デュアルランナー 〜自称美少女JK早乙女チアキと吸血鬼少女による人生成り上がり計画〜

空蝉みかげ

第1話 チアキとアリス

「緊急会議をはじめるわよ。アリス」


 花も恥じらう可憐な女子高生、私こと早乙女チアキは居候であるアリスとちゃぶ台を囲んで座っていた。


「いきなりなんじゃ? 藪から棒に」


 アリスは不思議そうな顔をしていた。こいつはまた私が変なことを言い出したなぁ、とか思っているんだろう。だがしかし——。


「今月もお金がピンチなの」


 事態は深刻なのだ。月初だというのに財布の中身はスカスカで、おまけに今現状、私のお腹もペコペコである。


「なんじゃいつものことじゃないか」


「いつものことって何よ。ただでさえ貧乏だってのに居候のアリスがいるからお金がかかるのよ。食費代だってバカにならないし、アリスがいま着てるそのとってもカワイイお洋服だってなけなしの貯金をはたいて買ってあげたものなのに」


「むぅ、でもチアキはノリノリで服選んでたぞ。無理して高いものにしなくてもよかったとおもうぞ」


「アンタみたいなカワイイ子にはカワイイ服が必要なのよ。じゃなきゃもったいないでしょ」


 そう、いま私の目の前にいるこの居候、名前はアリスというのだけど、これまた整った顔立ちをしているのだ。まつ毛は長いし、お目々はくりくり、顔はちっちゃいし、金髪碧眼の異国人めいた特徴をしている。


 つまるところ美少女なのだ。お人形さんみたいで愛くるしいったらありゃしない。


「こんなフリフリなカッコウがいいのか? チアキの趣味はようわからんのぉ」


 アリスはお洋服の端をつまんで困ったような顔を浮かべていた。純白のフリルワンピース。美少女じゃなけりゃ着れない一品だ。私みたいなキラキラから程遠い女子には縁のないもの。


 でも、まぁ……彼女からしたら動きやすいものの方がよかったのだろう。アリスは活発な女の子だから尚更だ。


「そいで? チアキがいまお金にこまってるのはわかったが……まぁ、それはいつものことじゃが……どうしたいの?」


「普通のバイトじゃお金稼ぐのにコーリツ悪いの。でね、やっぱりアリスにも離界者狩りのお手伝いをしてもらおうかと思うのよね。アンタって腕っぷし強いし、おまけに不死身だから私の力になるわ」


「ああ、たしかチアキはランカーと呼ばれるヤツじゃったな。ランクはいくつ?」


「五◯九一万八九七一……まぁ、底辺レベルね」


「おおー、よわい。そんなんでよくワシを倒せたものじゃな? ぐーぜんか? ぐーぜんなのか?」


「私は常に人型相手を想定した脳内シミュレートしてるの。だからアリス相手にカッチリはまったし、その時のコンディションも良かったのよ。確か、その日のお昼ご飯も牛丼だったはずだし」


「まぁ……チアキのせこせこ戦術は普通のもんには通用せんじゃろうな。あんなきたない戦い方をするヤツ、ワシ知らんもん」


 アリスがそんなことを言うので、私はちゃぶ台に身を乗り出して彼女の顔を真下から覗き込んだ。


 その時の私は何処かイタズラっぽく、そして楽しそうな顔をしていたと思う。


「でも、そのおかげでアンタっていう唯一無二の報酬が手に入ったのよね。代わりなんてないものがね」


 そう、今の私にとってアリスは大事な家族。


 十年前に発生した離界者による『東京侵略事変』で家族を失い、長らく孤独だった私の前に彼女は現れた。


 最初はやっぱり敵対しちゃったけど、アリスをどうにか無力化できてよかったと思う。


 貧乏なのは仕方ないし、頑張ればどうにかなるもの。だけど、心の拠り所だけはどうにもならない。だから私にとってアリスはなくてはならない存在なのだ。


「う、うむ……そうか」


 アリスは照れくさそうに視線を逸らしていた。


 そんなところも中々キュートなものである。


「というわけだからアリスも私のランカー活動の応援よろしくね。もりもりランクを上げていつかは特務機関DARSの一員になるのよ。そうすれば安定した生活も手に入るから」


「先は長くなりそうじゃのぉ……」


 またアリスは眉根を下げて困ったような顔を浮かべていた。


「というわけで夜まで時間あるから内職しましょ。はいコレ、シール貼り」


「またメンドーな作業かや」


 アリスはブツクサ文句言いながらも私の内職を手伝ってくれた。


 『離界者』というものは日中にも現れるが、やはり夜中の方が活発で探し回る効率を考えるなら日中は避けた方がいい。


 とはいえ、それなりにリスクのある行為だが、背に腹は変えられないもので、生きるためならそれを承知でいかなければならないものだ。


 ……と、こういった導入なわけだけど、これからの物語を展開するうえで私がランカーになった経緯やアリスとの出逢い、この世界に存在する『離界者』のことを話さなければならないだろう。


 それはなんというか涙ぐましい苦労話だ。


 できれば快くお付き合いしていただきたいものである。

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