第5話 すきゃんだる!


 あの後、駅まで冬月と歩いて行って。そのまま「ばいばい……」ってして。

 低い位置で手を振る冬月の姿が目に焼き付いてる……くそ、何朝から考えてるんだよ。


「……まだ、出会って二日目だぞ、裏があるに違いない」


 自分にそう言い聞かせても、やっぱりこの朝の透き通った青空も電柱も小鳥の囀りも――美しく感じてしまうのはあいつのせいで間違いない。


「はぁ、登校でこんな心臓痛くなるの運動会前くらいだろ」


 ◇


 学校に着いて教室に入ろうとすると妙に今日は騒がしい。新入生のやつかな?

 と思って「おはざいます」と入ると。


「「「きたぞおおおお!」」」


「えっ」


 一斉に視界が集まったと思えば、わらわらとクラスメイトが集まってくる。

 え!ええ、ええええっ!?なにごと!?


「おいいい!龍一てめええ!冬月さまと相合傘したってほんとかああああ」


 哲也が俺の肩を揺らしながら血走った目で顔を近づけてくる。周りのクラスメイトも何か叫んでる。


「お、落ち着け!」

「落ち着けるかああああああ!証拠あんだよお!!」


 哲也が俺にスマホを見せると、そこには冬月と俺が相合傘をして冬月に耳元で何か囁かれてる写真。

 よりによって……こいつらに。

  よりによって……この瞬間。

 神様はいたずらが好きなようだ。


「と、盗撮だああああああ!何とってんだ馬鹿野郎!」

「顔が写ってねえしおめえに肖像権あるかボケ!説明しろおお!」

「「「そうだ!龍一!俺たちにも知る権利がある!」」」


 終わった……もう、もみくちゃにされて搾り取られたサトウキビのカスみたいにされちまう。

 でも、その時だった。


 がらがらっ!!


「おい、お前らさっさと座れぇ……ホームルームを始める」


 担任の高橋先生が入ってきた。ドスの効いた低い声が教室に響く。俺に舌打ちをする音が四方から聞こえるが椅子に座って教材を取り出す。


「みんな聞けぇ……今日からな新しいクラスメイトが増える。色々と慣れないこともあるだろうから自然に迎え入れてくれよな」


 ざわざわ……ざわざわ……

 

「そういや今日だったな……」


 隣の席の哲也がポツリと呟く。まぁ、と言っても新入生は期待するもんじゃないし無だ無……


「ほら、入れ……深坂」


 がらがら


 静かにドアがスライドする。

 入ってきたのは、すらっとした体型に短いスカート、綺麗な金髪――まさにギャル。

 顔もどこか北欧チックで冬月と並ぶほどの美女だった。


「はゅぅ……」


 隣から魂が出たような声がしてくるけど無視、哲也のやつギャルが好みだったな。


「……わたし深坂……詩月……よろしく」


 えぅ!?

 声ちっさ!?え、可愛い声してるけど、見た目と声のギャップなに!?

 ざわざわ……ざわざわ……

 教室が深坂の一言でざわめいているが。


「よぉし、深坂……これでお前もこのクラスと血を分けた兄弟姉妹だなぁ……」


 高橋先生は渋い声でそういうと「奥の席座れぇ……」

 と、俺の後ろの席を指差した。こくりと頷くと、静かに机の間を歩く深坂。

 いや、見た目まじでギャルすぎるだろ、ダウナー白ギャルってやつか!?


「いてっ!」


 すると、深坂さんが隣を通ろうとした時、哲也が足を踏まれたらしい。

 こいつ少し足伸ばすくせがあるから……


「……ごめんね……見えなかったの」

「ひぅ、ぜんぜんいいっすよぉ……!」


 足踏まれたくせに――俺はわざと踏まれたに賭けるが――やけた顔でヘニョヘニョになってる哲也、なんだこいつ殺そうかな……


 ◇


 ホームルームが終わってからは、俺は興味を失われ代わりにクラスのみんなは深坂さんの周りに集まっていた。


「ねえねえ、深坂さんめっちゃ可愛い!」「深坂さん!どこからきたの!?」「深坂さん意外と仲良くなれそう!」


 色んなことを根掘り葉掘り聞かれたりしてる。


「……うん……ありがとう」


 深坂さんはゆっくりマイペースに反応してる。クラスメイトたちはインスタを交換したので満足して各々席に戻り始める。

 俺はというと、ガラケーでミニゲームをしながら時間を潰していた。うっひょーたのしいー!


「ねぇ……それ……なに?」


 妙に静かになったと思ったら、隣から可憐な声が……って深坂さんの顔がすぐ横!?まつげ長っ!


「が、ガラケーだよ……まさか!知らないの!?」

「……うん、知らない。テレビのリモコン……かと思った」


 は?こいつしばいていい?


「――んんんっ! そ、そっかぁ、でも意外といいんだよ、ほら触ってみる?」


 俺が渡すと、深坂さんはパカパカ開いたり開けたりしてボタンをポチポチする。


「……これ、エモい?」

「は? エモくないだろかっこいいだろ」


――あっ、やべ、本音出た


「ふふ……変な人……だね。お名前は?」

「お名前? 葛木龍一だよ、よろしくね」

「……うん、よろしく?」


 こうやって、俺はなぜか新入生ともすぐに仲良くなった上に冬月と相合傘をしていた男として、ミスター色男と言われることになった。

 童貞なのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る