MAI♡DOL
さくらたぬき
オーディション会場にて
「
「え……ええええええええ!?」
少し遅れて少女は驚きの声をあげた。
事の発端は、今から遡ること30分──
秋葉原駅から徒歩数分の好立地にそびえ立つ複合ビル。その一角にあるシアタールームにて、真衣はとあるオーディションの審査員として参加していた。
スクリーンには【第7回メイドルオーディション】という文字が大きく映し出されている。
メイドル──それはメイドとアイドルを融合させたコンセプトカフェの一種だ。
従来のメイドカフェとは異なり、給仕と並行してアイドル活動も行うメイドルは、若者を中心に絶大な人気を集めている。
「はぁ、はぁっ……あ、ありがとうございました!」
パフォーマンスを終えた少女が、息を切らしながら勢い良くお辞儀をした。
真衣を含む審査員達から、パチパチとまばらな拍手が送られる。
「素晴らしいパフォーマンスを披露していただき、ありがとうございます」
メガネをかけた見るからに聡明な女性、
少女はもう一度深々とお辞儀をすると、シアタールームを後にした。
すると少女と入れ替わる形で司会台に駆け寄ったスタッフが、何やら新庄に耳打ちする。
何かトラブルでも起きたのだろうか。
新庄は軽く頷くと「皆様、少々お待ちください」とマイクでアナウンスし、スタッフに指示を出す。
張り詰めていた空気が少し和らぐのを感じた。
「どうだった、真衣ちゃん?」
そう小声で話しかけてきたのは、真衣の左隣に座る、従姉妹であり上司でもある
ゆるく巻いた藤色の髪に、品のあるフォーマルスーツがよく似合う彼女は、真衣の顔――正確には真衣の表情を一瞥すると、困ったような笑みを浮かべる。
「その感じだと、今のところピンとくる子はいないようね」
「うん。みんな可愛くて素敵なんだけど、ちょっと煌めきが足りないかなぁ」
「そう……でも大丈夫。オーディションはまだ終わってないわ。きっと運命の出会いはこれからよ」
優美は真衣を励ますように優しく微笑む。
「そう、だといいけど──」
「お待たせいたしました。オーディションを再開いたします」
どうやら準備が整ったようだ。
途端に会場は静まり返る。
「それではエントリーナンバー19番の方、どうぞ」
(運命の出会い、か……)
真衣はずっと探している。キラキラと輝くスターの原石を──
(……あれ?)
呼ばれたはずの少女が一向にステージに現れない。
「次の方――エントリーナンバー19番の方、ステージへお越しください」
新庄がもう一度呼びかけると「はっはい!」と慌てたような返事が聞こえ、ほどなくして少女が舞台袖から現れた。
白地のTシャツにピンク色のプリーツスカートを身にまとった可愛らしい少女だ。
ココアブラウンの長髪はラビットスタイルのツインテールに結われ、ゆらゆらと揺れ動いている。
俯きながら歩く姿から、緊張しているのがひしひしと伝わってきた。
(オーディションだし緊張するのはよくあることだけど……)
ステージの中央に辿り着く頃にはかなり顔色が悪く、マイクを持つ手は震えていた。その様子を見かねた新庄が少女に歩み寄る。
「大丈夫ですか?もし気分が優れないのであれば――」
「だ、大丈夫です!」
少女は慌てて新庄の言葉を遮るが、誰がどう見ても無理をしているのは明らかだった。
「……分かりました。では自己紹介をどうぞ」
真衣は手元のタブレットを視線を落とす。
リアルタイムで更新される参加者の資料は、いつの間にか目の前の彼女に切り替わっていた。
「ほ、
少女──夢乃は小さな声で喋り始めた。
「小さい頃からメイドルが大好きで……ずっとメイドルになるのが夢でした。私は──」
彼女はそれまで伏せていた目線を中空に向ける。
目にかかっていた前髪が払われ、淡いピンク色の瞳が姿を現した瞬間
パチッ
星が弾けた。
真衣は目を疑った。
「尊敬してるメイドル……ミユウさんみたいな、キラキラしたメイドルになりたいです!この気持ちだけは、誰にも負けません!よろしくお願いします!」
そう言い切ってお辞儀する夢乃からは、色とりどりの小さな星が舞っていた。
(嘘……そんなことって――)
真衣は生まれつき、人の才能が様々な色や形──すなわち煌めきとなって見える。
しかし煌めきが現れるのは、本人が何らかの形で才能を発揮したときだけ。目の前の彼女はまだパフォーマンスを行っていない。
一体どういう事だろうか。
初めての出来事に、鼓動が高鳴る。
「ありがとうございます。それでは今から課題曲を流しますので、準備をお願いいたします」
夢乃が最初のポーズを取ると、すぐに課題曲が流れ始めた。真依はごくりと唾を飲む。
【MAI♡DOLIFE!】――公式ソングの中で最も有名かつ人気のある曲だ。
コンセプトはメイドルの内なる想いを綴った詩。ポップな曲調に可愛らしい歌詞が絶妙にマッチしている。特にサビの歌詞は覚えやすく耳に残るので、つい口ずさんでしまう人が多い。例に漏れず真衣のその内の一人だ。
夢乃はステップを踏む。動きは硬いが悪くはない。
(彼女は一体どんなパフォーマンスを見せてくれるんだろう――)
短いイントロを終えるといよいよ歌唱ありのパートに移る。ここらが本番だ。
しかし歌唱パートに入った瞬間、夢乃の動きはぴたりと静止した。まるで水面に打ち上げられた魚の様にパクパクと口を動かしている。それに加え顔面は蒼白で、呼吸も浅い。
周囲からは「大丈夫か?」などの声が聞こえてきる。
やがて夢乃は目に涙を浮かべ
「……っごめんなさいっ!!」
と頭を下げるとそのまま舞台袖に走り去ってしまった。
イレギュラーな出来事に会場は騒然としたが、真衣はそれどころではなかった。
「っご静粛に――!」
新庄の動揺した声が聞こえる。
「あの子、一体どうしたのかしら――真衣ちゃん?」
気付けば真衣は立ち上がっていた。
「ごめんっ私追いかけてくる!」
「追いかけるって……ちょっと、真衣ちゃん ──!?」
戸惑う優美を尻目に真衣は急いで出口に向かった。
周りの視線が痛い。それでも今は、彼女を追いかけないと行けないような気がしたのだ。
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