第6話「ギルド『方舟』始動と、開花する仲間たちの力」
ヒーラーのリリア、そしてアーチャーのフィン。
二人の仲間を得てギルド「方舟」はついに冒険者ギルドとしての体裁を整えた。リアムがギルドマスター兼司令塔、リリアが後衛の回復・支援役、フィンが後衛のアタッカー。まだ三人だけの小さなギルドだがそれぞれの役割は明確だった。
「よし、今日からギルド『方舟』は正式に依頼を受ける。これが俺たちの初仕事だ」
リアムはギルドハウスの一階、真新しいカウンターに一枚の依頼書を叩きつけるように置いた。
それは街の薬草師から出された「森に自生する『月見草』の採取」という、駆け出し冒険者向けの簡単な依頼だった。報酬も銅貨数枚程度だ。
フィンが不安そうな顔で尋ねる。
「り、リアム。もっと難しい依頼の方がお金になるんじゃ……」
「最初はこれがいいんだ。俺たちの目的は金儲けじゃない。まずは君たちが自分の力に自信を持つこと、そしてチームとして連携する練習をすることだ」
リアムの言葉にリリアもこくりとうなずく。
「はい! フィンさん、一緒に頑張りましょう!」
リリアの明るい笑顔にフィンの緊張も少しほぐれたようだった。三人は準備を整えアークライトの森へと向かった。
森に入るとリアムは早速【真理の瞳】を発動させ周囲の情報を収集する。
『月見草の自生ポイントはこの先の湿地帯。ただし道中にはゴブリンが数体と、獲物に毒牙を向ける大型の蛇、シャドウスネークがいるな……。よし、ちょうどいい腕試しの相手だ』
リアムは二人に向き直り簡潔に指示を出す。
「この先にゴブリンが三体いる。フィン、君が一体ずつ確実に仕留めてくれ。リリアはフィンの援護を。もし敵が近づいてきたら光の魔法で目くらましをしてほしい」
「は、はい!」
「わ、分かった……!」
二人は緊張した面持ちでうなずく。リアムが指し示した茂みの向こうに、木の棒を振り回すゴブリンたちの姿が見えた。
フィンは月光の長弓を構え、深く、深く息を吸う。
以前のような手の震えはない。隣にリアムとリリアがいる。その事実が彼に勇気を与えていた。
『大丈夫。おれにはこの弓がある。仲間がいる』
フィンが矢を放つ。
矢は風を切り裂き、一瞬でゴブリンの一体の眉間に突き刺さった。ゴブリンは悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ちる。
「グギャ!?」
残りの二体が仲間の突然の死に驚き辺りを見回した。だがフィンの姿はスキル【気配遮断】によって完全にかくされている。
二射目。もう一体のゴブリンの心臓を正確に射抜く。
残るは一体。パニックになったゴブリンがやみくもにこちらへ向かって走ってきた。
「リリア!」
「はいっ! 【フラッシュ】!」
リアムの指示と同時にリリアが杖を掲げる。彼女の手から放たれたまばゆい光がゴブリンの視力を完全に奪った。
「グギャアアア!」
目がくらみもがくゴブリンの額に、フィンの三射目が寸分の狂いもなく突き刺さる。
あっという間の出来事だった。三人いたゴブリンはリアムたちがほとんど移動することなく完璧に処理されていた。
「……や、やった……! おれ、できた……!」
フィンは自分の手を見つめ、信じられないといった様子でつぶやいた。
リリアも自分の魔法が初めて実戦で役に立ったことに顔を輝かせている。
「二人とも、よくやった。素晴らしい連携だったぞ」
リアムからの賞賛に二人ははにかんだ。これが彼らにとっての初めての成功体験だった。
その後もリアムの的確なナビゲートは続く。
彼は【真理の瞳】でシャドウスネークの潜む位置とその弱点(鱗の薄い首筋)を正確に把握していた。
「フィン、あの木の根元だ。俺が囮になるから蛇が姿を現した瞬間、首筋を狙ってくれ」
リアムが石を投げて注意を引くと、茂みから巨大な黒い蛇が鎌首をもたげた。その牙には紫色の毒が滴っている。
シュルルル! という威嚇音と共にシャドウスネークがリアムに襲いかかった。だがその動きはリアムには筒抜けだった。
【シャドウスネーク:行動予測。0.5秒後、前方2メートルに毒牙による噛みつき攻撃】
リアムは予測通りに動いてきた蛇の攻撃を最小限の動きでひらりとかわす。その一瞬の隙をフィンは見逃さなかった。
放たれた矢は吸い込まれるように蛇の首筋に突き刺さる。急所を射抜かれたシャドウスネークは断末魔の叫びを上げて絶命した。
「すごい……リアムさん、全部見えてるみたい……」
「フィンさんこそ! すごい矢でした!」
二人は顔を見合わせ興奮気味に互いの健闘を称え合った。リアムは彼らの成長を実感し満足げにうなずく。
目的の月見草は湿地帯に群生していた。
鑑定スキルで特に薬効の高い株だけを選んで採取し依頼は無事に完了。街に戻り薬草師に月見草を渡すと、彼はその品質の高さに驚き報酬に銅貨を数枚上乗せしてくれた。
ギルドハウスに戻り初めての報酬をテーブルの上に並べる。
たった数枚の銅貨。だがそれは彼らが自分たちの力で、仲間と協力して勝ち取った何物にも代えがたい宝物だった。
「これが俺たちの第一歩だ。どうだった、二人とも」
リアムが尋ねるとフィンとリリアは自信に満ちた笑顔で顔を見合わせた。
「楽しかった……! おれ、もっと強くなれる気がする!」
「はい! リアムさんとフィンさんと一緒なら、どんな依頼だってきっと大丈夫です!」
彼らの瞳にはもはや以前のような怯えや自信のなさは微塵もなかった。
才能の原石たちは確かな手応えを感じ、その輝きを増し始めていた。
ギルド「方舟」の小さな、しかし確かな船出。
その噂が寂れたアークライトの街に新たな風を吹き込み始めるまで、そう時間はかからなかった。
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