第六章 ドブネズミの戦い 06

「影が……アタシの……一部……?」


 ミーナは自分の手を見つめ、そしてゆっくりと周囲の闇へと視線を移した。


 その瞳には、先ほどまでの絶望ではなく、ある種の理解と、そして決意が宿り始めていた。


「そうよ、ミーナ。あんたは、あたしたちの大事な仲間じゃない!  あんたの力が必要なの!」


 セシリアが剣を構え、盗賊の一人を薙ぎ払いながら叫ぶ。


「ミーナさん!  あなたのその素晴らしい能力を、わたくしたちは誰よりも信じていますわ!」


 リリアも杖を掲げ、牽制の魔法を放ちながら力強く言った。


 仲間たちの声が、ミーナの背中を押す。


「……ああ……そうか……アタシは……一人じゃ、ない……」


 ミーナの呟きと共に、彼女の身体から黒い霧のようなオーラが立ち昇った。


 それは周囲の影と共鳴し、みるみるうちに濃度を増していく。


 彼女の姿が、まるで影そのものに溶け込んでいくように揺らめいた。


――鑑定対象:ミーナ――

【称号】影の舞姫

【ステータス】筋力C 敏捷S+ 耐久B- 魔力C+ 幸運A

【スキル】影潜(シャドウダイブ)Lv.EX(覚醒済)、影縫いLv.1、気配遮断EX、投擲術Lv.4、罠解除Lv.A、情報収集Lv.S、危険察知Lv.SS、影移動(ショートワープ)Lv.1

【状態】才能覚醒完了(影の支配者)、魔力循環最適化、精神高揚

【備考】周囲の影を自在に操り、自身の能力を大幅に向上させる。影への潜伏、影を介した高速移動、影による束縛などが可能となった。


 やった! ミーナ、覚醒したんだ!


 鑑定結果に表示された新たなスキルと、彼女のS+にまで跳ね上がった敏捷性。


 そして何より「影の舞姫」という新たな称号。


 今の彼女なら、この状況を打破できる!


「フン、小細工を弄したところで……!」


 サラが忌々しげに吐き捨て、手下の盗賊たちに攻撃を命じる。


 しかし、次の瞬間、盗賊たちは自分たちの足元の影が、まるで生き物のように伸びて自分たちの足首に絡みついてくるのを見て驚愕した。


「な、なんだこりゃあ!?」

「足が……動かせねえ!」


 ミーナの新しいスキル、『影縫い』だ。


 複数の敵の動きを同時に封じている。


「ミーナ、すごいぞ!」

「今よ、セシリア!」

「任せなさい!」


 動きを封じられた盗賊たちを、セシリアの剣技が一閃する。


 リリアの魔法が的確に援護し、次々と敵が数を減らしていく。


 ミーナ自身は、まるで踊るように影から影へと音もなく移動していた。


『影移動(ショートワープ)』。


 短距離ながら、瞬間移動に近い芸当だ。


 敵の攻撃は空を切り、彼女の投げナイフが的確に急所を捉える。


 その動きは、以前とは比較にならないほど洗練され、そして何よりも自信に満ち溢れていた。


「馬鹿な……あのドブネズミが、これほどの力を……!?」


 サラが愕然とした表情でミーナの戦いぶりを見つめている。


 彼女のプライドが、かつて見下していた存在に打ち砕かれていくのが見て取れた。


「サラ……あんたに教わったことは色々ある。けどな、一番大事なことは、レオンたちが教えてくれた」


 ミーナの声は静かだが、揺るぎない強さがそこにはあった。


 彼女はサラの目の前の影からスッと姿を現す。


「仲間を信じること。そして、自分自身を信じることだ!」


 ミーナの言葉と共に、彼女のナイフがサラの懐へと閃く。


 サラは辛うじてそれを避けるが、その顔には焦りの色が濃くなっていた。


「リリア!  サラの動きを封じてくれ!  ミーナ、セシリア、一斉攻撃だ!」


 俺の指示に、三人が呼応する。


 リリアの魔法がサラの行動範囲を限定し、セシリアが渾身の剣撃を叩き込む。


 ミーナが影の中から現れ、サラの武器を持つ手に正確にナイフを突き立てた。


「ぎゃあああっ!」


 サラの悲鳴が袋小路に響き渡る。


 武器を落とし、戦意を喪失した彼女は、その場に崩れ落ちた。


 残りの盗賊たちも、覚醒したミーナと俺たちの連携の前に、すでにほとんどが無力化されていた。


 盗賊団「影狐」は、こうしてミーナの活躍により壊滅した。


 衛兵への引き渡しを終え、アジトに戻る道すがら、ミーナはどこか吹っ切れたような、晴れやかな表情をしていた。


「レオン……ありがとう。アタシ、自分の力がこんな風に役立つなんて、思ってもみなかった」


「当たり前だ。ミーナの力は、最初からずっと俺たちのパーティーに必要不可欠だったんだ。俺はそれを信じていただけだ。おめでとう、ミーナ。本当によく頑張ったな」


 俺がそう言うと、ミーナは少し照れたように俯いたが、その口元には確かな笑みが浮かんでいた。


「……アンタの『眼』、やっぱり本物だった。アタシも、少しは自信、持ってもいいのかな」


「もちろんさ。ミーナは、俺たち自慢の『影の舞姫』なんだからな」


 セシリアとリリアも、口々にミーナの活躍を称賛する。


 ミーナは照れながらも、嬉しそうにその言葉を聞いていた。


 アジトに帰り着くと、ささやかながらミーナの「覚醒祝い」と「お疲れ様会」を開いた。


 俺の得意料理と、リリアが隠し持っていた少し良いお酒。そして、セシリアの底抜けに明るい声。


 ミーナは、最初は戸惑っていたが、やがて仲間たちの温かい輪の中で、心からの笑顔を見せてくれた。


 その笑顔は、俺たちが今まで見た中で、一番輝いていた。

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