最終季「冬日のシンフォニー」
第零雪・序「名も無き国」
その世界には、色が無かった。勿論色なんて人間の持つ主観映像の付属要素に過ぎないから、その世界に住む人々の見える物に色が無かった(光の白と闇の黒、そしてその間の灰色と言う風に、明度は理解できたのだが)と言う事だが、人々はその世界で、色が見えないだけでなく他人の心の色も見えないのだと言う風に疑う心を抱いてしまった。その疑心暗鬼は次第に膨れ上がり、遂には国家レベルでそのお互いを拒絶する心理は影響を及ぼすようになった。同じ部族同士でさえ信用が危いのだ、実際僅かの短い間に行われた国際的な交流は余りにも血生臭いエピソードで綴られていた、部族間交流なんて物は夢のまた夢、そう判断した各国首脳陣は国家間交流禁止条約を成立させた。それ以降、国と国は全く交流を絶った。人の心の色を見る事の出来る日が来る事を祈って。色が見えるようになったとして人の心の色なんて見えるわけが無いが、そんな現実的過ぎる寂しい考えを持つにはその世界の人々は余りにも無知で、そして純粋だった。
同じ国の中でも、亀裂は大きくなっていってしまった。血縁が遠くなれば成る程、人々はお互いを他人、自分に関係の無い、必要、の無い人間と見るようになった。必要無いと判断した人間された人間が互いに命を、或いは住処を奪う、そう言った事を平気でやるようになった。そして国は、部族国家から家族国家へと編成を変えた、極々少人数の共同体が、村、と呼ぶ事すら憚られるような、小さな小さな生活環境が作られていった。
だがそれは所詮国のデフォルメを量産したに過ぎなかった。元々は同じ国だった沢山の小国家、それはお互いが余りにも近付き過ぎていた。毎日のように戦争行為が行われた、そして、規模が小さい国はどんどん果てて行った、勝者となった国も拡大しては分裂を繰り返し、圧倒的な大国家が成立すると言う事は無かった。
とある一地域で、元々全体が国家であったその一地域である家族国家が生き残った。その家族国家は国家間交流禁止条約を破り、世界の調査を始めた。だが、驚いた事に、世界にはもう、人が居なかった、自分達以外に生き残れた者は存在しなかったのだ。それは、他国家地域に超破壊兵器開発に成功してしまった集団が居たせいだった。生き残った人々は余り科学力が強くは無かった、只、他の国から逃げる事が、平和を見つける事が上手かったから生き延びる事が出来た(野心を抱いた他国家がこの国の殲滅よりも外国の侵略に目を向けて去って行っていた事も幸いした)と言うだけだからその科学兵器の詳細は分からなかったが、一国家を丸呑みに出来る程の破壊力を持っていたらしい事は分かった、元々国家が有った他の地域は、全てが全て海になっていたからだ。人々はそれを、涙の海、と呼んだ。
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