第七章 新たな試練と絆 06
「よし、これで安全なはずだ。あとは、どうやってこの門を開けるかだが……」
俺がそう呟いた時、リリアが何かを思い出したように声を上げた。
「レオンさん! 以前、ギルドから頂いた資料の中に、判読不明だった古文書がありましたわよね? その一部に、奇妙な音階のようなものが記されていたのを覚えています。もしかしたら、あれが……」
俺たちは急いでその古文書を取り出し、該当箇所を鑑定する。
――鑑定対象:古文書の音階図――
【情報】古代都市の門を開くための『聖なる音階』の一部。ただし、一部が欠損、あるいは意図的に改竄されている可能性あり。正しい音階を奏でなければ、逆に防衛システムが作動する危険性も。
「これだ! リリア、この音階を魔法で正確に再現できるか? ただし、少しでも間違えると危険なことになるかもしれない」
「……やってみますわ。わたくしの絶対音感と、レオンさんの鑑定による微調整があれば、きっと正しい音階を導き出せるはずです!」
リリアは深く集中し、杖の先に魔力を込めていく。
そして、彼女の唇から、澄んだ、しかしどこか神秘的な旋律が紡ぎ出された。
俺は鑑定スキルでその音階をリアルタイムで解析し、僅かなズレを指摘する。
リリアは即座にそれを修正し、より完璧な音階へと近づけていく。
数分後、リリアの奏でる音が、ついに古文書に記された『聖なる音階』と完全に一致した。
その瞬間、目の前の巨大な岩壁が、ゴゴゴゴ……という地響きと共にゆっくりと内側に開き始めたのだ。
「やった……! 開いたぞ!」
俺たちの目の前に現れたのは、薄暗く、どこまでも続くかのような巨大な洞窟だった。
湿った空気と、古代の石が発する独特の匂いが鼻をつく。
「ここが、『陽炎の蜃気楼』への入り口……」
セシリアが息を呑む。
その先には、俺たちの想像を絶するような光景が広がっているのだろう。
「ミーナ、頼む。ここからはお前の独壇場だ」
「……任せて。どんな罠があろうと、アタシが見つけ出す」
ミーナは短く答えると、音もなく洞窟の闇へと溶け込んでいった。
俺たちは、彼女の合図を待ちながら、息を潜めてその場に待機する。
しばらくして、ミーナが戻ってきた。
「……最初の区画、罠は解除済み。ただし、この先、かなり複雑な迷路になってる。それに、定期的に巡回してるらしい、機械のゴーレムみたいなやつの気配も感じた」
「よし、行くぞ。セシリアは前衛、リリアは後方支援、ミーナは引き続き先行偵察と罠解除。俺は全体の指揮と鑑定を担当する。常に連携を意識し、決して単独行動はするな」
俺たちは、ミーナが確保したルートを慎重に進んでいく。
洞窟内部は、まるで巨大な蟻の巣のように入り組んでおり、壁には所々、古代文字のようなものが刻まれている。
俺はそれらを鑑定し、リリアに解読を依頼する。
その中には、都市の歴史や、あるいは警告のようなものも含まれていた。
「レオンさん、この文字によると、この都市はかつて『風を司る民』によって統治されていたようですわ。彼らは高度な魔法技術を持ち、空に浮かぶこの都市を築き上げたと……。そして、都市の深部には『風の聖域』と呼ばれる場所があり、そこに都市の力の源が眠っていると記されています」
「風の聖域……そこが、俺たちの最終目標である中央の塔の最上階に繋がっているのかもしれないな」
俺たちは、リリアが解読した配置図と、俺の鑑定情報を頼りに、迷路のような通路を進んでいく。
ミーナの的確な誘導と罠解除のおかげで、ここまで大きなトラブルに見舞われることはなかった。
遺跡の奥に進むにつれて、明らかに空気の質が変わってきた。
ビリビリとした魔力の圧力を肌で感じる。
遠くから、規則的な金属音が聞こえ始めた。
「……来る。数が、多い」
ミーナが、壁に耳を当てながら呟いた。
次の瞬間、通路の奥から、複数の影が現れた。
それは、以前戦った遺跡防衛ゴーレムに似ているが、より大型で、禍々しいオーラを放っている。
その手には、鋭い刃や、魔力を帯びた砲身のようなものが装備されていた。
――鑑定対象:古代機械兵団『ゲイル・センチネル』×5――
【種族】魔法人形(古代風の民の遺産)
【ステータス】筋力B+ 敏捷B 耐久A 魔力C+
【スキル】プラズマブレードLv.3、魔力キャノンLv.2、自己修復機能(小)、連携攻撃Lv.2
【弱点】胸部中央の青いコア、関節部分の動力パイプ(雷属性・風属性攻撃に極めて脆弱)
【備考】『陽炎の蜃気楼』の中枢部を守護するために配置されたエリート兵団。一体一体がC級上位の冒険者パーティーに匹敵する戦闘能力を持つ。連携攻撃を得意とし、魔法障壁もより強固。
「ゲイル・センチネル……! こいつら、以前戦ったゴーレムよりも遥かに手強いぞ! セシリア、リリア、準備はいいか!」
「望むところよ! あたしの新しい剣技、試させてもらうわ!」
セシリアが剣を抜き放ち、その全身から蒼い闘気が立ち昇る。
『剣気解放』が発動したようだ。
「はい、レオンさん! いつでも『聖域創生』を展開できますわ! リリア、こいつらの弱点は雷と風よ! 属性付与、お願い!」
「承知いたしましたわ 瞬きの風刃よ、雷鳴の衣を纏え! 『エンチャント・ライトニング・エッジ』!」
リリアの詠唱と共に、セシリアの剣が眩い稲妻を纏った。
「ミーナ、お前は敵の死角からコアを狙え! 俺は鑑定で敵の動きと弱点を指示する! 行くぞ!」
俺の号令と共に、『星影の羅針盤』と古代機械兵団との激しい戦いの火蓋が切って落とされた。
五体のゲイル・センチネルは、寸分の狂いもない連携で俺たちに襲い掛かってくる。
プラズマブレードが空を裂き、魔力キャノンが轟音と共にエネルギー弾を放つ。
「セシリア、右の個体、斬り上げと同時に左ステップで回避! その後、胸のコアを狙え!」
「リリア、中央の個体に足止めする魔法を! ミーナ、左翼の個体、背後の動力パイプががら空きだ!」
俺の鑑定による指示が飛び交い、仲間たちはそれに見事に応えていく。
セシリアの雷を纏った剣がセンチネルの装甲を切り裂き、リリアの魔法が敵の動きを的確に阻害する。
ミーナは影から影へと舞い、神出鬼没の攻撃で敵を翻弄した。
しかし、ゲイル・センチネルの自己修復機能と連携攻撃は厄介だった。
一体を倒しても、すぐに他の個体がカバーに入り、ダメージを受けた個体は後方で修復を開始する。
「くっ……キリがないわね!」
セシリアが歯噛みする。
戦闘は長引けば長引くほど俺たちが不利になる。
「リリア、『聖域創生』を展開してくれ! 一気に畳み掛けるぞ!」
「はいっ!」
リリアを中心に柔らかな光のドームが広がり、俺たちの傷が癒え、力が漲ってくる。
同時に、センチネルたちの動きが僅かに鈍った。
「今だ! 全員で中央の個体に集中攻撃! コアを破壊しろ!」
俺の号令一下、セシリアの渾身の一撃がセンチネルの胸部コアを貫き、リリアの追撃の魔法が爆ぜる。
ミーナの投げナイフが、僅かな隙間から正確に動力パイプを寸断した。
一体、また一体と、古代の守護者たちがその機能を停止していく。
そして、ついに最後のゲイル・センチネルが、大きな金属音と共に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……やったか……!」
激しい戦闘の余韻の中、俺たちは肩で息をしながら、周囲に転がる機械兵団の残骸を見つめていた。
遺跡の試練は、まだ始まったばかりなのだ。
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