第2話「命がけの逃走劇」
「な…なんなんだよアレ…!」
その化け物どもは骨ばった小さな体にそれに不釣り合いな丸みを帯びた腹を持っていた。
「ニッカ!彼らは餓鬼です!退散させる方法は施餓鬼をしてやることです。」
「なんだよセガキって!」
「施餓鬼とは……」
ソフィアが懇切丁寧に説明を始めるが聞く余裕なんてなかった…じりじりと奴らが迫ってくるからだ。
「要するにどうすればいいんだよ!」
じりじりと奴らが迫ってくる。カサカサと乾いた皮膚が擦れるような音をさせながら。 その目は飢えでギラつき、痩せこけた喉の奥から「くれ」「くれ」とでも言うような、しわがれた声が漏れ聞こえる。
「食事を提供してあげてください。」
その内の一体がこちらに駆け寄ると雪崩を起こしたかのように我先にと化け物が群れを成して襲い掛かってくる。 「ヒッ…ヒギィィァ!」 まるで何日も何も食べていない獣だ。いや、獣以下の何かだ。
「唐突にこんな状況で出来るわけないだろうがァ!!」
「ニッカ。最短ルート上に『カシワ』の群生地を検出。ドングリが多数落下しています。餓鬼の要求する『食事』の代替リソースとして最適と判断します」
「だから拾ってる暇がねえって言ってんだろ!クソッ! 足がもつれる!」
冗談じゃない。こっちは死ぬか生きるかの瀬戸際だっていうのに、このメガネ…! 俺は背後から迫る異形の群れに殺意すら感じながら、この致命的に噛み合わない相棒との会話を続けるしかなかった。
「も…もう、保たないっ…!」
俺は木の根に足を取られそうになりながら、必死に腕を振る。肺が痛い。
「警告、このままではあなたの心拍数が危険域に到達します。餓鬼に追いつかれる以前に、心停止する可能性が…サーチ完了。最適解を提示します。」
呼吸するたびに肺に痛みが走る。
「こ…今度こそまともな提案だろうな!?」
「ニッカ、進路変更。右前方45度、距離100メートル。崖です」
「飛び降りろってのか、このポンコツメガネ!」
「訂正を要求します。私はポンコツではありません…崖の『下』に注目してください。」
言われるがまま、ソフィアがARで示すマーカーに視線をやる。
木々の間から見える崖下…そこには、俺たちを追う餓鬼よりとは比べ物にならないほど巨大なイノシシ…いや、イノシシを模した化け物の死骸が横たわっていた。
「あの死骸は、餓鬼の群れよりも高位の捕食者によるものと推定。そして、餓鬼の群れにとって、あなたよりも遥かに高カロリーな『餌』です。」
「…なるほど、やってやるよ!」
俺は最後の力を振り絞り、崖の縁へ走る。
背後から迫る餓鬼の群れは、目の前の
思考もない。ただ「飢え」という本能だけで突進してくる。
「崖まで、3、2、1……今です!」
俺は崖の縁で、ハリウッド映画の一幕みたいにギリギリで急停止し、そのまま地面に転がり込む。
「ギギィィィ!?」
俺の後ろにいた数匹の餓鬼が、止まれずにそのまま崖下へ…あのイノシシの死骸に向かって、悲鳴を上げながら落ちていった。
「ターゲットの変更を確認。群れの本能が『崖下の高カロリーの餌』に切り替わりました」
見ると、残りの餓鬼たちも、崖下に仲間が殺到するのを見て、我先にと崖を駆け下り始めた。まるで、死骸に群がるアリの群れだ。
「はぁはぁ…助かった…のか?」
「一時的な回避に成功したに過ぎません。彼らが『食事』を終えれば、次のターゲットは我々です。ニッカ、今こそ『施餓鬼』の準備を。先ほどのドングリの樹まで後退します。急いでください。」
「……ホント、人使いが荒いんだよ、お前は!」
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