怪異や霊能者や超能力者が跋扈する世界に生まれでた在野の怪物転生者
暁刀魚
一 怪物誕生
俺は昔から、ホラー映画の不条理な怪異ってやつが大嫌いだった。
怪談とかでよくある、辺鄙な場所に祀られてる、触るとヤバい怪物みたいな。
大抵そういうのって何かしら周囲の人間からの仕打ちに対する怨みを抱えているものだ。
しかし思うんだが、当事者や不用意に肝試しにやってきたバカな配信者とかならともかく。
何もしていない普通の一般人を被害者にするのはあまりに不条理すぎないか?
いくらこいつが、周囲を呪ってしまうくらい不条理な目にあったとしても、何の罪もない人まで犠牲にしていいわけがないだろう。
そんなことをつらつらと考えていた俺だが、その思いが強くなったのは――俺が生まれ変わったときのことだ。
前世の記憶を持ったままおんぎゃぁと生まれ落ちた時、俺の視界には病院のどこか静謐と緊迫が同居した世界が広がっていた。
不自由な体と、転生したことに対する混乱の中。
俺を一人の女性が抱き上げた。
ああ、きっとこの人が俺の母親なんだろう、そう思った時――
その側に、黒に満ちた何かがいた。
死をそのまま形にしたかのような何かだ。
悪いものだと、直ぐに直感した。
視界なんてほとんどおぼろげで、そもそもそこが病院なのだと気づいたのは後々思い返した時。
だからこの時の俺は必死で、ただそこにいる不吉な黒い何かと、やつれた母親の顔だけが焼き付いていたのだ。
このまま、黒い何かを側に置いておいては行けない。
その気持ちだけが湧き上がって、俺は奮い立つ。
何よりこの黒い何かは、悪意を母親に向けていた。
憎悪と殺意と敵意をごちゃ混ぜにした、どす黒い感情。
理不尽だ、不条理だ。
この人がいったい何をしたというんだ?
俺は許せなかった。
何も悪くない人が、理不尽に命を奪われかけているこの状況が。
俺自身もまた、事故によって命を理不尽に奪われたから。
掴んだ。
『!?』
掴んだ黒い何かから驚愕の感情が漏れ出る。
けれども俺は気にすることなく。
それを、握りつぶしたのだ。
『!!!?!?』
何かは驚愕の極地に達し、慌てふためいていたけれど、結局。
自分の鳴き声と、転生直後のあやふやな記憶のせいで、一体何だったのかはわからない。
かくして、俺は生まれ変わった。
子を生む母親すら呪い殺そうとする悪意に満ちた、不条理極まりない世界へ。
その不条理の名を――怪異と呼ばれるこの世界特有の化け物だと知ったのは、それからだいぶたった後のことだ。
◯
俺は、在田ナオトという名前を与えられて新たな生を得た。
色々と筆舌にしがたい幼少期を経て、現在の俺は六歳。
普通のこどもであれば遊びたい盛りのわんぱくな時期だが、俺はと言えば前世の記憶がある転生者である。
とても落ち着きのあるいい子、というのが周囲の評価だ。
まぁ実際は”ある事情”のせいで、ちょっと変な子、とも思われているのだけど。
そんな俺の最近のトレンドは、周囲に浮かぶ不可思議な白いモヤの観察だった。
赤ん坊の頃に黒い何かを握りつぶした記憶と、そもそも転生という不可思議現象を経験したことで、この世界には何かオカルトな存在がいるだろうことは想像がつく。
前世から平和な現代で育った俺は、厄介事はできれば避けたい。
でもまぁ現代世界に転生し、衣食住に困らない立場に生まれてこれただけでも幸運と考えよう。
この世界には幽霊の類が実在する。
モヤもそれに関連するものだ、ということはわかっている。
なんで幽霊がいるのか断言できる理由は二つあって、一つはこの世界、妙に怪奇現象の噂が前世より多いのだ。
明らかに各地でオカルトとしか思えない失踪や死亡事件が発生していて、怪談に出てきそうな神様の名前も時折耳にする。
もう一つはそもそも俺が、このモヤ以外にも幽霊の類を時折見ることが出来る”霊感”があるから。
まさか怪談によくある便利ワードを、自分の身で感じることになるとは思わなかったわ。
霊の黒い何かもそうだが、道を歩いてたら「私キレイ?」とか言い出す怪人に出くわすとは思わなかった。
襲いかかってきたから思わずマスクを引っ張ってバチンっとやったら消し飛んでしまったが……良かったんだろうか。
というか今の時代に口裂け女はベタすぎんだろ。
まぁ国民総マスク時代に突入して、タダの美人な女に成り果てるまでの最後の輝きとでも思っておこう。
んで、この白いモヤだが……俺の仮説だと生命力の類ではないかと思っている。
なぜなら例えば激しい運動をしたり、農作業で体力を消耗した時、普段より多くのモヤが見えるからだ。
他にも病気の人からもモヤが出てくるし、不幸なことが起きて意気消沈してる人からもモヤが出る。
極めつけは、幼い頃の母さんの周囲にはこのモヤがすごい勢いで吹き出していて、母さんの顔がろくに見えなかったくらいだからだ。
俺が赤ん坊だった頃、母さんは体が弱っていてよく入院していたからな。
よくもまぁそんな状態で俺を産めたものだ。
人は生命力を消費すると、白いモヤという形で吐き出すのだろう。
白いモヤがなくなったらそのまま命を落としてしまうのだろうが、幸いなことに休息を取ったりすると回復するから普通なら問題ない。
母さんのときのように、弱り目に祟り目みたいなことにならなければ。
もしくは年を相応にとって、体が弱らなければ。
とはいえまぁ、思うのだ。
その吐き出したモヤ、もったいなくない?
だって生命力なんだぜ? 取り込んで再利用したほうが明らかにお得じゃん。
流石に他の人のモヤを取り込むのは、なんだか衛生的によろしくない気がしたけど。
自分のモヤを取り込み直す分にはいいんじゃないだろうか。
そう思って、俺は吐き出されたモヤは自分の体に戻すようにしている。
どうやってかといえば、引っ掴んで気合を入れて吸い込んだらできた。
それにこれは、俺としてはやらないとまずい状況でもあったのだ。
なにせ赤ん坊の頃の母さんは直ぐに体を弱らせていた。
原因はあの黒い何か。
生まれた時に潰したら終わりかと思ったら、何度も湧いてきやがるのだ。
その度に俺はなんとか気合でその黒い何かを握りつぶした。
しかしそうすると、なんかやたらと生命力を使う。
急いでそれを回収することで、俺は事なきを得ていた。
ひどいときには一日一個のペースで送り込まれるものだから、モヤを回収できてなければ俺が死んでいたかもしれないな。
なお、黒いなにかは一年もするとやってこなくなった。
後から知ったことだけど、時期を同じくして、俺の父さんの同僚が半狂乱で暴れているところを捕まるという事件が起きていたらしい。
その同僚は俺の父さんのことが好きだったけど、母さんと結婚したせいで恋に敗れてしまったそうな。
で、なんとか母さんを呪い殺そうとしたけど、俺のせいで失敗続き。
終いには怪異に触れすぎたせいで、精神に異常をきたしたらしい。
これを知ったのは、それこそ怪異ともっと関わるようになってからのことなので、まぁ余談だな。
さて、白いモヤに関しては、ぶっちゃけ生命力だというのは割と早い段階から解っていた。
だったらなんで今更観察がトレンドになるかというと、このモヤに何か別の使い道はないか、と思ったからだ。
なにせこの世界には、どうやら幽霊の類が実在するらしい。
しかも下手したらこっちを呪殺してきたりもする。
流石に対抗策もなしにいるのは愚策。
これをつかって、対霊の手段を開発するべきなのだ。
まず一番に考えられる方法は、これをつかって武装すること。
なにせ俺はこのモヤを”掴んで体の中に取り込んでいる”と言った。
掴めるのだ、これ。
ちょっとコツはいるけれど、掴むと何か掴んだ場所がほんのり暖かくなる。
これをぶつければ、幽霊にも有効なんじゃないか? というのが俺の考え。
早速、試してみることにした。
対象はこないだから俺の部屋の窓に張り付いている身長がクソでかい女。
ぽっぽっぽ、じゃねんだわ。
モヤを持って窓を空け、八尺的な幽霊が驚いている隙にボコボコにした。
ショタ喰い妖怪がいっちょ前に祟りとか振りまいてんじゃねぇぞ。
こちとらまだ小1だぞ、いくらなんでも早すぎだわ。
出直してこい。
とにかくモヤを武器にするのは有効だと解った。
ただ、八尺様っぽい怪異をボコすのには、結構手間取ってしまったのは反省点だ。
モヤは推定生命力なのだから、死者の霊みたいなものである幽霊に特効なのは火を見るよりも明らか。
だというのに、貧弱な俺のパワーじゃ数分間ボコらないと撃退できなかった。
こりゃいかん。
あとモヤはなんかこう、東京の象徴的な金色の建造物みたいな形をしているから、ビニール袋を振り回しているような感覚になる。
単純に力が乗っていないのだから、ダメージも大したことにならないのは当然である。
必要なのは、筋力とモヤを最適な形状に変化させること。
どちらも具体的にどうすればいいかは、まだ思いついていない。
そして、自分自身が貧弱だと理解したからこそ、俺はより一層決意を強くした。
俺は一度、不条理な事故によって命を奪われた。
だからこそ、不条理に命を奪う輩が許せない。
怪異ってやつが許せない。
もしもこんな怪異がそこら中にいるのだとしたら、この世界はあまりに悍ましい。
守らなきゃいけない、自分の身を、周囲の人を。
全てを平等に守るなんて、一介の人間に過ぎない俺には無理だ。
何より多くのものを守ろうとして大切なものを守れなかったら本末転倒。
だから俺は、自分と自分の守りたい人を守ると決めた。
絶対に、絶対に、絶対に守るのだ。
絶対に。
◯
ここ最近、怪異を退治することを生業にする霊能者の間で、変な噂が広まっていた。
とある地域で、怪異が消息を絶っている。
あり得ない話だ。
なぜならそれは――怪異が討伐されているということなのだから。
なにせこの世界の霊能者は、怪異を封印するのが関の山。
大抵の怪異は封印すれば無害化することができるものの、討伐なんて不可能だと断言する霊能者が殆どである。
果たして、そんなことが可能なのか?
多くの霊能者や、怪異事件に関わる警察関係者等は思う。
そして本当に可能なら、と彼らは願う。
これを為している存在が、人類の守護者足らんことを、と。
タダでさえ最近は怪異事件が増えすぎて、人手が足りないのだから、と。
――喜ばしいことに、彼らの願いは叶う。
ただし、彼らが思っても見ないほどに叶いすぎてしまうのだ。
数年前、この世界に一人の怪物が生まれ落ちた。
転生によって前世の記憶を引き継ぎ、生命力と呼ばれる怪物にしか視認できない力を振り回し。
――すべての怪異を自分たちの胃壁ごと破壊していく怪物の存在を、この世界の人間はまだ知らない。
――
お読みいただきありがとうございます。
ホラー映画の怪異をハチャメチャにする感じのお話です。
なんかB級な感じの霊能者や超能力者もいます。
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