第22話 冒険者ギルドでのケンカ
「グリッドは冒険者ギルドで暴れているのか?」
店で粗暴な動きをしていたので聞いてみた。
「そんなことないっすよ! 規約違反をしたら免許剥奪ですからね」
「でも、裏で何かしてるんだろ?」
「俺はしてないっすが、地元の冒険者とのトラブルは多いっすね」
街中だけじゃなく冒険者同士でも治安悪化はあるみたいだ。
ダンジョンで利益を奪い合う人間同士だから構造上トラブルは起きやすい。
今までは同じ地元だからということで多少のトラブルがあっても上手くやっていたのだが、だが最近は外部から来た冒険者が増えてきたため、そういった地元のルールが通用しなくなり、問題は急増しているのだろう。
狩場の取り合い、マウント合戦、暗黙の了解を無視した行動など、少し考えただけでも火種はすぐに思い浮かぶ。
ルカスとシアは大丈夫だろうか。
装備は整ったので駆け出しだとバカにされることはないだろうが、経験不足は否めない。グリッドのような中堅ランクの冒険者に勝てる実力はない。絡まれたら負けてしまうだろう。
怪我をした二人を見たらリリィは間違いなく悲しむ。
そんな姿を俺は見たくない。
「冒険者ギルドに行ってみるか」
思い立ったらすぐ行動だ。店のドアに閉店の看板を掲げると、グリッドを連れて冒険者ギルドへ向かう。
何が起こるかわからないので、リリィはお店で留守番だ。
「兄貴~、行くのやめませんか?」
「断る」
なぜかグリッドが嫌がっている。
冒険者ギルドで問題が起こっているのは間違いなさそうな気がする。
歩く足を速めてギルドの建物の前に立つと、男たちの怒号が聞こえてきた。
ドアを開けて中へ入ると、ルカスと見知らぬ中年冒険者が殴り合いをしている。怪我の状況からしてルカスは負けているようだ。周囲は賭け事をしているらしく、ヤジを飛ばしていた。
泣きそうな顔をしているシアが俺を見ると、助けを求めるように駆けつけてきた。
「何があったんだ?」
「私が無理やりナンパされて、それをルカスが止めて、それで喧嘩を売られて、それを買っちゃったんです!」
我慢ができなくなったようで、涙をぽろぽろとこぼしている。
女性を泣かせるなんて許せない。
「ギルドの職員は何をしている?」
冒険者同士のケンカは禁止されている。
違反すれば罰金だし、死者が出れば免許剥奪の上に捕まるだろう。
粗暴な人間が多い業界ではあるが、表だって無視する人間はいない。普通はギルド職員に隠れてやるもんだ。
「止めようとしたら気絶させられました。他の人は怖くて出てこないようです」
「最悪だ……」
どちらかが死ぬまで戦い続ける可能性がある。
俺の常連客になんてことをしやがるんだ。久しぶりに強い殺意を感じて怒りが漏れ出していく。
シアが数歩離れた。
ルカスの試合にヤジを飛ばしていた男どもが俺を見る。
よそ者のくせに暴れ回ってくれたな。殺しはしないが、しばらくは仕事ができない体にしてやる。
俺が一歩足を前に出すと、グリッドが顔を真っ青にしながら走り、殴り合いをしていた中年冒険者を投げ飛ばして取り押さえた。
「何をしやがる…………ってデイジーさん!?」
「相手は兄貴のお仲間だ! 手を出すんじゃねぇ!」
「兄貴!? 誰ですか?」
「うるせぇ!」
中年冒険者は知り合いだったようだが、グリッドは遠慮なく何度も殴りつけて気絶させた。
先に手を出されてしまって、俺の怒りは行き場を失ってしまった。
周囲にいる冒険者が暴れ出したら八つ当たりしようとも思ったんだが、非難するような表情をしても抗議の声は出していない。
よそからきた冒険者たちは、グリッドが止めたなら仕方はないと諦めているようである。
ギルドのルールを守っていない冒険者どもの取りまとめ的な存在みたいだ。
新しく来た冒険者の間で実質のリーダー的な立ち位置になっているのだろう。
仕事柄パーティ単位でしか動かないのに明確な上下関係ができるのは珍しい。これは裏がありそうだが、今は追及する場面ではないか。
「ルカス、大丈夫!?」
ケンカが終わったので、シアはルカスに駆け寄って怪我の状態を確認している。
少し顔が腫れたぐらいの軽傷だとわかると、泣きながら抱きつき始めた。
完全に出番を奪われてしまったな。
俺の出番はない。
殺気を抑えてグリッドの前に立つ。
「こいつの処分はどうするつもりだ?」
「俺がきつく言っておきますので、今日は勘弁してもらえませんか」
グリッドが下手に出ているのが意外だったのか、周囲にどよめきが走る。
この流れに俺も乗るか。
「これから大人しくするなら見逃してやる」
周囲を睨みつけるように見ると、口を大きく開く。
「俺は元Aランク冒険者だ! ここで無法を働くのであれば、容赦しない。この街から叩き出してやる!」
先ほどよりも大きいどよめきが発生した。
Aランクに到達できるのは冒険者の中でもごく一部。俺に反発しても実力で勝てないと思ってくれただろう。
だが、全員が言葉だけでわかってくれる人ばかりじゃない。
「元Aランクだと? 嘘くせぇな!」
俺の言葉を信じない兎耳をした男が大股で近づいてきた。
「やめろ!!」
グリッドが止めるように声を出したが無視されてしまった。
苛立っていて殴りつけてきたが、 透明な障壁が発生して俺を守ってくれた。
「いてぇ!!」
兎耳の男は拳を痛めたようで、手を押さえている。
周囲は何をしたのかわかってないようだが、俺を軽く見るような目はなくなったように感じる。
プロレクションリングが自動で発動しただけなんだが。思っていたよりも経験の浅い冒険者が集まっているのかもしれない。
「グリッド、後処理は任せるぞ」
「わかりやした!」
完全に俺を上だと思っている彼なら悪いことはしないだろう。
俺はルカスの腕を持って立ち上がらせた。
「俺の店に行こう。治療する」
「ご迷惑じゃ……」
「常連客なんだから、このぐらいのサービスは普通だ。気にするんじゃない」
「ありがとうございます」
俺が歩くと自然と冒険者達が離れて道ができたので、二人を連れて店へ戻ることにした。
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