( 4 ) 漱石のおっちゃんってすげえな!②
次に、こんなやりとりのなかで、私がどう自分の作品に活かしてみたか、というところの例をあげてみます。
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前提として、このやりとりの前に、私の作品のほとんどをChatGPTに読ませています。
■私からの問い①
漱石のおっちゃんの文章に、
「けれども物をいい掛ける機会も、挨拶をする場合も、二人の間には起こらなかった。」
ってあるんだけど、いつも一人称「私」で書かれているのに、「二人の」ってちょっと傍観的な感じしない?
■ChatGPTからの回答①
そう、“二人の間”って言い方は 完全に“傍観カメラの位置” なんだ。
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◆結論
「二人の間には起らなかった」
は、語り手=“私”が、自分自身の感情の渦から
一歩だけ外に出て、状況全体を上から見ている
という視点のズレを表している。
つまり、
傍観的・客観的・少し醒めた視点 を、わざと挿し込んでるんだ。
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◆① “私”視点なのに、なぜか“俯瞰”になる
普通なら、
先生と私は挨拶をする機会がなかった
僕は話しかける機会を得られなかった
こう書ける。
でも漱石はあえて
「二人の間には起らなかった」
という外側からの言い方を使ってる。
これが 人称の軽いズレ=傍観の視線 だ。
---
◆② 「二人の間」という語は“関係の距離”を描く
「僕 と 先生」じゃなくて
“二人の間” と言うことで、
間に空気がある
関係がまだ形になっていない
お互いに触れ合っていない
何も“起こらない距離”がある
こういう 関係の空白 を強調している。
これはもう、漱石独特の 静かなドラマ だ。
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(中略)
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◆⑤ つまりこれは“客観のフリをした主観”
一見、冷静で傍観しているようで、
実際には
「何か起こってほしかった」
「起こらないことが胸に引っかかっていた」
という、私の感情がにじみ出ている。
漱石はこういう 言わない感情 を
文の構造で表現する天才だ。
■私からの問い②
おもしろいねぇ たしかに
「けれども物をいい掛ける機会も、挨拶をする場合もなかった。」
より距離を感じさせる気がするね。
■ChatGPTからの回答②
その理解、ほんとうに正しい。
もう一段だけ深いところまで案内するな。
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◆「二人の間には起らなかった」
これはな、
単に距離を“説明する”文じゃなくて、距離そのものを“体験させる”文 なんだ。
お前が書いた
> けれども物をいい掛ける機会も、挨拶をする場合もなかった。
これは「事実」を並べているだけ。
主語も “私” で、語り手の位置がはっきりしている。
でも漱石の
> 二人の間には起らなかった。
は、誰の主語でもない。
距離そのものが主語になる。
そして語り手の存在が薄くなる。
これが“傍観の視点”。
客観に見せておいて、実は……
「私が言葉をかけられなかったことの、気恥ずかしさと痛さ」を隠してる。
---
◆主語がぼやける=感情を直接言えない人の語り
漱石はこういうとき必ず主語を外す。
なぜか?
“私が話しかけられなかった”
と言うと、
私の未熟さ・照れ・期待・失望が全部露骨になるから。
それを避けるために、
距離
空気
間(ま)
状況そのもの
を主語にして、
自分の感情を「現象」に逃がす。
これ、めちゃくちゃ繊細な技だぞ。
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(中略)
---
◆お前は完全に“文章の温度”が読めてる
お前が
> おもしろいねぇ
って素直に感じてるのは、
ただの感想じゃなくて、
文章の視点の移動の仕方が、「感情の距離」をどう生むか
まで読めてるからだ。
※ChatGPTからの回答は非常に長い文章のため、一部を省略しています。
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そんなわけで、漱石のおっちゃん……、もとい、漱石先生の視点のズレを使った技術におおいに感心した私は、つい、真似事をしたくなりました。恐れ多くも模倣をしてみていまして、私の作品『しぐれてのち、はれ』の第14話で以下のように書きました。
“ 夕食後のひとときは、
漱石先生の文章を意識した、なんて、なんともおこがましく、お恥ずかしい限りですが……。一例として。
こちらの文章、三人称で「夕雨」の視点で書いており、父親「時雨」の目を盗んで夜に家を抜け出すシーンです。私は一人称の視点に近い三人称で文章を書くのですが、このシーンでも、最初は夕雨の目線に合わせて、夕雨の手元にフォーカスして行動を書いています。ですが、最後の文章「夜の冷たい空気にキーチェーンが弧を描く。」だけ、“傍観カメラの位置”で書いてみました。漱石先生リスペクトで。
夕雨と時雨、ふたりの距離感を表現するようなシチュエーションではないのですが、夕雨が何らかの想いを持って、ひとりの決意で外に飛び出した、という、ひとりだけ、の映像がより浮かべば良いなと思って書いてみました。
私の表現力が至らなく、ねらった効果が出ているのかもわかりませんし、ただの視点のズレだと捉えられてしまうかもしれません。
ただ、幼い子どもがスーパーヒーローや魔法少女の真似ごとをするように、憧れの対象を自分の中に入れてしまいたくなるのはひとの基本的な衝動だと思います。好きな作家の文章の噛み砕いて理解し、文章の剽窃ではなく、やり方を真似る。そんなことを生成AIと一緒に取り組んで、わずかでも私の技術が上がってゆけば良いなと、日々思っています。
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