第8話 運命の邂逅?

 4月11日(水)


 只今の残存HPは12 (1日の消費HPは16)



「ぐぐぐ、ぐーてん、だーまんこってす……」


「アハハ! 本当に言うんだね!」


 教室に到着した俺は、真っ赤に顔を染めながら高野さんに朝の挨拶をした。

 高野さんは喜んでくれているようで、それだけが救いだ。


「昨日は勢いで、『めがふら』に出てくる挨拶をするなんて言っちゃったけど、よくよく考えてみると、かなり恥ずかしいね、これ」


「アハハハハハ!!! 田中君って、本当に面白いね。でも、無理して言わなくてもいいんだよ?」


「自分から言っといてなんだけど、そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


「アハハ、いいよ別に。じゃあ、明日からは普通に挨拶してね」


「うん、明日からはそうさせてもらうよ」

 よし、これで明日からも高野さんに挨拶できるぞ!



 この後、何人かの男子生徒が俺の体調を気遣ってくれた。

 本当は女子に言ってもらいたいんだけど…… なんてこと思っちゃいけないよね。

 俺は声をかけてくれたみんなに、お礼の言葉を述べた。


 今日はっきりとわかったんだけど、高野さんの席ってちょうど俺の右隣り、つまり真横の席だったのだ。

 これで高野さんといっぱい喋れる…… と、思ったら大間違い。

 沢山の友だちに囲まれて、高野さんはもうどこかへ行ってしまったではないか。


 俺に声をかけてくれた生徒たちが自分の席に戻って行ったので、俺も自分の席に座ることにした。



 今日はこの後、健康診断が行われることになっている。

 俺が鞄から問診票を取り出そうとしていると——


「あ、あの……」

 今度は左隣の席から声が聞こえた。

 この子、昨日も俺のことを心配してくれてたな。


 そう言えば、おっとりしたとてもカワイイ女の子だったな、なんてことを考えながら座席左に視線を送ると——


 なんだよこれ?

 昨日は窒息死しそうでよく顔を見てなかったけど、この子、まるでアイドルみたいにカワイイんですけど……

 高野さんは『美人』という言葉がピッタリくるけど、この子は『カワイイ』を具現化したような容姿をしている。


「体調は…… もう、いいの?」

「あ、えっと、その…… うん。心配してくれてどうもありがとう。もう大丈夫だよ」


 おかしい。

 なんだかモジモジしている。

 いや、俺がモジモジするのは当然のこととして、なぜかこのカワイイ女の子もモジモジしているのだ。


 ひょっとして、俺に興味を持ってくれたのか?

 あ、でもそれは、俺に好意を抱いているとか、そんな大それたことを思っている訳じゃないからな?

 ひょっとしてこの子、実はあんまり身体が丈夫じゃないとかで、俺とお薬トークでもしたいのかな?


 よし、何はともあれ、これはこのカワイイ女子と喋るチャンスだ、と思ったところ——


 ——キーン、コーン、カーン、コーン


 ここでチャイムが鳴ってしまった。

 彼女は自分の机の上に置かれた問診票へと視線を移してしまう。

 仕方ない。

 今回の会話はここまでだな。


 俺は彼女の視線の先へと注意を向ける。

 問診票の氏名欄には、きれいな字で『優木和歌』と記されていた。


 なるほど。

 優木和歌ゆうきわかさんっていうんだな。

 俺は自分の頭の中に、彼女の名前をしっかりとインプットした。


 さて、チャイムは鳴ったが担任の先生はまだ来ていないので、俺は自分のHPを確認をするため、心の中で『HPオープン』と唱えた。


 こうすると、目の前にHPなどの情報が表示される訳だが、他の人からは見えない仕様になっているようなので、周囲の視線を気にする必要はないのだ。


「ハァー……」

 少しため息が漏れてしまった。

 それは『HP15』という数字が見えたためだ。

 1日のノルマHP16にまだ届いてないのかよ……


 仕方ない、気持ちを切り替えて頑張るしかないな。


 どうでもいいけどチャイムは鳴ったのに、なかなか先生が来ないぞ。

 この待ち時間って、本当に無意味だよな、などと考えていると——


 あれ?

 なんだか左側の席に座る優木さんが、チラチラと俺の方を見ている…… 気がする。


 俺は自意識過剰の勘違い野郎なのだろうか?

 今までモテたことがない男って、ちょっとカワイイ女子と喋ったら調子に乗るものなのだろうか?

 ここはなけなしの勇気を振り絞って、優木さんに声をかけるべきなのだろうか?


 行くのか?

 行けるのか?

 うわぁ、どうしよう!

 などと考えていたところ——


 ——ガラガラ

 教室の扉が開いた。

 チッ、担任の先生のご登場だ。

 なんだよ、もうちょっと遅れて来やがれってんだ。


 でも、ほんのちょっと助かっと思う自分もいて……

 なんとも惨めな気持ちになった。


「みんな席に付いてるか?」


 見たらわかるだろ。

 みんなアンタを待ってたんだよ。

 時間ぐらいちゃんと守れよ。

 俺の壮絶な心の葛藤を返せよ…… って、あれ?


 教壇に立つ先生のすぐ前の席に座る、一人の女子生徒の姿が俺の目に飛び込んできた。

 その女子の横顔には見覚えがある。

 教室の中央最前列——悪い意味での特等席——に座るあの女は……


 間違いない。

 昨日、突然背後から話しかけてきた『めがふら』好き女子だ。


『きっと近い将来、アンタはアタシと出会う運命になってるから』なんて、運命の邂逅チックなこと言ってたけど、なんだよ、ただのクラスメイトだったのかよ。

 そりゃ、すぐに顔を合わすだろうさ。


「それじゃあこれから、男子は体育館で、女子は視聴覚室で、それぞれ健康診断だからな。特に男子、場所を間違えるなよ」

 それだけ言うと、担任の先生はサッサと教室を後にした。


 そう、今日はこの後、健康診断が行われるため、ここからは男女別行動になってしまうのだ。

 だから、なんとかHPを最低でも17(本日消費分16プラス明日の生存分1)を確保しておきたかったのだが、まあ大丈夫だろう。


 検診後にもう一度クラスに戻って、HRをしてから解散となる予定なので、帰り際にサヨナラの挨拶を高野さんに言おうと思っていたのだ。



 しかしその後、俺の元に悲しいお知らせが届けられることになる……

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