線路の向こう側

いじめは、どんどん酷くなった。髪を切られた。

前髪をハサミでざくざく切られて、「お前は前見えなくていいよな」と笑われた。

机の中にカッターの刃が何十枚も入れられてて、手を切った。

体育の着替えのとき、ロッカーに「死ね」と血で書かれてた。

誰かの血だった。私のじゃなかった。夜、部屋に帰っても眠れない。

施設の記憶がフラッシュバックする。

冷たい床に押し付けられて、耳元で「うるさい」と囁かれる感覚。

だから、毎晩、インスタを開く。

尼崎のストーリーを見る。

彼が撮った空、電車、コンビニのアイス。

全部が、遠い世界みたいだった。ある日、限界が来た。授業中、突然立ち上がって、教室を飛び出した。

校舎の裏で吐いた。

胃液しか出なかった。放課後、誰もいない駅のホームに立ってた。

夕方の快速が近づいてくる。

音が大きくなる。

私は、ゆっくりと白線を越えた。「箱宮!」腕を掴まれて、後ろに引っ張られた。

尻もちついて、コンクリートに肘を擦りむいた。振り返ると、尼崎がいた。

息を切らして、目が真っ赤だった。「なんでここに?

「バイトの面接で、この駅来てたんだ……偶然」嘘だと思った。

でも、彼は私の腕を離さない。「死ぬなよ」

声が震えてた。

「俺、まだ箱宮と一緒に旅してないじゃん」私は、堰を切ったみたいに泣いた。

人前でこんなに泣いたの、初めてだった。

尼崎は黙って、ずっと背中をさすってくれた。その夜、彼からDMが来た。「今日から、俺の家に来いよ。一人暮らしだし、広いから」怖かった。

男の家に行くなんて、施設で何度も「そういう目に遭うぞ」と脅されてきた。

でも、死ぬよりはマシだと思った。私は、小さなカバンに着替えを詰めて、彼のマンションに行った。玄関を開けた尼崎は、照れくさそうに笑った。「いらっしゃい。……ずっと、来てほしかったんだ」それから、私たちは一緒に暮らし始めた。でも、私の中の「死にたい」は、消えなかった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る