第10話「決戦、アークライト防衛戦」
「作戦を説明する。俺、フィン、ボルガンの三人で坑道最深部に突入し、召喚の儀式の『楔』を破壊する。リリアとエルミナさんは街の入り口で防衛線を築き、坑道から溢れ出してくる魔物たちを食い止めてほしい」
ギルドハウスの作戦室でリアムは手早く指示を出した。
残された時間は少ない。古代悪魔の召喚が完了する前に儀式を止めなければならなかった。
「分かったわ。一体たりとも街には入れさせない」
「リアムさんたちこそ、気をつけてくださいね……!」
リリアとエルミナは覚悟を決めた表情でうなずく。
街の衛兵や腕に覚えのある住民たちも彼女たちの指揮下に入り、バリケードを築き始める。アークライトの全ての人々が自分たちの街を守るために心を一つにしていた。
リアム、フィン、ボルガンの三人は坑道へと駆け込んだ。中はすでに無数の魔物で埋め尽くされている。
「道を開けるぞ! ついてこい!」
先陣を切ったのはボルガンだった。
月光鋼の巨大な戦斧が唸りを上げ、ゴブリンやオークの群れを紙くずのように吹き飛ばしていく。まさに歩く要塞だ。
「フィン、援護を!」
「うん!」
リアムの指示を受けフィンはボルガンの背後から、的確な射撃で敵を仕留めていく。
一体一体を狙うのではなく敵の陣形の要となっている個体や、厄介な魔法を使う魔物を優先的に狙撃しボルガンの負担を減らす。その判断力はもはや臆病だった頃の彼からは想像もつかないほどに成長していた。
そしてその全てをコントロールしているのがリアムの【真理の瞳】だった。
『ボルガン、三歩下がって斧を振れ! 天井からスライムが落ちてくる!』
『フィン、右手の岩陰にアーチャーがいる! 先に潰せ!』
リアムは直接戦闘には参加しない。だが彼の的確すぎる指示が二人の戦闘能力を何倍にも引き上げていた。
彼はこのチームの頭脳であり心臓だった。
数々の激戦をくぐり抜け、三人はついに最深部の巨大な空洞にたどり着いた。
そこでは禍々しい紫色のゲートが脈動し、その中央に巨大な悪魔の上半身が姿を現しかけていた。そして空洞の四隅には黒い魔力の奔流をゲートに注ぎ込む巨大な石柱――『楔』が立っている。
「あれを壊せばいいんだな!」
ボルガンが楔の一つに狙いを定め駆け出そうとした瞬間だった。
ゲートから一体の漆黒の騎士が姿を現し、三人の前に立ちはだかった。
【名称:デーモンナイト】
【種族:悪魔族】
【称号:影の支配者の番人】
【危険度:Aランク冒険者パーティーに相当】
「チッ、面倒なのが出てきやがった!」
ボルガンが舌打ちする。
デーモンナイトは不気味な赤い目を光らせ巨大な剣を構えた。そのプレッシャーはこれまでに戦ってきたどの魔物とも比較にならない。
「こいつは俺が引き受ける! その間にお前たちは楔を!」
ボルガンが雄叫びを上げデーモンナイトに斬りかかる。
激しい剣戟が始まり火花が散る。だが相手はあまりにも強大だった。数合打ち合っただけでボルガンの斧が弾き飛ばされ、彼は大きく体勢を崩してしまう。デーモンナイトの剣が無防備なボルガンに振り下ろされた。
「ボルガン!」
リアムの叫びとフィンの放った矢がデーモンナイトの兜をかすめる。だが致命傷には至らない。
『まずい、このままじゃ……!』
リアムは【真理の瞳】を極限まで集中させた。デーモンナイトの全身をスキャンし弱点を探す。
【デーモンナイト:攻略情報。全身を覆う魔力の鎧には継ぎ目が存在しない。物理攻撃、魔法攻撃共に高い耐性を持つ。唯一の弱点は三秒に一度、魔力を再充填するために心臓部のコアが一瞬だけ無防備になること】
『三秒に一度の一瞬……! それを狙うしかない!』
リアムは叫んだ。
「ボルガン、もう一度だ! ヤツの攻撃を受け止めて三秒だけ時間を稼いでくれ!」
「な、無茶言うな! だが……面白え!」
ボルガンはニヤリと笑うと吹き飛ばされた斧を拾い、再びデーモンナイトに挑みかかった。
彼は攻撃を仕掛けるのではなく、ただひたすらに分厚い月光鋼の鎧でデーモンナイトの猛攻を受け止める。
ガキン! ズドン! と凄まじい衝撃音が響き渡りボルガンの鎧に亀裂が入っていく。
だが彼は歯を食いしばり仁王立ちで耐え続けた。
「フィン、今だ! 心臓を狙え!」
リアムの合図と同時にフィンは精神を極限まで集中させていた。
彼の目にはデーモンナイトの胸の中心で禍々しい光を放つコアが見えていた。時間が止まる。
放たれた月光の矢は一条の光となって、吸い込まれるようにデーモンナイトの胸へと突き進んだ。
そしてボルガンの鎧が砕け散るのと、矢がコアを貫くのはほぼ同時だった。
「グオオオオオオ!」
断末魔の叫びを上げデーモンナイトは光の粒子となって消滅した。
「やったか……!」
「ボルガン、大丈夫か!?」
リアムとフィンが膝をついたボルガンに駆け寄る。彼はボロボロになりながらも親指を立ててみせた。
「ったりめえだ……。さあ、とっととあの柱をぶっ壊すぞ!」
番人を失った今、楔はもはやただの石柱だった。
ボルガンの戦斧がフィンの矢が次々と楔を破壊していく。四本目の楔が砕け散った瞬間、紫色のゲートは不安定に揺らめき、やがて光の渦に飲まれて跡形もなく消え去った。
召喚されかけていた古代悪魔の気配も完全に消滅していた。
静寂が戻った空洞で三人は荒い息をつきながら互いの顔を見合わせ、そして笑った。
街に戻ると彼らを待っていたのは住民たちの割れんばかりの歓声だった。
リリアとエルミナも見事に防衛線を守り抜き、街への侵入者を一体も出さなかったのだ。
アークライトは住民とギルド「方舟」の力によってその危機を乗り越えた。
この一件は彼らの絆をより一層強くし、「方舟」の名を不動のものとして街の歴史に刻みつけることとなった。
リアムは歓声の中心で、傷だらけながらも笑い合う仲間たちを見渡した。
リリアの涙、フィンの誇らしげな顔、ボルガンの満足げな笑み。
この光景を守れたこと、それが何よりの報酬だった。
彼は固く拳を握りしめ、仲間たちと共に新たな誓いを胸に刻むのだった。
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