融解する凶器 約16000字 完結
YOUTHCAKE
逆行
『博士!約束と違うではないですか!』と唾を飛ばしながら権威に盾突くのは、デンプンの分野における優秀な研究者、大仁田勉である。
『何が違うと言うのかね?キミはこの高額な原料費に対してニーズが出ると思うか?そのような甘い考えでは、収益というのは見込めない。そして、科学とはいつも妥協と配慮の狭間で世に寄り添ってきたのだ。』とデンプン研究における偉大な功績者、狩俣市蔵は大仁田の意見具申に反論をする。
『しかし博士、お忘れですか?この分子構造では、耐震構造や建材としての不完全性が目立ってしまうと、言っていたのは先生ではないですか?』と大仁田は食い下がる。
現代社会は、コンクリート建築の廃墟化が問題になっており、その解体にかかるCO2排出量は時代に逆行しているとSDGsの観点で課題視されている。
その社会課題において、デンプンの組織を応用した建築資材を発明したのが狩俣市蔵である。
デンプンはアミラーゼという物質によって分解され、液化させることが可能である。
人間の身体は、食品として取ったデンプンを唾液に含まれるアミラーゼによって分解し、消化している。
この消化機能を建材に応用し、解体が容易でかつ、堅牢でそのうえ軽い建材がデンプンによって作成された。
これが狩俣市蔵の権威性を示す大発明であったが、狩俣には思惑があった。
デンプンの純度を高めた、堅牢な建築をつくるには、それを解かす側のアミラーゼ側にも純度が高いものが求められる。
その二つの条件をかなえる相互の物質を練り上げるには、大変な金銭がかかり、試作段階から原料費が高い上に、通常のコンクリート建築資材の10倍にも及ぶ建材量が必要だ。(圧縮などを用いるため。)
ただし、この技術が成功すると、建築におけるSDGsの問題は一挙に解決すると、その画期的な応用が注目され、狩俣はその完成前から注目されていた。
そして、月日は流れ、やがてその実演をするまでになったが、実演に使われたのは、大仁田の発明した、高価な金銭がかかる、綺麗に酵素を崩壊させられる理想的な建材であった。
しかし、実際に販売に至ったのは、狩俣が販売のギリギリで成分を調整した、コンクリート建材の十分の一の価格で販売できる安価なデンプン建材であった。
安くてSDGsを叶えられる夢の建材として注目された狩俣のプレゼンテーションは見事に盛況し、大手ゼネコン各社がこぞって大量仕入れを締結した結果、狩俣は大変な収入を得るという契約を得た。
それに対して、改ざんを知った大仁田は反発し、筆舌を尽くして反論しているというわけだ。
『君は馬鹿か。デンプンの研究をこれからも健全に続けていくためには、時に心を鬼にせねばならんのだ。それもわからぬのか。そういうところが私に一歩及ばんところだというのだよ。』と狩俣は大仁田を罵り、大仁田の反感を買った。
大仁田は失望した。そして、やってられないと言うばかりに、『あなたはいずれ全世界に悪事を知られて、悪魔の烙印を押されるのだ。その時まで、カネの風呂におぼれて怯えて震えていろ。私は知らない!』と言い放った。
大仁田にしてみれば、手柄を奪われたともいえる。至極当然の怒りともいえるし、狩俣の行いは、人間倫理として認められるものではない。
大仁田はハラワタが煮えくり返っていた。しかし、明日はアメリカはマサチューセッツ工科大での製品発表会がある。これ以上もめてはいられない。
『明日の発表会では博士ではなく、私が取り仕切らせていただきます!いいですね!世界が日本を裏切る前に!』と大仁田は言い切った。
『できるものならやってみろ!私の権威は世界中にとどろいている。それにもかかわらず、足手まといのキミが大舞台に出ても恥をかくだけだぞ?ワシこそがデンプン科学の神なのだから!』と狩俣も言い切っている。
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