第2話 試練なんていりませんから!
「まあ、どうでもいい話はこれぐらいにして——」
女神様は面白そうに話を続けるが……
俺にとっては、とても大切な話なんですけど。
「——あなたが日本でどんな人生を送ってきたのか、スキルを授ける前に見せてもらいましょうか、どれどれ」
「うっ、か、体が動かない!」
魔法でもかけられたのだろうか、体の自由がきかない。
身動きが取れなくなった俺に近づいて来た女神様は、俺の頭のすぐ近くまで顔を近づけてきた。
頭の中を
と思ったその時、女神様がボソりとつぶやいた。
「頭、クサいわね……」
「ちょ、ちょっと、失礼ですよ!」
「冗談よ。あんまり大きな家じゃないんだから…… って、このネタはもういいわね」
人の家の狭さを、ネタにしないで欲しいんですけど……
「じゃあ、これから、あなたの記憶を見させてもらうから」
そう言うと、女神様は俺の頭部をじっと見つめた。
今度こそ、魔法的な何かで、おれの記憶を
しばらくして——
あれ? おかしいぞ。
なんだか目の前の女神様がワナワナと震え始めたんだけど。
「何よこれ…… あなた…… あなたはそれでも栄光あるファンタスティア帝国の臣民なの!?」
「いや、今は普通の日本人なんですけど……」
「どこが普通なのよ! 友だちだって全然いないし!」
「全くいないわけじゃないですよ。休憩時間にちょっとした話をする友だちなら、少しはいますから」
「そんなの、真の友とは言わないのよ!」
まったく、面倒くさい女神様だな。
「友だちの定義なんて、人それぞれでしょ?」
「それより、何よこの異性関係。あなた、なんで女の子とまともに話したことが一度もないの!?」
「いや、なんて言うか、その…… 女子と話すの苦手でして……」
そう、俺はちょっと内気な好青年だと近所でも有名なのだ。
「あなた、私を何の女神だと思ってるのよ!?」
「他人の家をイジるのが得意な女神とか?」
「そんなピンポイントな小ネタが得意な女神なんているわけないでしょ! 私は愛の女神よ!」
「あっ、そう言えばそうでしたね……」
ハアー、とわざとらしく大きなため息を吐いてみせた女神様。
「……スキルあげるのやめた」
と、面倒くさそうにおっしゃるので、
「はあ、そうですか」
と、同じようなテンションで俺は返す。
「……何よ、そのリアクション」
どうやら女神様はとてもご不満のようだ。
「いや、なんて言うか…… そりゃあ、前世ではスキルを授かるのを心待ちにしてましたよ? でも、日本で生きて行くなら、別に魔法や武技なんてなくてもいいっていうか……」
「なによそれ。あー、頭にきた。だんだん腹が立ってきたわ」
なんだか、あからさまに女神様が不機嫌になってきたぞ?
ひょっとして、俺、いきなり魔法で消されたりするのか?
俺は慌てて、謝罪の言葉を口にする。
「け、決して女神様が必要ないとか、馴れ馴れしいとか、ギャグがしつこいとか、そういうことでは……」
「……決めたわ。あなた、恋人をつくりなさい。そして真実の愛を知りなさい」
「え? 突然、何を言い出すんですか?」
恋人とか真実の愛とか、俺には全くもって無縁の言葉なんだけど。
「あなたは愛の女神である私が統括するファンタスティア王国の臣民なの。だから恋人がいないとダメなの」
「まったく説明になってませんよ…… それに、俺はもうごく一般的な日本人ですから」
「女の子と一度も会話したことないなんて、あなたはごく稀な日本人よ」
「一度も話したことがないなんて、過去を捏造するのやめて下さいよ。僕だって、幼稚園児の頃はさすがに……」
「自分で言ってて、哀しくならないの?」
この上なく哀れな目で俺を見つめる女神様。
「ああもう!——」
あ、女神様がキレた……
「——それならアタシが授けるスキルを使って、女子と仲良くなればいいでしょ!」
「そんな都合のいいスキルなんてある訳ないでしょう……」
恋愛系のスキルなんて聞いたことがない。
きっとこれは、女神様がネタを使ってまた俺をイジるつもりなのだ。
俺はもう、どれだけボケられてもツッこんでやらないからな。
「なによ! さっきからグズグズと。アンタ、女神様であるアタシに喧嘩売ってんの!? こうなったら、アンタにはスキルだけじゃなくて、試練も与えることにするわ!」
ヤバい! 女神様は相当お怒りのご様子だ。
「そ、そんな! スキルも試練も要りませんってば!」
「そうね。アンタは栄えあるファンタスティア帝国臣民なんだから、試練をクリアするごとに、スキルを一つずつ授けることにしようかしら」
「ちょっと! 俺の話を聞いてないんですか! どれだけスキルを授けたいんですか!」
「ウッサイわね! 今回アタシはアンタにスキルを授けるって名目で、大天界から『異世界出張特別手当』をもらってんのよ! アンタにスキルを授けなかったら、出張手当を返さないといけないでしょ!」
「知りませよ、そんなこと!」
俺の言葉などお構いなしといった様子で、女神様はスッと右手を宙にかざした。
女神様の右手から、眩い光が溢れ出す。
その光が俺の頭を包み込んだ。
包み込んだのはいいんだけど……
「イッテエーーー!!! 目が痛え! 眩しすぎて目が痛いですよ、女神様! 将来白内障になったら、治療費を請求してやるからな!」
「あ、ごめんなさい。家のローンも返さなきゃいけないのに、余計な出費になるわね」
「親子2世代ローンじゃねえよ! ちゃんと父親の代で、ローンは完済する予定だよ!」
「そうよね。こんなに小さい家だものね」
「どんだけ俺の家をイジりたいんだよ!」
「アンタは本当にいいリアクションを返してくるわね。まあ、冗談はさて置き…… とりあえずはこんなもんかな」
女神様がそう言うと、俺の体は自由に動くようになった。
「コホン、カンタスよ、よくお聞きなさい——」
話し始めた女神様の言葉を、俺は慌てて
「あの、女神様。ヨソ行きの声なんか出しちゃって、カッコよくお決めになろうとされているところ誠に言いにくいのですが……」
「……何よ」
「……まだ目が痛いので、周りがよく見えないです」
「チッ、ホント、しまらない男ね。『彼の者の傷を癒せ、ヒール』」
「そんな舌打ちなんかしなくても…… あ、目が見えるようになった」
どうやら女神様がネタではなく、本当に魔法を使ってくれたみたいだ。
「コホン、それでは改めましてもう一度。カンタスよ、前世と同じように、心の中で『ステータスオープン』と唱えなさい。するとステータス画面が表示されるので、あとはそれを見て行動すると良いでしょう」
とても満足したご様子のように見受けられる女神様の姿が、ゆっくりと俺の前から消えていった……
女神様の姿が完全に消失したと思った瞬間、再び俺の部屋は闇に包まれた。
俺は女神様に言われるがまま、心の中で『ステータスオープン』と唱える。
しかし、何も起こらなかった。
よく考えたら、部屋の電気つけてないや。
なんだよ、暗い所じゃステータスは見えないのかよ……
さて、部屋の電気を灯した上で、改めて俺は心の中で『ステータスオープン』と唱えた。
おお、今度はちゃんと見えるぞ!
俺はじっくりとステータスを眺めた。
名前 カンタス(田中貫太)
レベル1
スキル なし
HP 1
MP 0
称号 : めざせ恋愛マスター
〈 試練 〉
HP減少数 : 8/(1日)
(何もしなければ、1日に8HP減少します)
HP回復方法 : 女の子と会話する
(女の子と1回会話するとHPが1回復します)
HP減少時間 : 9時30分から16時30分まで、計8回。1時間につき1HP減少
(但し、平日に限ります。土日祝日は、HPが減少することはありません)
※備考
前日に余ったHPは、次の日に持ち越せるようにしてあげます。
HPが減少するのは、あなたが学校にいる時間帯に限定してあげます。
1日につき8HPしか減少しないので(しかも平日のみ)、最低でも1日に8回、女の子と会話すればいいだけです。
ここまで読んだあなたは、きっと私への感謝で心が満たされていることでしょう。
それでは、真の恋愛マスター目指して頑張って下さい。
追伸 : HPが0になると、大変なことになりますよ(笑)
——大変なことってなんだよ? カッコ笑いが、なぜだか不気味で怖いよ……
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