第6B話 - 一生消えない傷
(ノルとジンジョウの場面に戻る)
ノル・タケダ
「ジンジョウ、俺はフォーカスさんをできる限り支える。テンセイの戦いを早く終わらせてやって、あとは皆の援護を続けてくれ!」
ジンジョウ・ワン
「はい!」
(2人は背を向け、逆方向へと駆け出す)
(場面転換:椿が戦いながら、横目でノルを見ている。相手はアレックス)
椿イカリ
「ノルゥーーーー!!」
(怯えと不安が混じった表情)
(ツバキの叫びを聞いたノルが驚いて振り返る。状況が掴めないまま、凄まじい憤怒を帯びたフィヨドルがノルへ突進してくる)
フィヨドル・レベデフ
「このクソ野郎がぁッ!」
(ノルは衝撃で思考が追いつかず、本能で斬りかかる。しかしフィヨドルは腕の装甲で容易く受け止め、その勢いのままノルの石の剣を横から叩き折る)
(ツバキの叫びで状況に気づいた静州は、ノルを助けようと無警戒に走り出す。だが負傷した足で踏み込んだ瞬間、傷口が再び裂け、血が噴き出して倒れ込む)
ワン・静州(ジンジョウ)
(心の声)
あのロボットとの戦いで、もう限界だったのに……。どうして今、崩れるの……?
ノルが危ない……。
フィヨドル・レベデフ
「よくも俺をコケにしてくれたな、この卑怯者が!」
(彼は空を裂くような斬撃を次々と放ち、ノルは必死でかわす。だがフィヨドルの蹴りがノルの胸を捉え、彼は地面へ吹き飛ばされる)
(ヒソカは、フィヨドルがノルを追い詰めていく様子を見て即座に決断する。肘でヴァダントを打ち倒し、駆け出す)
ヒソカ・アハネ
「ノル!」
(ヒソカが助けに向かって走り出す)
フィヨドル・レベデフ
「代償を払わせてやる……一生ものの傷でなァ」
(ヒソカがフィヨドルへ飛びかかろうとした瞬間、フィヨドルは後方へ跳び、逆にヒソカの腹部──へその位置を的確に貫く。ノルは目を見開き、ヒソカも言葉を失うほどの衝撃。二人とも、起きた事実を受け入れられない)
(戦っていた全員が動きを止める。チーム1も第二の町の候補者たちも、ただ呆然と立ち尽くす。ヒソカは剣を落とし、フィヨドルの剣を掴んで必死に引き抜こうとする)
フィヨドル・レベデフ
「お前の苦しみは……友達に感謝しろよ」
ヴァダント・ナイル
「フィヨドル! 何してるんだお前!?」
フィヨドル・レベデフ
「必要なことだ、ヴァダント」
(フィヨドルはさらに剣を深く押し込み、肉を裂くようにゆっくりと胸元まで切り開いていく。ヒソカは抵抗しようとするが力が入らず、顔には耐え難い激痛が浮かび、口から血が溢れる)
ノル・タケダ
「やめろ、クソッ……やめろぉッ!」
(激昂したノルは剣を握り、フィヨドルの首を落とそうと飛びかかる。友が目の前で虐殺される様に、怒りが燃え上がる)
フィヨドル・レベデフ
「仲間に免じて……これ以上は引き延ばしてやらん」
(その瞬間、一本の剣が槍のような速度で飛来し、フィヨドルの“剣を握っていた手”を切断する。フィヨドルは絶叫し、鮮血が噴き上がる)
(ノルは倒れ落ちるヒソカを支え、フィヨドルを睨む怒りは消え、代わりに絶望と混乱が押し寄せる)
ノル・タケダ
「嘘だろ……ヒソカ、しっかりしろ……! すぐ助けるからな……!」
(町1の仲間たちが全力で駆け寄ってくる。テンセイの顔は青ざめ、震え、静州は泣き崩れながら悔しさを噛みしめる。ツバキは腰を抜かし、涙を流しながらノルとヒソカを見つめる)
(町1の候補者たちを包むのは、深い絶望と怒り。しかし別の戦いはまだ終わっていない。フォーカスは今もシゲルとマサルと戦っていた)
フォーカス〈カラス〉
(ヒソカの負傷に気づく)
「……クソッ、いつの間に……!」
シゲル〈ヴァイキング〉
(斧で攻撃しながら)
「戦闘中に気を散らす余裕なんてあるのか?」
(フォーカスは斬撃を捌き続けるが、シゲルの圧力は凄まじく、さらにマサルが加勢して二対一になる)
(数秒は耐えたが、敵の攻撃量が限界を超え、わずかな隙でシゲルがフォーカスの頬を斬り裂く。フォーカスは体勢を崩す)
(マサルが水平にハンマーを振り抜く)
マサル〈科学者〉
「王の
(マサルのハンマーは密度を増し、破壊力が跳ね上がる。フォーカスの肋骨が砕け、彼は血を吐く)
(衝撃で吹き飛ばされたフォーカスは岩に激突し、転がりながら木の根元まで叩きつけられる。座るのがやっとの重傷)
マサル〈科学者〉
「これで勝ちはもらったな」
(狂気の笑みを浮かべる)
シゲル〈ヴァイキング〉
「仕上げだ」
(斧を掲げ、真剣な表情)
マサル〈科学者〉
「シゲル……何をする気だ?」
(わずかに怯える)
シゲル〈ヴァイキング〉
「殺しはしねぇよ。ただ……公平にな。左腕くらいでどうだ?」
(フォーカスへ歩み寄る)
マサル〈科学者〉
「やめろシゲル! そこまでする必要はない!」
(その時、森の奥から炎をまとった矢が飛来し、シゲルの足元に突き刺さる。木の上にファクロが弓を構えて立っている)
ファクロ
「シゲル……50メートルの距離なら、お前の頭なんざ簡単に射抜ける。
大人しく引き返せ。自分の町に戻れ」
(鋭い眼光。空気が凍りつく)
マサル〈科学者〉
ちくしょう……なんであいつがここに?
エゴランド国で任務中のはずだろう。
シゲル〈ヴァイキング〉
(振り向く。苛立った表情)
俺に勝てるつもりか?
ファクロ
近距離戦じゃ勝ち目はないだろうな。
――だから、一人で来たわけじゃない。
(不敵に笑う)
(木々の間で小さな砂埃が渦を巻き、一瞬でライデンがフォーカスの目の前に現れる。
シゲルは遅れて気づき、わずかに動揺した顔を見せる)
ライデン〈バーバス〉
フォーカス、大丈夫か。
まだ戦えるか?
フォーカス〈カラス〉
(激痛に耐えながらも弱みを見せまいとする)
平気です。今は……新人たちを優先してくれ。
(ライデンがうなずく)
(ライデンは歩き出し、村1と村2の新人たちのもとへ向かう。
村2の者たちはフィョードルの手の出血を必死に止め、
村1の者たちはヒソカの状態に恐慌状態になっている)
(ヒソカの体温はどんどん下がっていくが、まだ意識だけは辛うじて保っている)
ノル・タケダ
ヒソカ、頼む……意識を保て。
すぐに助けるから。お前なら大丈夫だ……だから頑張れ……!
(涙を流し、完全に取り乱し始める)
(ライデンが到着し、ノルの肩に手を置く。
村1の全員がライデンを見るが、テンセイだけは衝撃で固まったままだ)
ノル・タケダ
ラ、ライデンさん……?
(安堵の笑みがこぼれる)
ノル・タケダ
よかった……! すぐに説明します!
まずはヒソカを病院に――!
血が止まらないんです! 息も……浅くて……!
(ヒソカを抱いたまま立ち上がり歩き出す。
ヒソカはノルの上着を弱々しく掴んだまま)
ライデン〈バーバス〉
ノル。
(ノルがぴたりと足を止める。
その笑顔が崩れ、再び涙をこらえようと震える)
ライデン〈バーバス〉
傷が深すぎる……そして広すぎる。
――助かる見込みはない。
ノル・タケダ
(声が震える)
そんな……そんなこと言わないでください……!
あなたは公式の狩人でしょう!?
どんな状況でも……人を救ってきたはずじゃないですか……!
不可能なんて……!
(その瞬間、ヒソカの手がノルの服から滑り落ちる。
言葉も、苦しみも、もうない。
ただ、冷たく力を失った腕だけが揺れる)
(ヒソカは静かに息を引き取った。
ノルは崩れ落ち、亡骸を抱きしめたまま嗚咽する)
ノル・タケダ
ヒソカぁぁぁぁぁ――ッ!!
(ライデンの拳が強く握られ、圧倒的な殺気が周囲を満たす)
ライデン〈バーバス〉
……さて。
お前たち二人に聞く。
――誰が俺の村で、こんな惨状を許可した?
(マサルとシゲルへと鋭い視線を向ける。怒気があらわ)
シゲル〈ヴァイキング〉
この訓練は賢者評議会に正式に承認されている。
お前に説明する義務はない。
ライデン〈バーバス〉
ここで何をするか決めるのは、俺だ。
まして新人が関わるならなおさらだ。
(オーラがさらに強くなる)
シゲル〈ヴァイキング〉
村2では数年続けてきた訓練だ。
結果も出している。
ライデン〈バーバス〉
村2で何をしようが勝手だ。
――だが、こいつらは俺が守る。
今すぐ消えろ。命があるうちにな。
(3メートルの距離で完全に対峙)
マサル〈科学者〉
……行こう。
これ以上、無駄に事を荒立てる必要はない。
(マサルは狩人の“特性”を解除)
シゲル〈ヴァイキング〉
……いやだ。
もう我慢できねぇ。
いつもいつも、あんたは俺たちを見下しやがって。
そこの四人は特別でもなんでもねぇ!
いつも“気に入った奴”にだけ肩入れして、
俺たちみたいな“目につかねぇ奴”は切り捨てる!
(怒りで呼吸が荒い)
マサル〈科学者〉
シゲル、やめろ!
シゲル〈ヴァイキング〉
いやだ。
あんたの目に――この“落ちこぼれの狩人”を刻みつけてやる。
(水のオーラが両手の斧にまとわりつく)
雷電(バーバス)
残念だが……ここで終わりのようだな。
(刀に手をかけるが抜かない。雷光が雷電の体を走り、瞳が青白く輝く)
マサル ― 科学者
ちっ……!
(再び狩人の〈顕性〉を発動し、重槌を構える)
(シゲルが雷電へ向けて突進し、戦闘態勢に入る)
雷電(バーバス)
――
「インドラの舞」
(両者が踏み込む直前、戦場に声が響きわたり動きが止まる)
ナオミ・イクザワ
――もうお開きよ、シゲル。
シゲル(ヴァイキング)
(ピタッと止まり、わずかに緊張しながら)
……イクザワ、お前……なんでここに?
ナオミ・イクザワ
評議会から招集よ。カルマ国で〈下級エンダー〉の目撃情報が出たの。
あの地域には高ランクの狩人が足りないから、私たちが向かわないと。
ナオミ・イクザワ
(雷電に気づいて)
あ、雷電。もう戻ってきてたんだ。久しぶり。
(にこっと微笑む)
雷電(バーバス)
ああ。……また会えて嬉しいよ。
(表情は固いまま)
ナオミ・イクザワ
その顔だと全然嬉しそうじゃないけどね。まあ後で話すとして……。
さ、行くわよシゲル。
それとマサル――そろそろ自分の村へ戻りなさい。
ケナイは、部下が他所の村で騒ぎを起こすのを好まないでしょうから。
マサル ― 科学者
あ、ああ……すぐ戻るよ。
(明らかに落ち着かない。シゲルは怒りを残しつつも視線を落としている)
ナオミ・イクザワ
ほら、シゲル。何してるの?
シゲル(ヴァイキング)
……わかった。
(振り返らずに歩き出す。少し離れてナオミとマサルも後に続く)
(雷電が静かに〈顕性〉を収め、悲しげにノルへ視線を向ける)
雷電(バーバス)
ファクロ……ロッテンロー本部へ連絡だ。
医療班を至急要請しろ――それと、鑑識と葬儀担当も。
(湖側から医療車両二台が到着し、フォーカスの治療と、ヒソカの遺体搬送が行われる。
ノルはファクロに抱きしめられながら、涙をこぼし続ける)
(数日後。ヒソカの葬儀。
ノル、テンセイ、景州(ジンジョウ)、そしてツバキが墓前に立つ。
雷電とファクロは少し後方に佇む。
ノルはテンセイと景州に支えられながら泣き、
ツバキは距離を置き、俯いたまま静かに涙を落とす――沈黙が胸を裂く。)
――――
(六日が経った。
ノルは毎日のようにヒソカの墓へ通い、泣く日もあれば、ただ黙って立ち尽くす日もある。
まるで全てを悔いているかのように。
今やここへ来るのはノルだけで、その姿は明らかにやつれている。
墓石に額を寄せ、うなだれたまま。)
フォーカス(カラス)
……何してる。
狩人試験はまだ終わっていないぞ。
ノル・タケダ
もう……退院したんだ……?
それは……よかった……。
(声は沈みきっている)
フォーカス(カラス)
組織の医療技術は優秀だからな。
狩人の治癒力も普通よりは高い。
とはいえ……あと二週間は安静だ。
(痛む肋骨に触れる)
フォーカス(カラス)
だが――今日はその話をしに来たわけじゃない。
……いつまで続けるつもりだ?
ノル・タケダ
……どういう意味だ?
フォーカス(カラス)
時間の無駄だと言っている。
毎日ここに来て、ファクロの指示も聞かず、
試験の次の段階にも進まず……。
お前は一日中ここにいて、狩人としての任務も果たしていない。
ノル・タケダ
時間を……無駄にしてる、だと? 友達が死んだんだぞ。しかも……それは、俺のせいだ。
お前はこんな気持ち、分からないだろ。どうせ友達なんて多くないんだろうし。
でも俺は、お前とは違う。あの時、あいつの言う通りにして決闘をやめていれば……
(悔しさで表情が歪む)
フォーカス〈烏〉
その通りだ。俺には友達は多くない。
それに、お前ほど大切な誰かを失ったこともない。
だがな――そこで倒れ込んだままなら、あの少年の死は本当に無意味になる。
フォーカス〈烏〉
俺も多くの仲間ハンターが死ぬのを見てきた。
助けられたはずなのに、助けられなかった仲間もいた。
罪悪感はあったが……悲しみに沈んでいたのはせいぜい一日だ。
翌朝には立ち上がって、昨日より強くなるために鍛えた。
ノル・タケダ
どうやって……誰かを失ったまま鍛えられるんだ?
どうやって立ち上がる? 自分のせいだと分かってるのに……
どうやって前に進む? 代わりに死んでいたのは自分のはずだと、そう思っているのに……
(ヒソカの墓に額を預け、静かに泣き始める)
フォーカス〈烏〉
なぁ、誰かを失うより、もっと最悪なことが何か知ってるか?
その“喪失”に、何の意味も残らないことだ。
お前を見てアイツが喜ぶと思うか? ここで時間を潰しているお前を。
ハンターを目指すんじゃなかったのか?
今はもう、お前の夢だけじゃない。
アイツがお前に託した“信頼”ごと背負ってるんだ。
ノル・タケダ
(涙を拭いながら)……本当に、ヒソカはそんなふうに思っていたのかな。
フォーカス〈烏〉
俺に聞くな。お前の方がアイツのことをよく知ってるはずだ。
だが……ここで泣いて全部放り出すなら、アイツは“道半ばで消えた一人”に過ぎなくなる。
残されたものすら、無駄になる。
(ノルの目が静かに引き締まる。フォーカスの言葉が胸に刺さる)
ノル・タケダ
……できるかどうか、分からない。
フォーカス〈烏〉
ならせめて、やるだけやれ。
……まぁ、わざわざ来たのは上官のライデンに頼まれたからだがな。
ファクロはお前の顔を見るたび泣きそうになるから近づけないらしい。あいつは本当に涙もろい。
ノル・タケダ
(少し笑い、涙がこぼれる)
聞いたよ。入院した日に花を持ってきたって。……いい奴だよな?
フォーカス〈烏〉
俺からすれば面倒な奴だが……嫌いじゃない。
とにかくファクロのところへ行け。もう十分遅れてる。
(そう言い残して墓地を後にする)
ノル・タケダ
(立ち上がり、ヒソカの墓に向き直る)
ヒソカ……お前がハンターとして成し遂げるはずだったものを、俺が埋め合わせることはできない。
でも――
お前の犠牲が無駄にならないように、俺は全力を尽くす。
この組織で“最高のハンター”になってみせる。
(拳を墓前に突き出し、誓いを示す)
― 終 ―
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