見える。ただ、そう見えるだけで、実際には彼は何の動きもとっていない。

 彼は何のためにこの地に来るのだろう、私はふと思った。ここで天を仰いで、何を思っているんだろう。私に見えない何かが、彼には見えるのだろうか。私も、彼が見上げる方向に目を向けてみた。だがやはり、以前霧に覆われていた頃ほど白くはないのだが、それでも白さがまだ残る静止した夜空があるだけだ。彼の方に視線を戻す。そして矢に手をかける。今日の狩りが最後の狩りになるだろう、私は思った。

 矢にありったけの力を込める。掌が次々とすり減っているような狂おしいほどの痛みが矢を支える私の手を襲う。矢を作り、矢を射続けてきた手は、もう寿命が近いようだ。何とか叫ぶのを堪えて、じっと滝の方を見据える。あまり見ていれば焦点が合わなくなってしまいそうなほどに眩しい。そう長くないうちに、彼を射らねばならないな、 私は心の中でぽつりと咳いた。

 何故こうなってしまうのだろう。 何故こうでなくてはならないのだろう。体を震わせながら、私は波紋一つない水面のように穏やかな思考を広げていた。できるなら彼ともっといい形で出会いたかった。話などできないだろうが、交流したかった。彼と一緒に空を見上げたかった。太陽の日を浴びたかった。アイカの傍にいて、アイカの心を癒して欲しかった。

 だが、出会いは残酷だった。私には、アイカが一番大きいのだ。夜の中で何もかもを明るく照らすその体を、その体の中に流れているであろう、清い川のような赤い血を、彼女にどうか分けてやってくれ。愚直な男の最後の祈りを、聞き届けてやってくれ……。

 明日の涙が乾かないうちに、今日の祈りがついえないうちに、言葉が力に耐えられるうちに、力がふたりを壊さないうちに、矢を、夜を越えて最後に打とう。手のひらが、矢に静かに別れを告げた。

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