別離の気配と痛み

第23話 見送り

 翌日。蜘蛛丸は「出かけてくる」とだけ告げ、昼過ぎの屋敷を静かにあとにした。 まだ微妙な距離の残る空気の中で、それでも諒は戸口に寄って「……わかった。帰りは何時?」と問い返す。

「…夜頃になる。」

 振り向かずに蜘蛛丸が返した声は、いつもよりわずかに硬い。 そのまま彼は敷居を越え、外気へと歩を進めていく。

 諒は戸口に立ったまま、その背が見えなくなるまで目で追った。

「……行ってらっしゃい、蜘蛛さん」

 自分でも驚くほど静かな声だった。 戸が閉まる音が、少し広く感じる屋敷の中に淡く落ちる。


 それはただの外出のはずだった。 諒も、蜘蛛丸も、このあと訪れる“異変”に気づくはずなどなかった。

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