第2話 コスモスの花畑
一章 謎のたまご編
いつものように近所の公園に行き、僕は花の中にいた。
背の高い木々に囲まれた空間は静かで、茂みの死角になっている。
僕のお気に入りの穴場だ。
公園の管理人と仲良くなったので、管理人小屋の近くに自生している雑草花の群れをスケッチするのが、最近の日課になっていた。
溢れんばかりの、淡いピンクとオレンジ。天気がいいので、空は水色。木々は濃淡のあるグリーン。顔と片翼を破壊され、公園から回収された天使の像は灰色。天使は大空に飛びたがるように、両手を伸ばしている。
椅子に座りながら、空を仰ぐ。どの形の雲を入れようか・・・目を細めながら、雲が流れるさまを見つめる。
日の光に輝いている雲が、頭上を流れていく。
風が吹くと、まわりの木々が囁くように揺れた。
――ああ、このまま地面に寝転んで昼寝でもしようかな・・・?
午前中にも関わらず、僕はそう思った。
しかし、すぐに却下する。
管理人のジョンは歳も近く気さくな良い奴だが、面倒くさがりだ。管理人小屋の周りには、石造の像の破片だの、コーラのビンだの、ワインボトルだのが転がっている。それが草木の陰に隠れているので、危険だ。
ここはどこかの金持ちが個人的に造った公園らしく、それを一般解放している。
近所の者は皆『公園』と呼んでいたが、正確には『解放された庭』、と呼ぶべきかもしれない。ジョンはその金持ちに雇われ、公園の清掃や見回りをしている。寝泊りも可能な石造りの管理人小屋まであるが、ジョンは自宅通勤らしい。週に二度か三度彼と挨拶をしているうちに、ここを紹介されたといういきさつだった。
公園のゴミを拾って管理人小屋に持って行けば、絵を書いてもいいと言われたのだが、最近彼の出勤がまばらなことを考えると、どうやら僕は利用されているらしい。
――どうして彼が雇われているんだろう・・・?
やはり要領が良いからだろうな。羨ましい限りだ。
いい加減疲れてきた僕は、凝った首を回した。よれたシャツに絵の具が付いているのに気づく・・・。
――まぁ、いいか。どうせ安物だ・・・。
久しぶりに椅子から立ち上がると、僕は背伸びをした。
再び空を仰ぐと、頭上に黒い影がある。どうやら鳥のようだ。
いや。飛び方が少し変だ。ケガでもしているのと思ったが、ハトの群れがその影の反対側から通り過ぎて行くと、僕は眉間を寄せた。ワシやタカの類にしては生息地域がかなり外れている。しかもそれはスピードを落とし、よろよろと揺れ出した。僕の頭の上まで来ると、前方に進むのをやめて右往左往している。
昼前の真上に近い太陽が眩しくて、僕はさらに顔を顰めた。
かなりの高度にいる黒い影から、一部が別れた。
丸い影が落ちて来る。
卵のようだ、と僕は思った・・・。
そう。卵だ。
「え・・・ええっ?」
――空中で産卵っ?
そう思った拍子に、白くて丸いものがすぐ側の地面に落ちた。
「うわぁっ?」
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