第9A話 : 大イベントへ向けて――ハンター訓練、始動

(ノルが森の中を走っている)


ノル・タケダ

ファクロを探さなきゃ。

しばらくハンター任務に出られないなら、訓練は一刻も早く始めないと。


(ノルが自分の家に戻ると、まるで待っていたかのようにファクロが立っている)


ノル・タケダ

(ぱっと笑顔になる)

ファクローーー!


ファクロ

ノルーーー!


(振り向いてノルに気づき、互いに駆け寄って抱き合おうとする。ノルは嬉しそうに目を閉じる)


ファクロ

ノルーーー!


(しかし次の瞬間、ファクロの表情が一変する。怒り顔だ。ノルが気づいた時にはもう遅く、頭に一撃を食らって地面に倒れる)


ノル・タケダ

いったぁ!? な、なんで!?


ファクロ

分からないとは言わせないぞ。

“師匠登録の手続きが終わったら、すぐに印章を返せ”――そう言ったはずだ。


(数日前、ファクロが印章を渡してくれた時の記憶がノルの脳裏によみがえる)


ノル・タケダ

あっ……そうだ、返すの忘れてた。ごめん。(気まずそうに笑う)


ファクロ

謝って済む問題じゃない。

俺は五日間、任務を受けられなかったんだぞ。

あの印章がないと、任務の受諾も完了報告もできないんだ。


ノル・タケダ

そんなに重要だとは知らなかった……あとで必ず埋め合わせする。

でも今は、第四段階に向けた訓練を始めるのが先だ。


ファクロ

それはそうだな。

残りは……およそ二ヶ月半ってところか。


ファクロ

よし、まずは基礎的な訓練からだ。

その後で管理棟に行く。お前の今後の任務を俺が調整して、失った分を少しでも取り戻す。


(二人は歩き始める)


ノル・タケダ

それなんだけど……

キョウが、しばらく任務には出るなって言ってて……。


(事情を話すノルの表情は、どこか寂しそうだ)


ファクロ

(呆れたようにため息をつく)

……お前は本当に、どうしてこうなんだ。

初任務で、いきなり問題を起こすとはな。


(会話を続けながら進む。森と草原が延々と広がり、気づけば目的地に着いている)


(そこにあったのは、どこか奇妙な家だった。外階段、木製の装飾、コンクリートの壁。

そして何より、屋上にあるプール。水面には落ち葉と苔が浮かび、長い間使われていない様子だ)


ノル・タケダ

……この家は?


ファクロ

俺の家だ。


ノル・タケダ

えっ?

フォーカスさんと一緒に住んでるんじゃなかったの?


ファクロ

任務がある時だけな。

ここは中央の村からかなり離れてる。

数日から数週間の休暇をもらった時にしか戻らない。


ノル・タケダ

なるほど……。

じゃあ、訓練は何から始めるの?


(ファクロはインベントリから石製の剣を二振り取り出し、そのうち一本をノルに投げる)


ファクロ

まずは一番基本からだ。

剣を構えろ。そして全力で斬りかかってこい。

小細工も遠慮も一切なしだ。


ノル・タケダ

(状況が飲み込めず、戸惑いながら)

……わ、分かりました。


(ノルが踏み込み、縦に鋭い一太刀を放つ。ファクロは自分の剣の刃でそれを受け止める)


(ノルは無意識に剣の角度をずらし、刃と刃が真正面からぶつからないようにする。ファクロはそれに気づくが、戦いは続く。

攻撃は次第に激しさを増すものの、ファクロはすべてを的確に防ぎきる)


ファクロ

火属性――〈燃ゆる焔〉。


(ファクロの一撃がノルの剣を叩き砕く。剣の破片が宙を舞い、衝撃の振動でノルの腕が震える)


ファクロ

……我慢するなと言ったはずだが?


ノル・タケダ

(苛立ちを露わにして)

我慢なんてしてません!

全力で戦ってました!


ファクロ

……待て。

本気で言ってるのか?


ノル・タケダ

はい。


ファクロ(心の声)

ありえない……。

剣にオーラを纏わせてすらいない。

耐久も、切れ味も、何一つ強化していないとは……。


ファクロ

ノル、お前は“オーラ”について、どこまで知っている?


ノル・タケダ

えっと……基本的なことだけです。

オーラはすべての生き物が持つエネルギーで、戦うための力になるもの。

それを四つの属性――水・火・土・風――のどれかに変えて、モンスターと戦う……それくらいです。


ファクロ

それだけか?

通っていた学院では、それ以上教えられなかったのか?

せめて、実演くらいはあっただろう。


ノル・タケダ

……あったような、なかったような。


(ノルの記憶が、十四歳の頃へと遡る。

制服姿、マフラーと手袋、病気のためマスクを着けている)


学校の友人

ノル、どうしたんだ?

昨日、なんで休んだんだよ。


ノル・タケダ

見れば分かるだろ。風邪だよ。

ほとんど動けなかったんだ。


(少し不機嫌そう)


学校の友人

それは残念だな。

昨日の授業、すごかったんだぞ。

先生がオーラの実演をして、風属性で校庭の木を斬ったんだ。

本当に圧巻だった。


ノル・タケダ

マジか……最悪だ。

でも今日も続きがあるだろ?

昨日より凄いことを見せてくれるかもしれないし。


学校の友人

いや、たぶん無理だな。

あれは一度きりだって言ってた。

「オーラの扱いは俺の仕事じゃない。組織のハンターが教えることだ」ってさ。


学校の友人

どうせ、ただ自慢したかっただけだろ。


(フラッシュバック終了)


ノル・タケダ

……以上です。


ファクロ(心の声)

……無責任な教師どもめ。


ファクロ

いいか、よく聞け。

オーラとは、ただのエネルギーじゃない。

形を与え、性質を変え、自在に操れる力だ。


自分のオーラを完全に制御できるようになると、それを武器や物体に纏わせることができる。

耐久力を高め、切れ味を増す――

これがハンターの最も基礎的な技術、**〈粗オーラ〉**だ。


その一段階上が、オーラ変換。

粗オーラの性質を変え、水・火・土・風、四つの基本属性へと変質させる。


さらにその先は二系統に分かれる。

一つは、二つの基本属性を融合させることで生まれる新たな力――元素術(エレメンタルアート)。


もう一つは、属性そのものを極限まで磨き上げる進化形だ。

外部との融合はなく、必要なのは努力と鍛錬のみ。

これを上位属性と呼ぶ。


そして最後に、さらに二段階――

原初属性、そして純粋なるオーラが存在する。


……説明が長くなったな。

今は、そこまでの領域がある、ということだけ覚えておけ。


ノル・タケダ

「情報量が多すぎるよ……。

キョウが使ってた“白魔法”の攻撃って、どの分類に入るんだ?」


(完全に頭がパンクしている様子)


ファクロ

「あれは“魔法”という特別区分だ。

正直、お前に今説明しても無意味だ。」


ノル・タケダ

「特別区分……?

次は何? 三つの属性を同時に組み合わせられるとか言うつもり?」


(新しい知識が増えるたび、ノルの思考はさらに混乱していく)


ファクロ

「理屈はもう十分だ。

次は実践に入るぞ。」


(腕輪の収納から布の包帯を取り出す)


ファクロ

「目に巻け。」


ノル・タケダ

「……はい。」


(目隠しをした瞬間、ファクロはノルの上着の襟を掴み、数メートル引きずるように歩かせる。

その後、何度も回転させ、勢いよく突き飛ばす。ノルは目眩でよろめく)


ノル・タケダ

「な、何するんだよ!?」


(包帯を外そうとするが、ファクロに腕を押さえられる)


ファクロ

「落ち着け。訓練の一環だ。

方向感覚を失わせないと意味がない。」


ファクロ

「俺はこの近くにいる。

お前の課題は“俺のオーラを感じ取って見つけること”だ。」


ノル・タケダ

「でも……やり方が分からない。」


ファクロ

「それを学ぶんだ。

覚えておけ、すべての生き物はオーラを持ち、微量でも必ず外に放っている。

集中すれば、感知できる。」


(ノルは手探りで動き出すが、木に激突する)


ファクロ(遠くから)

「五感だけに頼るな。」


(目隠しをしたまま腕を伸ばし、障害物を避けながら動き続けるノル。

時間が流れ、夕方になる。

ファクロは一度姿を消し、日が落ちる直前に戻ってくる)


ノル・タケダ

(落ち葉の音を聞き)

「……誰だ?」


ファクロ

「俺だ。中央街から戻った。」


ノル・タケダ

「え? 黙って行ったのかよ?」


(苛立った声。まだ目隠しをしている)


ファクロ

「気づくと思ったか?

トイレに行った時も、お前は木を捕まえようとしてたぞ。」


(包帯を外す。長時間の暗闇で目が痛み、思わず細める)


ノル・タケダ

「……もう嫌だ。

正直、この訓練が何の役に立ってるのか分からない。」


ファクロ

「成長には過程がある。焦るな、ノル。

今日はここまでだ。家に戻れ。」


ファクロ

「明日の朝八時、またここに来い。次の訓練を始める。」


ノル・タケダ

「えっ? ここに泊まれないの?

俺の家、かなり遠いんだけど……」


ファクロ

「無理だ。

フォーカスと違って、俺はプライバシーにうるさい。」


ファクロ

「日が完全に落ちる前に帰れ。」


ノル・タケダ(心の声)

(……冷たいな。)


(ノルは走って帰路につく。

日没頃に家へ到着。モンスターの気配はないが、気づく余裕もない)


ノル・タケダ

「……明日は、もう少し実りのある一日になりますように。」


ノル・タケダ

「今日は何も進めなかった。

他の志願者より、まだずっと遅れてる……。

こんなペースじゃ、立ち止まっていられない。」

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