されど幼い。
チャーシュー麺
第1話 気づき
朝には、太陽がのぼり、小鳥がさえずり、その音を始めとして
街中はそれぞれの家庭の音で溢れていく。
だいたい朝日が空を完全に照らす頃には、「行ってきます」の声が
街のそこら中に広がっている。
僕も例に違わず、「行ってきます」を家族に向けて言う。
当然、「行ってらっしゃい」が返ってくる。
だが、最近僕の「行ってきます」と、家族の「行ってらっしゃい」が、
うまく噛み合わない。いや、僕が噛み合わせていない。
本来、「行ってきます」とは「行ってきますが、必ず帰ってきます」を意味し、
対して「行ってらっしゃい」は、「行って、必ず帰ってらっしゃい」を意味する。
しかし、僕の「行ってきます」は、
ただ単に目的地に行ってくることを示唆する意図でしか、使われていない。
・・・・・家に、帰りたくないのだ。
だから、ぼくは「行ってらっしゃい」を、誰からも言われたくない。
約束された帰還が、僕は大嫌いだ。
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いつからだろうか、こんな気持ちになり始めたのは。
何一つ不自由なく日常を過ごさせてもらっているのに、謎の”寂しさ”と”焦燥感”が、
僕の服の裾を引っ張ってくる。学校に行こうと思っても、足が学校に向かない。
何かしようと思っても、何もしたくない。
そんな気持ちは、高校に入ってから1年以上続いた。
そして、気がついた。
焦燥感のせいで寂しさを感じるのではなく、
寂しさを感じるせいで、それに伴って焦燥感も僕を追ってくるのだと。
”寂しさ”がこの気持ちの権化であるのだと。
本能ではわかってたはずだが、実際にそれを認識し直すと
大きな孤独感と、どうしようもないやるせない気持ちが僕の心を包む。
だから、少し悪いことをしたくなるのもしょうがないと思っている。
もちろん、悪いことっていうのは、
人を殴るとか、何かを盗むとか、「人様」に迷惑をかけることではなく、
親が寝てそのままになっている缶ビールに口をつけるとか、少しだけ深夜を
徘徊してみるとか、そういう類のものだ。
そういう行為をすると、
自分が人とは違うことを感じられて、少しだけ気が楽になった。
「ああ、自分は今、普通じゃないんだ。だから、休んでもいいんだ」って。
いや、ただ誰かに見つけてほしかっただけなのかもしれない。
気持ちを共感してもらいたかっただけなのかもしれない。
だからあの時も、声をかけたんだ。
秋が終わり、西から冷たい木枯らしが吹き始めていた。
まだ白い雪は降らず、空は灰色の雲を示す。
なんとなく学校に行きたくなくて学校をサボった日、
僕は隣にいる、 ”人” に声を掛けた。
「あなたも、学校をサボったんですか?」
「・・・・・」
返答はない。
当たり前だ。だって、互いに知らない人なんだから。
見た感じ、同じ高校生だろう。僕の半径3メートル付近に座って、
地面の石をいじっている。性別は女性で、背丈は僕より一回り小さい。
なぜ話しかけたのかは、寂しさと虚無感が混ざった気持ち、
俗に言う「どうでもいい」という気持ちが、僕の心を覆っていたからだ。
まあ、返事は来ないだろうと思い、自分もスマホを触って暇をつぶし始めた。
僕らが今座っているのは、橋が作る台形の下底に当たる場所、
つまりは橋の下だ。僕はよく学校をサボった日にここに座って、
嘘をついて学校を休んだ複雑な気持ちを、目の前の川に洗い流してもらっている。
今日も例に違わず、学校をズル休みしたあとに、橋の下へと来ていた。
誰かがいてほしかった。誰でも良いから、話したかった。一緒にいたかった。
そんなどうしようもない淡い期待を常に胸に抱いていた。
「今日は・・・誰かいるかな、」
・・・・・・・いた。
そして、今に至る。
「・・・・・」
「・・・・・・・」
無言が続いている。息が詰まりそうだ。
・・・スマホを見よう。
何もしようがないので、スマホを取り出そうとポケットに手を入れた直後。
突然、言葉が飛んできた。
「ねえ、」
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